連続テレビ小説「風、薫る」は、激動の明治時代を舞台に、まだ誰も知らなかった“看護”の世界へ飛び込み、時代の荒波の中で懸命に生きるいちりん(見上愛)とおおなお(上坂樹里)の物語だ。
主人公の1人・りんを演じる見上にとって、本作は初めて挑む朝ドラ。明治といううねりの大きい時代、見上はりんの強さや繊細さをどのように受け止め、役と向き合っていったのか。インタビュー前編では、その役作りのプロセスから、当時を生きる女性を演じる難しさ、そして撮影現場の裏側までじっくりと話を聞いた。


まっすぐ人に向き合うりんの不器用さが愛おしい

――りんは、トレインドナース(正規に訓練された看護師)の先駆者である大関おおぜきちかさんがモチーフです。撮影前に資料は読みましたか?

原案となった小説(田中ひかる著『明治のナイチンゲール 大関和物語』)を、最初に読みました。そこに、りんをつくるためのヒントがたくさんありましたし、資料を読んでいく中で、大関さんはものすごく聡明そうめいで、時代の荒波に負けない強さを持った方だなと感じました。揺れ動く環境の中でも、自分の信じた道を貫いた姿がとても魅力的です。その強さは、私を含め現代を生きている人たちにも必要な強さだなと思いました。

――大関さんのどんなところに魅力を感じましたか?

とても思慮深く育てられ、自分の目と耳で物事を判断する姿勢が印象に残りました。誰かに何かを言われたからではなく、自分の感覚を信じて行動する。“しんの強さ”がりんにもつながっていると感じます。

――りんの人物像について教えてください。

りんは「己の良心に恥じないか」を判断基準にして行動する、意志の強さがある女性ですね。その一方で、とてもマイペースでのんびりした子でもあります。うそがつけず、思ったことがそのまま口に出てしまうけれど、「育ちの良さから全く嫌味にならないんだな」と感じる場面がたくさんあります。とても心根が優しい子で、常に人のことを考えて行動するし、何より私が好きなのは、肝が据わっているところ。本人は自覚していなさそうですけれど(笑)。直美のように器用に立ち回れない分、いつも正面からぶつかっていく。その不器用さが、とてもいとおしいですね。

――見上さんご自身は“肝が据わっている”と言われますか?

えっ……、割と言われますね(笑)。私は、物事をあまり深く考えすぎないようにしているタイプなので。ですが、りんの「根拠がなくても自信が湧いてくる」肝の据わり方は、私以上だと思います。


明治を生きる女性たちの繊細な悩みも表現できるように

――当時の女性の生き方について、演じながら感じることは?

今は“自分らしさ”が大切にされますが、明治は「女性はこうあるべき」という価値観が強く、生まれた環境によって生き方が決められてしまう時代でした。その変化の中で、すぐに変化を受け入れられない人もいれば、りんや直美のように先へ進もうとした人もいたでしょう。変わりゆく時代の只中ただなかで、自分の道を見つけていくには大きな力が必要だったはずです。大関さんがそれをやり遂げたことはものすごく尊敬しますし、抱えていた繊細な悩みや葛藤も、しっかり表現したいと思っています。

――演出陣とはどんな話をしていますか?

放送の第3週までに、りんを形づくる大きな出来事がたくさん起こるので、そこを丁寧に積み上げよう、と話していました。りんは、出自をたどれば武家の娘なので、芯の強さがありますが、対照的にのんびりとした部分もあります。演じる際は、そのバランスを大切にしています。監督は4人いらっしゃって、それぞれタイプが全く違うのですが、リハーサル日を設けてもらっているので、まず1度自由にやってみて、話し合いながら決めていくことが多いですね。


明るく前向きな現場も、あと5か月で終わってしまう

――撮影が始まって、約半年が過ぎた今の現場の雰囲気は?

