りん(見上愛)が働き始めた瑞穂屋の客である、シマケンこと島田健次郎。外国語に造詣が深く、自らを「今は何者でもない、変わり者」と称する彼は、りんの良き相談相手になっていく。そんなシマケンを演じるのは佐野晶哉。シマケンはりんに対してどのような感情を抱いたのか――。まず、初の連続テレビ小説出演に対する思いについて聞いた。
“朝ドラ”出演は、今叶えなければならない夢でした

――連続テレビ小説初出演、決まったときの率直な気持ちから聞かせてください。
めちゃめちゃ嬉しかったです。いつか叶えたい、叶えないといけない夢だと思っていたのですが、まさかこんなに早く出演できるなんて、考えてもいませんでした。80歳になった祖母と1年前まで一緒に住んでいたんですけれど、その祖母が“朝ドラ”の放送を毎日楽しみにしていて「まぁ(晶哉)は、いつ朝ドラに出るんや?」と、プレッシャーをかけられていたんです(笑)。
――それは、なかなかのプレッシャーですね。
オーディションの話をいただいたときには「いつかじゃなくて、今、叶えなあかん。ばぁばに見てもらえるように、絶対出たい」と思って、気合いを入れて臨みました。そうしたら、まさかの合格をいただけて。いつも仕事が決まったら事前に家族に話すのですが、今回は合格の重みが自分の中でデカすぎて、公式発表と同時に言おうと思いました。いつも「佐野晶哉」でエゴサーチをしている祖母は、ファンの方たちと同じタイミングで知ったみたいで、ビデオ通話したら泣いてくれて……。嬉しかったですねぇ。「これで親孝行、ばぁば孝行ができる。頑張らな!」と思いました。今は「朝ドラに孫が出る」と言い回ってくれているみたいです(笑)。

――島田健次郎役に決まって、彼の人物像をどのように捉えましたか?
登場シーンから謎めいていて、なかなか素性を明かさない、謎の男ですね。でも、ちょっとずつシマケンが何者なのかがわかり、彼自身が抱えている葛藤やりんさんへの気持ちといった、いろんな面が緻密に描かれていきます。演じがいのある役、すごく魅力的なキャラクターやと思います。
シマケンのイメージは、撮影が始まってから大きく変わりました
――お芝居については、どんなふうに作っていきましたか?
僕が持っていた彼の情報としては「興味があることに対してはペラペラと喋れるけれど、人と1対1になったら、なかなか言葉が出てこない」人物。今の言葉で言うとオタクっぽいキャラクターで、ある意味、情けないところもあるのかなと。
実際にお芝居をしてみたら、そういう面はありつつも、実はすごくとっつきやすく、人から愛されやすいキャラクターです。最初に自分の中で想定していたよりも明るいキャラクターのような気がします。周囲の人との関係性の中で、シマケンがどんどん可愛く思えていって。
――そうすると、最初に台本を読んだときのイメージから大きく変化したということですか?
撮影に入る前と入ってからで、こんなに役のイメージが変わったのは初めてかもしれないです。台本のト書きとして「シマケンが笑う」「りんと目が合ってあたふたする」と印象的に書かれていたので、話すときに相手の目を見なかったり、女性と話しても笑顔すら見せなかったりと謎な男だと思っていました。でも、それでは誰にも好かれないし、愛されるキャラクターにはなり得ない。そのあたりのバランスがかなり変わっていった気がします。
自分の言葉で前を向いてくれたりんを、すごく眩しく感じました

――シマケン自身は、りんのことがかなり気になっていますよね? 何がきっかけだったと感じますか?
りんさんとの出会いは、フランスの方が瑞穂屋にやってきて、言葉がわからず困っているところを助けたシーンです。そのタイミングでは「素敵な女性だから助けてあげよう」みたいな下心はシマケンには全くなくて。「本を選びながら、ついでに喋っています」でした。が、りんさんから率直に「(真っ当に)見えないですねえ」と言われてしまって……。その素直さ、飾らなさから、急に興味を持って惹かれていくのだと思います。

