アンパンマンの生みの親・やなせたかしさんの創作人生と作品をたどる「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」。6月30日(火)から9月6日(日)まで、東京・世田谷文学館で開催されています。詳しくはこちら※ステラnetを離れます

本展では、貴重な原画や資料をとおして、やなせさんのモットーである“よろこばせごっこ=人を喜ばせる行為こそ人生最大の喜び”という思いに触れることができます。

今回、「やなせたかし展」の企画段階から携わる、公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館 主任学芸員・宮崎京子さんにインタビュー。東京会場ならではの見どころをはじめ、本展の魅力について伺いました。


アンパンマンにたどり着くまで――創作の原点をたどる

第1章「やなせたかし大解剖」。

――世田谷文学館での開催にあたり、展示の見どころや、これまでの巡回会場との違いについて教えてください。

宮崎 世田谷文学館は、「やなせたかし展」の企画段階から深く携わり、2024年から約2年をかけて準備を進めてきました。そのため、展示構成や演出には、これまでの巡回会場にはない工夫や見せ方を数多く盛り込んでいます。

会場づくりでは、「やなせさんの人生を、どのような展示体験として来場者に伝えるか」を追求しました。NHK財団の展示チームをはじめ、空間デザイナーやグラフィックデザイナーと何度も議論を重ねました。他会場をご覧になった方にも、新しい発見をしていただける内容になっているかと思います。

会場に入るとすぐ、黒を基調とした展示空間が広がっています。演出の意図は?

宮崎 冒頭を、黒を基調としたのは、決してへいたんなものではなかったやなせさんの人生に集中していただくため、です。

『詩とメルヘン』1978年1月号別冊詩集『おとうとものがたり』より「シーソー」 1977年 ©やなせたかし  (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

宮崎 戦争で亡くなった実弟への思いを込めた詩画集『おとうとものがたり』の原画などを展示の冒頭に配置しました。やなせさんは戦争体験や家族との別れ、そして長い下積み時代などの試練を経験してきました。最初からアンパンマンでイメージされる明るい世界を見ていただくのではなく、まずは創作の原点となった人生の歩みをたどっていただきたいと思いました。そのうえで、後半に広がるカラフルな空間とのコントラストによって、やなせさんが逆境や悲しみの先に見出した希望や喜びを、より強く感じていただければと考えています。

原画「てのひらを太陽に」(上)、レコード「手のひらを太陽に」現物(下)。 ©やなせたかし  (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

――そして、第1章の最後には「てのひらを太陽に」が配置されています。

宮崎 真っ赤な手のひらを太陽に向かってかざしている原画と、当時のレコードは、ぜひ注目していただきたい作品です。やなせさんは漫画家として独立した後も、なかなか漫画の代表作といえるヒット作には恵まれず、試行錯誤を重ねる日々を送っていました。そんな中で生まれたのが、「手のひらを太陽に」の歌詞です。まさに暗闇の中で命の希望を見出したことを象徴する作品であり、展示空間でも、来場者の皆さんに暗闇から光へ向かうような体験をしていただければと考えました。会場ではレコード音源を聴くことができるほか、やなせさん直筆の歌詞もご覧いただけますので、あわせて楽しんでいただきたいです。

『新青年』とその挿絵原画。いずれも世田谷文学館蔵

――少年時代のやなせさんに影響を与えた雑誌なども展示されています。

宮崎 東京会場オリジナル展示として、やなせさんが旧制中学校時代に愛読した雑誌『新青年』に掲載された挿絵原画の一部を展示しています。やなせさんが当時親しんでいた雑誌の関連資料が、当館の収蔵品の中に含まれていたことから、やなせさんが誌面を通して憧れていた挿絵画家の松野一夫や竹中英太郎の作品もあわせて展示しました。少年時代のやなせさんが実際に目にし、「いいなぁ」と心を動かされた作品を、当時の掲載誌と原画でご覧いただける貴重な機会です。


天井には星や雲のLEDライトが! 鮮やかな虹色空間

45色の壁面に彩られた展示空間。 ©やなせたかし  (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

――LEDライトの星や雲がちりばめられた天井や、グラデーションの壁など、楽しい演出も魅力です。

宮崎 東京会場では、他会場にはない特別な演出も実現しました。やなせさんの“人生はよろこばせごっこ”のエッセンスを感じていただけるよう、天井に星や雲のLEDライトを配置するなど、工夫しています。また、原画約200点の中には、虹をテーマにした作品もいくつかあることから、今回の展示では、やなせさんを象徴するモチーフの一つとして、“虹”に着目しました。会場中央のオーバル空間(円形の空間)では、壁面をカラフルな45色に貼り分けて虹のようなグラデーションを表現し、やなせさんの作品世界をより楽しめる空間づくりを目指しました。

やなせさんの4コマ漫画が柱に!

