テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」。今回は、BS時代劇「大岡越前9」です。

久しぶりにあの超絶技巧の口笛メロディを聴いた。子ども心に、人情お裁きの懐の深さとか、お白洲しらすでの悪人の改心っぷりがイマイチ響かなくて、あまり観みていなかった「大岡越前」。久しぶりに視聴してみた。自分も初老の域に入り、大岡越前の渋さや奥深さがそろそろわかるかもしれないと思って。なんと、NHKでもシーズン9まで続いているそうで、2024年から主演をつとめているのが高橋克典とな。

高橋克典といえば、金太郎とか只野仁とか島耕作とか多加賀主水など、名前がタイトルにつくドラマ主演の印象も強いが、実は悪役のほうが断然セクシーなんだよなと個人的には思っている。「モンテ・クリスト伯」(2018年・フジ)では主役(ディーン・フジオカ)をハメた、すべての元凶とも言える警察官を演じていたことが記憶に残っている。また「後妻業」(2019年・カンテレ)では結婚相談所を装った後妻業斡旋あっせんという裏稼業の男を演じていて、妙に説得力があったっけ(欲にまみれてるほうが色っぽい)。そんな高橋克典が質実剛健・清廉潔白、そして母親に頭が上がらない大岡忠相ただすけをどう演じているのかなと。

そうそう、たまたま観た「土スタ」(9月12日放送)にもゲスト出演していた。「大岡越前」と言えば、長らく民放で加藤剛が演じてきた歴史ある作品であり、NHK版でもキャストの多くが長くレギュラー出演している中で、シーズン7からの登板にプレッシャーもあったという。温かく受け入れてもらったと話し、同心・筧甚内役の金山一彦が現場で作るチャーハンが絶品で、料理に挑戦するきっかけになったとかなんとか。時代劇を作り上げる演者やスタッフの和気あいあいの風景が目に浮かんだ。歴史ある作品だからこその愛情や思い入れもあるのだろうと。脱線したが、克典忠相をじっくりウォッチしてみた。


人情噺にお家騒動、20年ごしの復讐劇

第1話は飢き饉きんによる米不足と不景気が背景に。さつまいもを広めた学者・青木昆陽(高橋和也)とおせっかいな豆腐屋夫婦(高橋克実・有森也実)が登場する縁と恩の物語だった。貧乏長屋を舞台に「優しい嘘うそ」や「保身の嘘」を見抜く忠相。お白洲では豆腐を並べて検分するっつう、納得のいく庶民的な結末ね。

第2話は大岡越前の母・妙(松原智恵子)の友人で、旗本家の奥女中・綾乃(多岐川裕美)が登場。跡継ぎ問題で不穏なお家騒動の被害者となった綾乃の仇あだを討つべく、妙がいきり立つ。旗本家に口出しできない奉行所や町方に代わって、徳川八代将軍吉宗(徳重聡)までもが真相解明に参戦。静かに身を引く忠相の姿に、「え、忠相の出番が奪われちゃってるじゃん」と笑ってしまったのだが、しゃしゃり出たい上様と意趣返ししたい母親には何も言えない・言わない忠相。大人対応。

第3話では「しんでしまえ」と書かれた紙が置かれた殺人事件が起きていた。タイトルは「怨うらみの六文字」。忠相はやくざものに襲われていたお秋(アオイヤマダ)を助けたところ、復ふく讐しゅう劇の渦中に巻き込まれることに。自ら人質となって脅されるも、冷静沈着な忠相。さらには、夫の忠相を信じて理解しているデキる妻・雪絵(美村里江)の存在も大きく、犯罪者に屈することなく、20年前の殺人事件も含めて無事解決。

第4話では、貧しくても働き者で真面目なたばこ屋の夫婦(尾上寛之・大後寿々花)がうっかり巻き込まれる話。大店おおだなの若旦那(森永悠希)と女郎(宮部のぞみ)の駆け落ち心中未遂、そして手て練だれの元・盗人ぬすっと(中村梅雀)による窃盗が、たばこ屋夫婦の平穏な生活を乱す。罪を犯した者の最後の良心を引き出したのが、忠相の温和な折伏しゃくぶくだ。

いろいろな要素を折り重ねて、因果応報に仕上がっているだけでなく、登場人物も結構多いので、1話45分があっという間に感じる。忠相は主人公ではあるが、市井の人々が主軸として描かれるため、思ったよりも出番が少なかった。いや、少ないからこそ、無言の表情や立ち居振る舞いに説得力が求められるわけで。克典忠相は穏やかさの中にも鋭さと渋みが適宜盛られていて、丁度ちょうどいい塩梅あんばいである。


清く正しく優しい世界で期待するキャラ

忠相が率いる南町奉行所の与力(嶋田久作)や同心たち(金山一彦・加藤頼・黒川英二・財木琢磨)、岡っ引きに下っ引き(石井正則・柄本時生・山崎裕太)が駆けずり回って暗躍しているからこそ(悪い意味ではない)、物語は成立。忠相の幼おさな馴染なじみである蘭方医の榊原伊織(勝村政信)も、病人やけが人の治療にあたる頼もしい味方に。さらには、元同心で今は忠相の家に仕えている源さん(高橋長英)や、元盗賊で今は小料理屋主(密偵もやる)の三次(近藤芳正)の存在も、忠相の寛容さと人徳を表現する重要な役どころだ。

ただ、ちょいと“クセつよ”キャラも必要悪。出しゃばりというか、やたら町に出たがる上様を演じる徳重聡も、うっすら厄介やっかいな殿様として面白い。もうなんか余計なことをしでかしそうな気配があって、忠相を困らせてくれそうだから。

また、聡明そうめいかつ庶民に寛容な忠相をあまり快く思っていない老中首座の松平左近将監(田村亮)も、いちいち意地悪でいい。つうか、田村亮は私が子供の頃から、つまり40年以上見た目が変わっていなくて驚愕きょうがくした。何を食べているのかしら。どんなに優しくて正しくて人間力がある主人公にも、壁が立ちはだかってるほうが盛り上がるし、そこを重鎮俳優に任せる手放しの安心感がある。

さらに松平の庇護ひごを受けている北町奉行所の伊生正武(高橋光臣)も、微妙に忠相への対抗心と小物感が露呈していて愛らしい。こっちの高橋も負けていないわけだ。高橋光臣には、嫉妬やくやしさで常に爪を噛かんでいてほしいという密ひそかな願いもある。しかし、高橋さんが多いわね。

ということで、テレビから時代劇が激減し、あったとしても戦国時代や幕末が偏重される今、江戸の庶民のいざこざや悲喜こもごもが描かれる作品は貴重だ。また、地上波から2時間ドラマがほぼ消滅したせいか、しばらくぶりにお姿拝見というベテラン役者もちらほら出演しているし、「え? この人が時代劇に?」というトリッキーなゲストもいて、意外性も楽しめる。こうなったら、NHKで「座頭市」や「三匹が斬る!」あたりも令和版を作ってくれないかしら。


BS時代劇「大岡越前9」(全8回)

9月6日(日)スタート
毎週日曜 NHK BS/BSP4K 午後6:45~7:28

毎週金曜 BSP4K 午後7:30~8:13(再放送)
※NHK ONEでの同時・見逃し配信予定 (ステラnetを離れます)

NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます

ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。