今年で3回目となる「N響大河ドラマ&名曲コンサート」が、3月5日にNHKホール(東京・渋谷)で開催されました。NHK大河ドラマのオープニングを彩ってきたテーマ曲の数々。今年は<特別編>と銘打って、和楽器や合唱も登場する華やかなステージになりました。演奏するのは、大河ドラマのテーマ曲演奏のほとんどを受け持ってきたNHK交響楽団(N響)。いわば“本家本元”によるコンサートです。NHK財団N響担当の松井治伸による観覧リポートです。

タクトを執ったのは、注目の若手指揮者・沖澤のどかさん
会場のNHKホールは、家族連れや友人同士など、大勢の観客が詰めかけました。
オープニングは、2007年の「風林火山」(作曲 千住明)。主人公は、武田信玄に仕えた名軍師・山本勘助です。武田の騎馬隊が野を駆けるような勇壮なテーマ。ダイナミックなサウンドが会場いっぱいに広がり、大河ドラマの世界の幕が開きました。

この日の指揮は、沖澤のどかさん。沖澤さんは、2019年、国際的な指揮者の登竜門であるブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。現在、国内外で活躍中の注目の若手指揮者です。
沖澤さんは子どものころ、お父さんが大河ドラマを熱心に見ていたそうで、テーマ音楽が聞こえてくると「あ、大河の時間だな」ということがわかったそうです。
今年のコンサートは、「和楽器をはじめとした様々な楽器や合唱も登場して、日本の作曲家による名曲の展覧会とも言える内容です」と、コンサートの聴きどころを語ってくださいました。
続いては、現在放送中の「豊臣兄弟!」(作曲 木村秀彬)です。小一郎(豊臣秀長)と藤吉郎(豊臣秀吉)の兄弟が高みを目指して駆け上がってゆくような、躍動感あふれる音楽です。楽員が足を踏み鳴らす「ストンプ」も登場し、迫力満点のステージになりました。
特別ゲストの高橋英樹さんが登場!

ここで、大河ドラマといえば、やはりこの方。今年も、俳優の高橋英樹さんが特別ゲストとして登場。高橋さんは、昨年の「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺〜」まで、これまで10本の大河ドラマに出演しています。高橋さんは、「大河ドラマに出演して広く知ってもらえるようになったことで、俳優としてやっていく自信がつきました。それで結婚しました!」と、会場の笑いを誘っていました。
電子楽器や和楽器とのコラボレーションも


今年の「大河ドラマ&名曲コンサート」では、ふだんオーケストラではあまり目にしない楽器が登場する曲も披露されました。
ともに池辺晋一郎作曲の「独眼竜政宗」(1987年)と「八代将軍 吉宗」(1995年)には、「オンド・マルトノ」という電子楽器が使われています。1928年にフランス人のモーリス・マルトノが発明したもので、柔らかく丸みを帯びた神秘的な音が特徴です。
「独眼竜政宗」のテーマ曲は力強く豪快な作品。オンド・マルトノは曲の随所で、その個性的な音を聴かせていました。
一方の「八代将軍 吉宗」では、そのオンド・マルトノに加えて、「二十五絃筝」も登場。日本の伝統の筝の絃は13本ですが、二十五絃筝はこれを25本に増やして音域を広げたものです。「八代将軍吉宗」のテーマ曲は、爽快なメロディーの活気に満ちた音楽。二十五絃筝が、きらびやかな音色を添えていました。
「春日局」のテーマ曲には児童合唱が登場

次は「春日局」(1989年/作曲 坂田晃一)です。橋田壽賀子さんの脚本による「おんな太閤記」「いのち」に続く、女性が主人公の作品でした。テーマ曲は、優美な中にもひたむきな思いを感じさせるメロディーが印象的です。NHK東京児童合唱団の児童合唱も加わり、しっとりとした世界が広がりました。

ここで、「春日局」の作曲者の坂田晃一さんが登場。実は、テーマ曲にもともとあった女声合唱の楽譜が失われてしまったため、今回、坂田さんがそれを児童合唱にして復元したのです。
坂田さんは「主人公・春日局は、のちの将軍家光の乳母。2人は、いわば母と子のような関係なので、子どものイメージに合わせ、児童合唱の形で合唱パートを復元しました」と今回の復元のいきさつを話してくださいました。
再現された「源義経」のテーマ曲 60年ぶりに“復活演奏”


今回の「大河ドラマ&名曲コンサート」は<特別編>と銘打たれたこともあり、貴重な作品も演奏されました。それが、「源義経」(1966年/作曲 武満徹)です。日本を代表する作曲家、武満徹が唯一手がけた大河ドラマのテーマ曲ですが、実は、断片的なスケッチしか楽譜が残っていませんでした。そこで今回、残された音源も参考にしながら、作曲家・坂田晃一さんが再現版を作成したのです。ドラマが放送されたのが1966年。60年ぶりに「源義経」のテーマ曲が、この日のステージで復活しました。
曲には、和楽器の薩摩琵琶と龍笛が登場します。冒頭、薩摩琵琶が力強くかき鳴らされると、龍笛が冴え冴えとした音色で、義経の悲運を思わせるテーマを奏でます。和楽器とオーケストラによる見事な共演でした。

