やなせたかしと深い絆で結ばれていた作曲家・いずみたくをモデルとする人物、いせたくやが、連続テレビ小説「あんぱん」に登場。たくやを演じているのは、大人気バンドMrs. ミセスGREENグリーン APPLEアップルでボーカル・ギターを担当する大森元貴だ。その大森に、たくやの人物像やモデルとなったいずみたくへの思いについて話を聞いた。


いずみたくの志に自分と共通するものを感じて

――大森さんにとっては初めてのドラマ出演ですが、連続テレビ小説への出演オファーを受けてどんな気持ちでしたか?

うれしかったですね、率直に。まさか自分が、というか想像もしていなかったことなので。役柄を聞いて、やっぱり自分も音楽をやっている身なので、何か志が通ずるというか、もし力添えできることがあれば、ぜひかかわらせていただきたいと思いました。光栄、という言葉に尽きますね。

――その際に、役どころの説明もあったのですね。どのような印象を持ちましたか?

いや、本当に「僕で大丈夫ですか?」みたいな。いずみたく先生というのは、本当に多くの名曲を、日本人の心に残る、記憶に残る楽曲を数多く作ってこられた方ですよね。その実在された方がモデルの人物を演じるなんて、もちろん初めてだし、自分でもどんなふうになるんだろう? と想像ができませんでした。

――志が通ずるという点について、もう少し詳しく聞かせてください。

戦後の音楽界、エンターテインメントの中では海外の楽曲も多く、日本語で口ずさめる曲がまだまだ少ない時代でした。そんな中で、いずみたく先生が全国民みんなで歌える楽曲を作ろうと考えたという、そんな志があったことを資料で拝見しました。時代は違いますけど、届けるのであれば、より多くの人に楽曲を届けたいという感覚は僕もわかります。楽曲はドラマであり、人の心を救うものであり、鼓舞させるものであるという、エンタメが持つ力を信じているという点では、すごく通ずる部分があるな、と。おこがましいのですが、そう思いました。

――出演にあたって、周りの方々からの反響は?

あまりにもすごいことすぎて、誰も声かけてくれない、みたいな(笑)。まずメンバーが「え? 映画の主演をやった後に“朝ドラ”かよ!」って驚いていましたね。いや、僕も、そう思っているんですけど(笑)。
ことし4月公開の『#真相をお話しします』

朝ドラは、幅広い年代の方に届く、日本を代表するカルチャーだと僕は思っているので、そこに参加できるというのは、誇らしさもあり、ちょっとした親孝行の気持ちもあり……。そして、やっぱり微笑ほほえみとともに見られるし、それでいて深く突き刺さるドラマという印象があります。それが脈々と作られてきた歴史の中で今回「あんぱん」に出演できるというのは、周りの反響もそうですけれど、僕自身がすごく嬉しいですね。

――メンバーのお2人は、びっくりされた後、どんな言葉をかけてくれましたか?

気を遣ってくれているのか、「頑張ってね」とか、言わないんです(笑)。ちょっと離れたところから見守ってくれている感覚があって。最初は驚きが先行していたと思いますが、自身のドラマ出演は自分たちのバンドの活動にも大きくかかわってくることなので、ちゃんと相談をしながら、そして2人もすごくしんに朝ドラに対して考えてくれているなという印象ですね。


台本を読んで「これはネタバレ本ですか?」と(笑)

――ちなみに、これまでの「あんぱん」の放送をご覧になって、どんな感想をお持ちですか?

何よりも、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が背負っているものが、とんでもなく大きいなと思っています。のぶがいろんな葛藤を抱えながら戦争の時代に向き合ってきて、嵩も次の一歩を踏み出せないままモヤモヤとして、でも心の中には燃えているものがあって、ということをこのテンポ感で描いているので、すごく新鮮な朝ドラだなと思って見ていますね。

僕らは、やなせたかしさんが「アンパンマン」を描かれるという、いちばんの“オチ”を知っているから安心してのぶと嵩の行く末を見守れるけれど、ここまでの放送は深く考えさせられることばかりだったじゃないですか。特に戦争の時代は、見る人それぞれで感じるものがあるでしょうし。同時に、今田さんと匠海くんが背負ってくれているものも、とんでもないなと僕は思いますね。

――今日放送の第19週から登場されますが、その戦争が終わった後の台本を読んで、どういう感想を持ちましたか?