――団子屋で一緒に「とんび」を飛ばしながら、シマケンが自分の過去を語り始めて、りんの心の中にあるもやもやを晴らしていきます。すごくいい雰囲気でした。
りんさんのもやもやと自分自身のもやもやは重なっているのですが、彼は自覚していなくて。自分のもやもやを晴らすために言い聞かせている、自分のために紡いでいる言葉が、たまたま同じような状況に置かれているりんさんにも響いていたのだと思います。自分が発した言葉でりんさんが前を向いてくれた。シマケンはすごく言葉を大事にしているので、自分の言葉を肯定してくれたりんさんの姿がすごく眩しく、きらめいて見えて、恋心にかわっていくのかなと思っています。
――佐野さんの目には、りんのような女性はどのように映りますか?
強い女性ですね。あんなふうに、僕は絶対生きられないなと思います。いろんな過去と戦いながら、でも、今は今で流れている時間をしっかり生きている。たくましい女性ですね。僕自身とも違うし、シマケンとも全然違う。そういう部分にもシマケンは惹かれていくんだろうなと思いながら、お芝居しています。
現場でのヘアセットはしていません!

――吉澤智子さんが書かれた「風、薫る」の台本の印象について聞かせてください。先ほど、ト書きの話もされていましたが……。
シマケンの心の声を表現するト書きが、めっちゃ多いんです。いろんなところに書いてあって「むずすぎるやろ!」と思うのですが(笑)、でも演じてみたら、そのシマケンの気持ちはすごくしっくりきます。シマケンは、吉澤さんの愛がすごく深い役やなと感じますね。
――シマケンの扮装について、何かお気に入りのポイントはありますか?
髪の毛ですね。実は、メーク室でのヘアセットがないんですよ、毎日。シマケンは、髪の毛からフケが落ちるぐらい悩んで頭を掻く癖があると聞いていたので、「じゃあ、ボサボサやろ」と。いつも寝癖のままというか、朝起きて自分で鏡を見て、その日の寝癖を活かしつつ、「きょうはこのシーンやから、繋がり的にこうあるべきかな?」と思いながら、自分で直して……。いい感じにボサボサに見えるように事前にパーマもかけて、からだ用の固形せっけんで髪の毛を洗ってバサバサに乾燥させています。シーンの中で頭を掻きますが、その掻いた後のニュアンスが自分でも好きで「やってよかったな」と思いました。

――初めて経験する連続テレビ小説の撮影現場で、どんな日々を過ごしていますか?
楽しいです! 「なんて、いい現場なんや!」と毎日思いながら過ごしています。温かさがありつつ、全員が“朝ドラ”という国民に愛される作品を作っているプライドを持っていて。ひとりひとりが、役に対して、自分の仕事に対してのこだわりやプライドをめちゃめちゃ持ちながら、でもすごく譲り合っている感じがして、「ああ、この空気で撮っているから、こういう質感の映像が生まれるんやなぁ」って、納得させられています。ほんま、何かファミリーというか、包容力がすごくて家族感がありますね。
――撮影現場で「これが“朝ドラ”なのか!」と驚いたこともありますか?
リハーサルだけの日があるという“文化”が衝撃でした。月曜日のリハーサルでちゃんと根っこの部分まで話し合い、そのシーンへの理解が深くなった状態で、何日か寝て、お芝居の鮮度だけを戻して現場に臨めるというのが、ものすごくありがたくて。めちゃめちゃ「この文化、広まれ!」と思いました。監督とみっちり話し合いながら作品作りができるので、ほんま、良い経験になっています。
――最後に、佐野さんが感じている「風、薫る」という物語の魅力は?
現代の僕たちもコロナ禍を経験したことで、医療や看護の世界をさらに身近に感じられるようになったと思います。台本を読みながら「今の僕らのことが描かれているんじゃないか?」と思うような、重なる感情がすごく多くて。その「距離の近さ」みたいなものを感じたのが、すごく面白かった部分ですね。ご覧になる方にも感じていただけたら嬉しいです。