この日は武満作品からもう1曲、NHKドラマ「夢千代日記」のテーマ曲も披露されました。ドラマは山陰の温泉町を舞台に、吉永小百合さん演じる被爆2世の芸者・夢千代と、彼女をとりまく人々の心の触れ合いが描かれます。ドラマの世界そのものの、切なくも優しいメロディーが心に残りました。
特別ゲスト・高橋英樹さんの大河ドラマデビュー作「竜馬がゆく」も

次は、「竜馬がゆく」(1968年/作曲 間宮芳生)です。この日の特別ゲスト、俳優の高橋英樹さんは、この「竜馬がゆく」の武市半平太役が大河ドラマデビュー。物語途中で武市半平太は切腹するのですが、高橋さんの人気の高まりとともに視聴者から多くの「助命嘆願」がNHKに寄せられたため、死ぬ回が先に延びたそうです。
当時のことを高橋さんは、「撮影現場は大変でしたが、若かったからできました。当時私は24歳、今は82歳ですから」とおっしゃると、会場からはどよめきが……。高橋さんお若い!
「竜馬がゆく」のテーマ曲は、行進曲調のはつらつとした音楽。新時代を切り開いた竜馬の意気盛んな様子が目に浮かんできます。
前半の締めくくりは男声合唱とのコラボレーション

「大河ドラマ&名曲コンサート<特別編>」、前半最後の2曲には、男声合唱が加わりました。まずは「徳川家康」(1983年/作曲 冨田勲)。男声合唱が歌い出す荘重なテーマが徐々に盛り上がってゆく音楽は、天下人を目指して一歩一歩歩んで行った家康の生涯を思わせます。
もう1曲は「新選組!」(2004年/作曲 服部隆之(「隆」は生の上に一がある旧字))。生き生きとした音楽は、新選組の若者たちの燃えあがる思いそのものです。後半、合唱とテノール・ソロが加わることでいっそう盛り上がりました。
大河ドラマにちなんだ、「川」と「河」にゆかりのある名曲も登場

コンサート後半は、大河ドラマにちなんで、「川」「河」ゆかりの名曲が披露されました。
最初は、ワーグナー(フンパーディンク編)の楽劇「神々のたそがれ」から「夜明けとジークフリートのラインの旅」。主人公の英雄・ジークフリートが、ライン河へと旅立つ場面の音楽です。まさに大河を思わせる雄大な音楽。続くは、イヴァノヴィチのワルツ「ドナウ川のさざ波」。こちらは、愁いを帯びたメロディーが印象的。そして最後は、スメタナの交響詩「モルダウ」。川の源流から始まって、川岸の人々の暮らし、そして最後は急流を通り河口へ。音楽による川下りの旅を満喫しました。
コンサートの模様は後日N響公式YouTubeで公開予定
「N響大河ドラマ&名曲コンサート」は今年で3回目ですが、今年はN響100年の節目の年ということで<特別編>と銘打たれ、さまざまな楽器や合唱とのコラボレーション、貴重な作品の“復活演奏”など、これまで以上に多彩な内容で、聴きごたえ十分でした。
“本家本元”のN響の素晴らしさは言うまでもありません。指揮の沖澤のどかさんも、それぞれの曲の個性を際立たせた見事な指揮だったと思います。
どのテーマ曲も一流の作曲家が腕によりをかけて作っただけあって、「2分半の小宇宙」とも言うべき素晴らしい内容でした。そうした名作の数々を、生のフルオーケストラで聴くことができるのが、このコンサートの醍醐味です。
この「大河ドラマ&名曲コンサート<特別編>」は、後日、N響公式YouTubeで公開予定です。
N響公式YouTubeチャンネルはこちら(※ステラnetを離れます)

(文/NHK財団 展開・広報事業部 松井治伸)
「N響大河ドラマ&名曲コンサート<特別編>」
開催日:2026年3月5日(木)(NHKホール 東京・渋谷)
指揮:沖澤のどか
特別ゲスト:高橋英樹(俳優)
オンド・マルトノ:大矢素子 テノール:工藤和真
薩摩琵琶:友吉鶴心 龍笛:稲葉明徳 龍笛:纐纈拓也 龍笛:岩﨑達也
二十五絃箏:中井智弥 尺八:長須与佳
シンセサイザー:篠田元一 電子パーカッション:篠田浩美
男声合唱:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
司会:田添菜穂子
【演奏曲】
[第1部 大河ドラマ編]
風林火山(2007/千住 明) 豊臣兄弟!(2026/木村秀彬)
独眼竜政宗(1987/池辺晋一郎) 八代将軍 吉宗(1995/池辺晋一郎)
春日局(1989/坂田晃一) 源義経(1966/武満 徹[坂田晃一編])
夢千代日記(1981/武満 徹) ※NHK「ドラマ人間模様」から
竜馬がゆく(1968/間宮芳生) 徳川家康(1983/冨田 勲) 新選組!(2004/服部隆之)
[第2部 「河」「川」にちなんだクラシック名曲選]
ワーグナー(フンパーディンク編)/楽劇「神々のたそがれ」─「夜明けとジークフリートのラインの旅」
イヴァノヴィチ/ワルツ「ドナウ川のさざ波」
スメタナ/交響詩「モルダウ」