2026年大河ドラマ「豊臣兄弟!」は、仲野太賀さん演じる天下一の補佐役・豊臣秀長の目線で戦国時代をダイナミックに描く、夢と希望の下克上サクセスストーリーです。
このドラマのテーマ曲の録音が、このほど東京・渋谷のNHK放送センターで行われました。演奏は、これまで大河ドラマのテーマ曲のほとんどを担当したNHK交響楽団(N響)です。
ドラマの幕開けを飾るテーマ曲の録音の模様を、NHK財団・N響担当の松井治伸が取材しました。

豊臣兄弟が西へ東へ駆け回ったことを表現するために“ストンプ”を使用
スタジオには録音用のマイクがたくさん並べられ、音声担当のスタッフが確認作業に動き回っています。開始の1時間以上前から、N響の楽員たちが集まり始め、楽譜をチェックしながら、自分のパートの練習に集中していました。いろいろな楽器の音がスタジオ内に重なり合うと、本番直前の気分が高まっていきます。

作曲は、NHKスペシャル「恐竜超世界」の音楽を担当するなど、映画やテレビ、アニメの音楽で注目を集める気鋭の作曲家、木村秀彬さん。
テーマ曲を指揮するのは、日本を代表する指揮者の1人、沼尻竜典さん。大河ドラマの大ファンだという沼尻さんですが、実は、テーマ曲を指揮するのは初めて。それだけに、今回の指揮には意気込みを持って臨んだそうです。

いよいよ録音開始。沼尻さんがタクトを振り下ろすと、スピード感あふれるテーマ曲が、スタジオいっぱいに広がりました。主人公の若き2人、小一郎(豊臣秀長)、藤吉郎(豊臣秀吉)兄弟が、広い野原を駆けてゆくような清々しい音楽です。日本のお祭りのような陽気なテーマや、抒情的で懐かしさを感じさせるテーマが登場するなど、聴いていて心が高鳴ります。豊臣兄弟が手を携えて高みを目指すように、テーマ音楽は、最後、力強い和音で締めくくられました。

1度通しで演奏した後、指揮の沼尻さんと副調整室にいる作曲の木村さんがやりとりを重ね、細かな点を確認してゆきます。音量や楽器のバランス、メロディーの歌わせ方など、木村さんからの要望を沼尻さんがオーケストラに伝え、沼尻さんも、テーマ曲のそれぞれの部分の具体的なイメージを木村さんに尋ねたりしながら、演奏の完成度が上がってゆきます。こうして、必要なところを再度録音し、プレイバックを聴いて確認する、という作業を繰り返し、録音は無事終了。作曲者の木村さんから「素晴らしいです。ありがとうございました!」と沼尻さんやN響に感謝の言葉が贈られました。

この日は、テーマ曲で使われるストンプの録音も行われました。ストンプとは、足で地面を踏み鳴らすこと。作曲の木村さんは、西へ東へと豊臣兄弟が各地を駆け回ったことを表現したいと、テーマ曲の中にストンプを入れたそうです。この日は、N響の楽員20人ほどが、録音したばかりのテーマ曲に合わせて足を踏み鳴らし、ストンプを録音。リラックスしたムードで録音は進み、楽員も楽しそうです。しかし、一発で楽譜どおりにリズムを合わせるところはさすがプロ!

このほかこの日は、テーマ曲以外にドラマの中で使われる音楽も2曲収録され、録音作業は終了。全体をとおして感じたことは、実に無駄なくスムーズに進行したことです。テーマ曲はいきなり本番に近い形で録音が始まります。それでいて、すでに完成された音楽が出来上がっているのです。それは、指揮の沼尻さんとN響が、ちゃんと演奏できる状態で録音に臨んでいるということ。だからこそ、限られた時間の中で、ポイントを外さず、作曲者の木村さんのイメージに沿って、より一層完成度の高いものに仕上げることができるわけです。プロフェッショナルな技の凄さを、改めて実感しました。
音楽・木村秀彬さん「秀長と秀吉の兄弟が駆け上がってゆくイメージ」
録音後、作曲家・木村秀彬さんの共同会見が開かれ、木村さんが「豊臣兄弟!」の音楽にかける意気込みを語りました。

