連続テレビ小説「風、薫る」は、激動の明治時代を舞台に、それぞれ生きづらさを抱えていた一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)が、当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走する物語。主人公の1人・大家直美役にオーディションで選ばれた上坂は、直美を演じるにあたり、どのような意気込みで作品に取り組んでいるのか。インタビュー前編では、直美の人物像を中心に、撮影現場で意識していることなどについて話を聞いた。
オーディションでは、悔しい思いしか残らなかった
――上坂さんは今回、2,410人が参加したオーディションで主人公に選ばれました。出演が決定したときのお気持ちは?
“朝ドラ”の主人公として出演するのが夢だとずっと言い続けていたのでうれしかったです。聞いたときは理解が追いつかないくらいの驚きがあって「こんな幸せなことが、あっていいのだろうか?」と自問自答していました。
――オーディションには、どんな準備をして臨まれたのでしょう?
もともと、もう1人の主人公のりんを(見上)愛さんが演じることは決定していて、大体の内容は知っていました。最終審査の前に「直美は、こういう女性です」という資料もいただきました。
ただ、どう演じることが正解なのかがわからないので、できる限り気持ちの準備をして……自分にできることを全力でやって、後悔のないようにしようと思って挑みました。最終オーディションまで進み、そこで自分を見てもらえるだけでも光栄なことだと思って。でも、一切手応えが感じられなかったので、「ダメだった……」という思いしか残らなくて。
――でも、その「ダメだった……」ものが、結果としては正解だったわけですよね。
後日、改めてスタッフの皆さんにその話をしたら、監督さんから「えっ、そうなの? どうして、そう思ったの?」と聞き返されてしまいました(笑)。でも「緊張しているのだけは、すごく伝わってきたよ」と言われて(笑)。意外と、自分でダメダメだと感じても何が起きるかわからないな、と思いました。
直美は生きることに貪欲で、不器用だけれど優しい顔も持っている

――今回演じる大家直美の人物像についてはどのように受け止めていますか?
直美は、すごく人間味あふれる女性だと思います。小さいころに親に捨てられ、教会で育ってきた子なので、生きることに対してとても貪欲です。人と接するのに不器用なところがありますが、その中に本来の優しさが見え隠れして、いろんな顔を持っているところが、とても魅力的だと思っています。
明治という時代に生きづらさを感じているようなシーンもたくさん出てくるのですが、そんな状況に置かれても「こうであらねばならない」と押し付けられることが苦手だし、生きていくためにはどんな手段でも使ってやる、という意志の強さを感じます。
――もがきながらも一生懸命に生きていた女性たちの姿が描かれていくと思うのですが、彼女たちの生き方についてどのように感じているのか、聞かせてください。
撮影をしていく中で感じているのは、生きることに対しての大変さがあった、ということです。当時は女性が何か仕事に就いて自立したいと思ったとき、スムーズに進められることは少なかったと思います。そこで受ける社会の偏見やぶつかる壁というのは、現代を生きる自分では計り知れません。決して平坦ではない中で、看護という道のりを(大家直美のモチーフとなった)鈴木雅さんたちが切り拓いていったことに尊敬の念を抱きますし、とてつもない強さを感じました。
――鈴木雅さんは実在の人物ということで、ご自身でも事前に調べられたと思うのですが、そこで印象に残ったことは?
第一印象は、とても覚悟のある女性だなと。簡単な言葉になってしまいますが、自分が決めたことに対して、周りからの視線に負けない強さを持っている方だと思いました。何事にも物おじしませんし、やるべきことを冷静に、淡々とこなしていく。生きるうえでの選択をいくつもしてきて、看護という道に進んだと知って……。明治という時代にその選択をした覚悟を感じましたし、私自身もこの朝ドラの撮影に覚悟を持って挑んでいるので、とても共感を覚えました。
直美の表情を作る難しさを感じながらの撮影

――上坂さんには“笑顔”のイメージが強いので、人を寄せ付けないでいる直美をどう演じられるのか楽しみなのですが、ご自身とはギャップのある役を演じる難しさはありますか?
確かに、自分とかけ離れているので、直美の強さであったり、常に怒っているような表情だったりを、どう表現していいのか難しい部分はあります。悩む部分などは、監督とちゃんと話し合うことができる環境があるので、本当にありがたいなと思っています。そういう「わからなくて考えている時間」もすごく楽しくやらせていただいています。
――直美は、人にかなりきつく当たるところがありますが……。
そこは、苦戦しました。自分的には結構強めにやっているはずなのに、思っているように伝わらず……。そこで監督から言われたのは、「直美というキャラクターはいろんな顔を持っているから、この人物と話しているときはそれでいい。でも逆に、別のシーンでは違う顔を出してみようか」ということでした。実際に撮影に入って、衣装を着て、セットの中で周りのキャストの方たちと向き合うと、自然とグッと入り込めるものがあったので、1つ1つのシーンを丁寧に演じて撮影に臨んでいます。
――今回は明治時代にトレインドナース(正規に訓練された看護師)となる物語です。直美の衣装で印象に残っているものは?
いちばんは、やっぱりナース服です。でも、衣装にもいろんな特色があって、直美に関しては、最初はお金に苦労しているので、いろんな生地を自分で継ぎはぎしたような着物を着ています。りんは、対照的に華やかな色合いの着物を着ているなど、生きてきた環境の違いが出ているので、そういうところにも注目してほしいなと思っています。カツラも、撮影を続けているとつけていることを忘れるくらい馴染んできて、撮影が終わってカツラを外すと、そこでやっと自分に戻るというか。
毎朝ご覧いただき、いろんな風を感じてもらえれば

――第1回の冒頭のシーン。クランクインの日で、たくさんのエキストラと一緒に街の中を歩くシーンでした。
撮影前日は緊張で眠れなくて……。ドローン撮影のカットもあったりして、動きも考えながらやっていたのですが、いつもどおりお芝居することを意識していました。でも、そのファーストカットを撮り終えて「OK!」と言われた瞬間に、制作統括の松園(武大)プロデューサーと私のマネージャーさんとで、ハイタッチをしてました。「よし! まずワンカットが終わった」って(笑)。
――直美はセリフの中で英語を使う場面も多いのですが、どのように英語に取り組んでいるのか、教えてください。
クランクインの前に英語稽古を始めて、現在も撮影と同時進行で稽古を続けています。口の形や発音だったり、日本語にはない音の出し方であったり、日々課題が出てきて苦労しています。実際に発音できるようになっても、感情を入れてお芝居をすると、ニュアンスが微妙に違ってしまって……。でも直美にとって、英語は1つの武器でもあるので、英語指導の先生をはじめ、監督と相談しながら発音と感情のバランスを大事にしています。
――最後に「風、薫る」の放送を楽しみに待っている方たちに、メッセージをお願いできますか?
それぞれ生きてきた境遇も考え方も違うりんと直美が、どんなふうにバディになっていくのか、2人の関係性や、事情を抱えた個性豊かなキャラクターたちに注目して、毎朝いろんな風を感じていただけたらうれしいです。また、トレインドナースという道を切り拓いていく2人の女性が、どのようして看護の技術を確立し、現代に繋げていくのか、そういうところも見てほしいなと思っています。