――ほかにも、東京会場ならではの見どころや特別な演出があれば教えてください。

宮崎 今回特別に実現した演出がほかにもあります。 その1つが、柱に4コマ漫画を巻き付けた漫画筒の展示です。本展では、漫画家としてのやなせさんの活動や作品についても丁寧に紹介したいという思いがありました。4コマ漫画は縦長の構成なので、円柱の形で展開したときに見ごたえのある展示になると考え、この形を採用しました。

アンパンマンたちのイラストパネル。「アンパンマン」(左)、やなせが自らを戯画化した「やなせうさぎ」(右)。 ©やなせたかし

また、第5章「アンパンマンの誕生」では、会場の上部にアンパンマンたちのイラストパネルを配置しています。これも他の会場にはない東京会場限定の演出です。第5章全体で、アンパンマンの世界を楽しんでいただける工夫の一つになっています。


やなせさん直筆の大きなキャンバス画も!

大型のキャンバス画。原画「かくれんぼの木」。 ©やなせたかし  (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

――第5章で特に注目してほしい展示はありますか。

宮崎 ぜひご覧いただきたいのが、やなせたかしさんが香美市立やなせたかし記念館アンパンマンミュージアムの開館に合わせて描いた30号から50号サイズのキャンバス画です。

今年、高知県の香美市立やなせたかし記念館アンパンマンミュージアムは開館30周年を迎えました。設立の際、やなせさんご自身が「美術館の大きな空間に映える作品を描きたい」と考えて制作した特別な作品群です。ふだんは高知でしか見ることのできないアクリル画ですが、今回の巡回展のために主な作品を複数展示させていただくことができました。やなせさんが描いた迫力ある大型作品を間近で鑑賞できる機会ですので、ご覧いただきたいです。

第6章「Epilogue 人生はよろこばせごっこ」。 ©やなせたかし  (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

――最後に、ご来場される皆さんへメッセージをお願いします。

宮崎 展覧会の最後には、空間全体が明るく開かれた世界へと変わります。それは、「人生はよろこばせごっこ」というやなせさんの言葉につながっています。さまざまな苦しみや悲しみを経験しながらも、人を喜ばせることに人生の意味を見出したやなせさん。その思いや優しさを受け取り、来場された皆さまが少しでも明るい気持ちで会場を後にしていただけたら、それが私たちにとって一番うれしいことです。会場で、やなせさんの人生と作品に触れていただければと思います。

【プロフィール】

宮崎 京子(みやざき きょうこ)

公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館主任学芸員。企画展・コレクション展の担当を務めるほか、資料調査、普及事業(教育・イベント活動)、広報など幅広い業務に携わる。


「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」は、2026年9月6日(日)まで、世田谷文学館(2階展示室)で開催中です。展示演出にも随所に工夫が凝らされた東京会場は、まさに「やなせたかし展」のスペシャルバージョン。やなせさんが生涯をかけて伝え続けた“よろこばせごっこ”の精神と、多くの人に勇気や希望を届け続ける作品世界を、体感してみてはいかがでしょうか。

「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」展示会の東京会場のリポートはこちら

(取材/文 ステラnet編集部 松田久美子)


「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」世田谷文学館にて開催

会期:2026年6月30日(火)~9月6日(日)
会場:世田谷文学館 2階展示室
開館時間:10:00~18:00(最終入場は17:30)
休館日:月曜日 ただし月曜が祝休日の場合は開館し、翌日休館
入場料金:一般1,500円、65歳以上・大学・高校生900円、中学生以下無料
主催:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館、NHK財団
協力:公益財団法人やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団、やなせスタジオ、フレーベル館、サンリオ
特別協賛:仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール、横浜アンパンマンこどもミュージアム、名古屋アンパンマンこどもミュージアム&パーク、神戸アンパンマンこどもミュージアム&モール、福岡アンパンマンこどもミュージアムin モール、株式会社ACM、伊藤産業株式会社、株式会社バンダイ、株式会社バンダイナムコエクスペリエンス、株式会社不二家、レック株式会社
協賛:アガツマ、稲垣服飾、金正陶器、JR四国、ジョイパレット、セガ、アートトランジット
後援:世田谷区、世田谷区教育委員会

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【巡回予定】
◆熊本/熊本市現代美術館[終了]
2025年4⽉26⽇(土) 〜 6⽉30⽇(月)
◆京都/美術館「えき」KYOTO[終了]
2025年7⽉11⽇(金) 〜 8⽉24⽇(日)
◆鹿児島/かごしま近代文学館[終了]
2025年9月19日(金) ~ 10月20日(月)
◆山口/周南市美術博物館[終了]
2025年11月14日(金) ~ 12月28日(日)
◆愛知/松坂屋美術館[終了]
2026年2⽉6日(金)~4月5日(日)
◆福岡/福岡県立美術館[終了]
2026年4⽉17日(金) ~ 6月14日(日)
◆東京/世田谷文学館
2026年6⽉30⽇(火) 〜 9⽉6⽇(日)
◆兵庫/姫路文学館
2026年9月19日(土)~ 11月23日(月・祝)
など、全国数会場で開催予定

やなせたかし展 | 一般財団法人 NHK財団(※ステラnetを離れます)

展覧会の開催についてのお問い合わせはNHK財団 展開・広報事業部へどうぞ。