最初の記者会見で「いい現場を作りたいです」と話したのですが、制作統括の松園(武大)さんをはじめ、スタッフの皆さんがその思いをすごく大事にしてくださり、本当に明るく前向きな現場になっています。撮影期間が長いので、前向きになれないこともあったりしますが、誰かが落ち込んでいると、ほかの誰かが励ましていて。その関係性がいろんな人たちの間で見えるんです。「いい作品をつくろう」という思いが1つになる瞬間が多々あるので、心穏やかに過ごせています。今はもう「あと5か月近くで撮影が終わっちゃうんだ。寂しいな」と思うほどです。

――クランクインまでの準備と、撮影が始まってからの変化などを聞かせてください。

制作発表から9月のインまで約8か月あったので、長丁場を乗り切るために、まず“人としての器”を広げなければ、という気持ちになりました。そこで「ちゃんと自分の生活を大事にしよう」ということにチャレンジして、自炊をしたり、自分のことを丁寧に見つめる時間を作ったりと、仕事以外の時間を大切に過ごすようにしました。

撮影が始まって、いろんな方に「楽しみにしてるよ」と声をかけられたり、現場でもスタッフさんに「今のシーン、すごくよかったと思う」と言ってもらえたりすることがあって、そうした身近な人たちの言葉が以前よりもいっそう心に響くようになりました。身近な人たちが愛情を注いでくださっているんだと実感できる毎日が、今はすごく幸せだなと思っています。

――「これが朝ドラの現場か!」と感じた瞬間は?

やはり、月曜日にリハーサルが行われる“文化”ですね(笑)。そこで、火曜日から金曜日に撮影するセリフを全部覚えてくるんです。「みんなが『朝ドラは大変だ』と言っていた理由は、これか!」と思いました。

でも監督とお互いの意見を交わせる時間があるので、「それぞれ思うほうでやってみて、1回考えてみましょうか」と、いろんな実験ができることは、すごくありがたいです。


印象に残っている栃木ことばは「だいじ」

――物語の冒頭でりんは栃木ことばを話していますが、方言を自然に使うためにどんな練習をしましたか?

撮影前から栃木ことばの練習を始めました。指導の先生が栃木ことばのルールや、「音はこういうふうに変化していきますよ」という、わかりやすい資料を作ってくださって。それを見ながら先生と、台本のセリフだけでなく、普通の会話をたくさんしました。

――イントネーションが難しいのですか?

先生からは、「下がって、潜ったところから始まって、しばらくはまっすぐしゃべって、最後が上がるか、下がるか」と教えていただいたのですが、そのまっすぐ話すところが特に難しかったです。私は東北出身の友達が多くて、自分が聞きなじみのある方言はわりと抑揚があるので、そっちに引っ張られてしまって……。

撮影が始まるころはかなり慣れていましたし、最初が栃木でのロケだったので、現地に行くと栃木ことばで話している方がたくさんいらっしゃり、それにも助けられました。すっかりなじんだのですが、東京に出てきてからのシーンの撮影では、逆に栃木ことばを抜くのが大変で(笑)。アドリブの会話をすると、特に出てしまうんですよね。「きょうは全部標準語で話せた」と思って、監督に「どうでしたか?」と聞いたら、「いや、(栃木ことばが)出てましたよ」と言われたりして(笑)。今は方言を抜く作業に苦労しています。

――それは大変でしたね。栃木ことばで好きな単語、フレーズはありますか?

やっぱり「だいじ?」ですね。「大丈夫?」という意味で、この「だいじ」は物語のキーワードにもなっていくので、より印象に残っています。

――「風、薫る」には、さまざまな見どころがあると思いますが、見上さんが特に好きなところ、注目してほしいポイントを教えてください。

ありすぎて、悩みますね(笑)。でも、今までバディを軸に描かれた朝ドラはあまりなかったと思うんです。今回どう描かれていくか、ぜひ注目してほしいです。バディものって、月と太陽に例えられることが多いと思うんですよね。どちらかが月のような性格で、もう一方が太陽みたいな。りんと直美はどちらもが月と太陽にもなり得る存在です。片方がすごく落ち込んで立ち上がれないときは、もう1人がそっと手を差し伸べる。そんなふうに、お互いを助け合いながら歩んでいく、2人の女性の物語なので、楽しんでいただけたらうれしいです。