「クラシックには興味はあるけれど、どんな曲から聴いていいかわからない」「オーケストラの名曲を聴いてみたい」そんな方にお勧めなのが「N響ウェルカム・コンサート」です。

NHK交響楽団(N響)が、定期公演のプログラムの中から選りすぐりの聴きどころをお贈りしたこのコンサート。N響YouTubeチャンネルで公開中です。NHK財団・N響担当の松井治伸によるリポートです。


「いいとこどり」の「ウェルカムな」コンサート

コンサートは、6月29日(日)の午後4時から、東京・渋谷のNHKホールで開かれました。日曜日ということもあって、家族連れやお友達同士などで会場は満席でした。
開幕は、ワーグナー作曲の楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲(抜粋)。堂々としたこの曲、式典などでもよく演奏されます。オーケストラの壮麗な響きが、会場いっぱいに広がりました。

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今回演奏された曲は、N響の定期公演の曲目の中から選ばれたもの。

N響の定期公演は、9月から翌年6月までA・B・Cの3つのプログラムがあり、それぞれ9回、各2日ずつ、合計54公演開かれます。世界的な指揮者やソリストたちと繰り広げる定期公演は、N響の活動の中心となる聴きごたえのあるものばかりです。 今回の「ウェルカム・コンサート」は、その定期公演からりすぐりの作品をお贈りする、いわば「いいとこどり」のコンサートです。

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コンサートの隠しテーマは「冒険」「物語」

この日タクトをとったのは、平石章人さん。期待の若手指揮者です。平石さんは、2022年から2024年までN響の指揮研究員として公演に携わりました。多くの巨匠の指揮を間近で見たり、N響の楽員からかつての巨匠のエピソードを聞いたりしたことが、大変勉強になったそうです。
平石さんは「今回のコンサートでは、冒険をテーマにした曲や、物語性のある曲が登場します。どうぞお楽しみください」と聴きどころを紹介してくださいました。

その物語性のある曲が、ツェムリンスキー作曲の交響詩「人魚姫」から第2楽章(抜粋)。ツェムリンスキーは、20世紀前半に活躍したオーストリアの作曲家です。アンデルセンの童話「人魚姫」をもとに書かれたこの曲、海原を思わせるきらびやかな響きに甘いメロディが、人魚姫の物語の世界に誘います。

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コンサートマスターはオーケストラの「キャプテン」

N響第1コンサートマスターの長原幸太さん(右)、聴き手はナビゲーターの大林奈津子さん

この日のコンサートマスターは、今年4月にN響第1コンサートマスターに就任したばかりの長原幸太さん。長原さんによると「指揮者は監督、コンサートマスターはキャプテン。」コンサートマスターの役割は、指揮者と楽員のそれぞれの思いをつなぐことだと言います。「N響は来年2026年に創立100年を迎えます。私はまだ就任1年足らずですが、気負わず、みなさんに愛してもらえるN響を目指したいです。」と抱負を語ってくださいました。

続いて、北欧の2人の作曲家の名作。まずは、ノルウェーのグリーグ作曲「ホルベアの時代から」の「ガヴォット」。弦楽器だけで演奏される、古典的で優雅な作品です。シルクの肌触りのような美しい弦楽の響きを聴いていると、ため息が出そうになりました。

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かたや、フィンランドのシベリウスが作曲した交響詩「4つの伝説」から「レンミンケイネンの帰郷」は、スピード感あふれる作品。英雄・レンミンケイネンが故郷を目指して疾走する様子です。豪快に叫ぶ金管楽器に、目まぐるしく駆け回る弦楽器。最後は迫力の終結です。

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魅力あるソリストも登場

N響首席クラリネット奏者・松本健司さん(右)、指揮は平石章人さん

一流のソリストが登場するのも、定期公演の魅力です。
この日は、N響首席クラリネット奏者の松本健司さんがソリストとして登場。曲は、モーツァルト作曲クラリネット協奏曲から第2楽章です。
穏やかで心安らぐメロディ。クラリネットのまろやかな音色が何とも言えません。特に、弱音の美しいこと! 晩年のモーツァルトの澄み切った世界が目の前に広がりました。

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日本人作曲家による作品からお馴染みの名曲まで

来年創立100年を迎えるN響は、これまで多くの日本人作曲家の作品も取り上げてきました。この日は、その中から、外山雄三さんの作品が演奏されました。外山雄三さん(1931-2023)は、N響の正指揮者を務めた指揮者にして作曲家です。外山さんの「管弦楽のためのラプソディ」は、日本の民謡が登場する作品で、オーケストラのアンコール曲として親しまれています。
この日の「管弦楽のためのディヴェルティメント」の第3楽章も、民謡の威勢のいいメロディに始まり、中間部は日本の原風景を思わせる懐かしいムードになります。

来年4月のCプログラム、5月のBプログラムでは、外山さんをはじめ日本人作曲家の名作を取り上げます。どうぞお楽しみに。

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続くは、ストラヴィンスキー作曲バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)から「王女たちの踊り」。オーボエが奏でるロシア民謡風の美しいメロディが心にみます。弦楽器による懐かしさを感じさせるテーマが続き、抒情的じょじょうてきな世界が広がります。

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そして最後は、ホルスト作曲組曲「惑星」から「木星」。大編成の華やかな1曲です。中間部のメロディは、平原綾香さんが歌った「Jupiter」でもおなじみ。オーケストラの魅力を存分に楽しめる作品だけに、会場内から盛んな拍手が湧きおこりました。

N響YouTubeチャンネル「惑星」から「木星」はこちら (※ステラnetを離れます)


N響YouTubeチャンネルでN響の名演奏が楽しめる

名曲のエッセンスがギュッと詰まった「N響ウェルカム・コンサート」。
コンサートの模様は、N響YouTubeチャンネルで公開中です。
N響YouTubeチャンネルでは、この他にも、N響の演奏を楽しむことができます。お気に入りの曲が見つかったら、公演に足を運んでみてはいかがでしょう。
N響はいつでも「ウェルカム!」です。

N響YouTubeチャンネルはこちら (※ステラnetを離れます)

終演後の一コマ 左から、長原幸太さん(N響第1コンサートマスター)、平石章人さん(指揮者)、大林奈津子さん(ナビゲーター)、松本健司さん(N響首席クラリネット奏者)、藤井虹太郎さん(N響トランペット奏者)、後藤 康さん(N響第1ヴァイオリン奏者)

(文/NHK財団 展開・広報事業部 松井治伸)


N響ウェルカム・コンサート

開催日:2025年6月29日(日)
会場:NHKホール
指揮:平石章人
クラリネット : 松本健司(N響首席クラリネット奏者 )
ナビゲーター : 大林奈津子

【演奏曲】
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲(抜粋)(6月Aプログラム)

ツェムリンスキー/交響詩「人魚姫」― 第2楽章(抜粋)(12月Aプログラム)

グリーグ/組曲「ホルベアの時代から」―「ガヴォット」(10月Bプログラム)

シベリウス/交響詩「4つの伝説」―「レンミンケイネンの帰郷」(9月Cプログラム)

モーツァルト/クラリネット協奏曲 ― 第2楽章(4月Bプログラム)

外山雄三/管弦楽のためのディヴェルティメント ― 第3楽章(4月Cプログラム)

ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)―「王女たちの踊り」(1月Cプログラム)

ホルスト/組曲「惑星」―「木星」(11月Aプログラム)