【プロフィール】
東京生まれ、幼少期を米国で過ごす。早稲田大学政治経済学部入学後独学で作曲を始め、 卒業後音楽 理論・編曲を学ぶためバークリー音楽大学へ留学。
Contemporary Writing and Production科卒業後、映像音楽を中心に活動中。
代表作に、映画化もされたドラマ「グランメゾン東京」「トリリオンゲーム」「ブラックペアン」「ラストマン」など。アニメでは、「ガンダムビルドダイバーズ」シリーズ、NHKでは、ドラマ「かんざらしに恋して」「ベビーシッター・ギン!」、「NHKスペシャル 恐竜超世界」シリーズほか。
——今回の大河ドラマのテーマ曲の作曲の依頼があった時はいかがでしたか?
正直「何で?」と驚きました。大河ドラマのテーマ曲は、いわゆる“クラシック”の作曲家の方が担当するもので、自分には縁がないと思っていました。しかし、演出の方が「大河ドラマっぽくないテーマ曲」「現代的な音色やリズムが入った曲」とおっしゃったので、自分が指名されたのだなと思いました。
——テーマ曲のイメージを教えてください。
秀長と秀吉の兄弟が駆け上がってゆくイメージです。青春のエネルギー、農民出身の土着感、そして、ひたすら高みを目指す上昇感です。今から行くぞ、という勢いを大事にしました。豊臣兄弟は、多分死ぬ時まで、もっともっと上にという気持ちを持ち続けたと思うので、年老いた時の回でも違和感がない曲だと思います。
——ドラマの台本を読んでどんな感想を持たれましたか?
テンポが良いです。テーマ曲もアップテンポの曲にしましたが、脚本も漫画を読み進めるようにするすると入ってきました。シーンのイメージがすぐに浮かんでくるので、それが音楽を作る上でも影響を受けました。
——大河ドラマの音楽だからと、構えたりしたことはありましたか?
それはやめようと思いました。これまでも、気負うと「もう少しこのようにできたのではないか」と後悔することが多かったので、今回は、最初に「気負わない」と決めてスタートしました。
——今回のテーマ曲、ご自身では出来栄えはいかがですか?
自分の中では、これまでで1番好きな曲になっています。今回は「木村さんらしい曲にしてほしい」という依頼だったので、そういう意味では、自分らしさが出せたのではないかと思っています。
——沼尻さんの指揮によるN響の演奏をお聴きになっていかがでしたか?
素晴らしかったです。金管は明るくきらびやかで、弦は美しく、木管は可憐で。沼尻さんのお人柄もあって、とても楽しくできました。自分が想像したものの、2倍、3倍になっていると感じました。
——大河ドラマっぽくないテーマ曲という依頼だったそうですが、聴いていると、日本風のメロディーも聴こえて、大河ドラマらしいところもあるように思いましたが?
日本風のメロディーは意識して入れました。今回初めてこうした音階を使っているかもしれせん。サウンドや音楽的試みは今までの大河ドラマとは違うものでも、大河ドラマだなという安心感は担保したいと思い、そうしました。
——このあとドラマの曲の制作はどのように進みますか?
テーマ曲は今回のN響の演奏に、アコースティックギターやエレキギター、それに、ドラムやベース、ストンプの音も加わります。全貌がわかるのはこれからです。劇中の曲もこれから何曲も作曲しなくてはなりません。このあとキャストも次々と発表されますが、それを楽しみにしながら、劇中の曲を作っていきたいと思っています。
指揮・沼尻竜典さん「スピード感があって現代風。ワクワクしました」
また、録音終了後、指揮者の沼尻竜典さんに、大河ドラマのテーマ曲を指揮した感想を伺いました。

【プロフィール】
現在、神奈川フィルハーモニー管弦楽団音楽監督、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア音楽監督を務める。1990年、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。以後ロンドン交響楽団、モントリオール交響楽団など、世界各国のオーケストラに客演を重ねる。国内ではNHK交響楽団を指揮してのデビュー以来、新星日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団などのポストを歴任。オペラ指揮者としても、ケルン歌劇場、バイエルン州立歌劇場など海外のオペラハウスへ客演。16年にわたって芸術監督を務めたびわ湖ホールでは、ワーグナーの主要10作品をすべて指揮した。また、2014年1月にはオペラ『竹取物語』を作曲、自らの指揮で初演。国内外で再演されている。

——今回の「豊臣兄弟!」のテーマ曲、指揮をしていかがでしたか?
大河ドラマらしい音楽だったと思います。日本的な音階も使われていて、かつての大河ドラマのテーマ曲を彷彿させるところもあって、昭和男の私は、指揮をしていてワクワクしました。一方で、スピード感もあって現代風。その2つがうまく合わさった曲だと思います。
——大河ドラマはお好きですか?
子供のころから大河ドラマのテーマ曲は大好きでした。テレビの前に座布団を敷いて正座して聴きました。特に「勝海舟」はお気に入りで、9歳の時に、NHKに電話して「楽譜を送ってほしい」と頼んだことがあります。すると、スコア(総譜)ではなかったのですが、ピアノ編曲版を送ってくださったのです。夢中で弾きました。弾いてみると「ここの和音はこうなっている!」という発見をしたものです。
——大河ドラマのテーマ曲の魅力とは何でしょうか?
一流の作曲家たちが作った「箱庭」のようなものだと思います。小さなスペースに、ありったけの夢とエッセンスを詰め込む。40分50分にもなりそうな内容を、2分30秒に凝縮しているというところが、実に魅力的だと思います。聴いているだけで、ドラマを見たような気持にさせてくれます。
——大河ドラマのテーマ曲の指揮は今回初めてですが、どんなことに留意されましたか?
事前に豊臣秀長のことは下調べしました。録音の時は、木村秀彬さんに、ここはどういうイメージなのか、これは登場人物でいえば誰なのか、といったことを確認することで、作曲者の思いを共有するようにしました。そうすることで、オーケストラの音も変わっていったと思います。
——「豊臣兄弟!」への期待は?
音楽もドラマも時代とともに変わりながら、同時に受け継がれてゆくもの。
子供のころに夢中で見た「黄金の日日」や「おんな太閤記」でも豊臣家の人々が活躍していましたが、それらとはまた違った角度から描かれる「豊臣兄弟!」がどんな物語になるのか、楽しみでなりません。

大河ドラマ「豊臣兄弟!」は、2026年1月4日(日)放送開始です。ドラマの冒頭を彩るテーマ曲も、どうぞお楽しみに!
(文/NHK財団 展開・広報事業部 松井治伸)