戦争が終わってから一気に時代が進み、時代の過渡期なんだなと強く感じました。同時に、「これ、もうネタバレ本ですか!?」と(笑)。最初は視聴者の方々と同じ目線で台本を読んでいて「あっ、こうなるの?」という気持ちになりましたね(笑)。その次に、自分のセリフ量の多さに「えっ?」とおののく、という順番でした。


いせたくやは空回りしているようで、実は頭が切れる人物

――クランクインまでに、いずみたくさんをかなり研究されたと聞きましたが、いずみさんの人物像の印象と、それを演じるいせたくやにどのようにつなげていったのかを教えてください。

いただいた資料を拝見して、自分でも先生について書かれた本や、ご自身の自伝というかエッセイを読ませていただいて、やっぱり時代を作る人だな、本当に血が通った人だな、という印象を持ちました。この「あんぱん」でのいせたくや登場も戦争が描かれた後なのですが、激しい時代の移り変わり、エンターテインメントが過渡期を迎えている中で、とても高い志を持った方だなと。今日に至るまでの日本の音楽の歴史を見れば当然わかることですし、それをどういうふうに自分が表現しようかということは、ずっと考えていました。

――そのうえで、いせたくやのキャラクター像をどのように捉えましたか?

めちゃくちゃピュアで、愚直ですね。キャラクター的にはすごく言葉数も多いし、空回りもしていそうだけども、頭が切れて、人の表情やその場の空気感というものを、ものすごく敏感に察知できる人。そのあたりの細かなニュアンスは、もう文字の段階で台本からひしひしと感じてきましたので、まず「どうしよう?」と思い悩みました。あとは、純粋にセリフの量が多いので……(苦笑)。

――脚本の中園ミホさんや制作陣から「こういうふうにやってほしい」というような要望は?

実際に「こんな感じで」というものはなかったですね。でも、いせたくやが持っている前向きなエネルギーというところが、すごく時代を象徴していると思いますし、「とにかくピュアに」というワードは、打ち合わせでも何度か出ていた気がします。

――演じるための心持ちなどで準備されたことはありますか?

僕、もう準備とかわからなくて。いせたくや自身は、かなり空気が読めていないというか、本当に前のめり、音楽の話、芝居の話がとにかく大好きで思わず足が一歩出てしまう感じだったんですよ。ですので、戸惑うことのないように、なるべく自分も柔軟に、お芝居の中で起こることをなるべくキャッチしたいなというふうには、僕なりに思って撮影に臨みました。

――たくやが何だかウキウキしている感じが出ていたと思います。

確かに、ずっとウキウキしていますね、たくやは(笑)。


朝ドラの現場って……、楽しい!

――初めて連続テレビ小説の現場に入っての感想は?

これが、めちゃくちゃ楽しかったんですよ! 少し緊張もしましたけれど、変な不安感などではなくて。スタッフさんも演者さんたちも本当にすばらしくて、温かく迎えてくださったので、自分がうじうじと考えてもしょうがない、とにかく自分が出来得ることに全身全霊で臨もうと思って、それに精一杯せいいっぱいでした。ドキドキしたというよりも、その場に入れて「あっ、楽しい!」って思いましたね。

――たくやは登場したときから雄弁な青年でしたね。

そうですね。そのフレッシュでピュアで前向きな、音楽と芝居が本当に好きな青年を演じるというのが、ものすごく新鮮でした。音楽をかじっている身としてわかる部分、刺激を受ける部分がたくさんあったので、どうやってこのフレッシュさを見せていくのか、それを考えました。

そして、戦争が終わった後というのが僕の中では大きなキーワードになっていて、そこにフレッシュな青年が登場してくることで、新しい世代が時代を作り上げていく、未来を感じるようにと思っています。自分のペースで生きているたくやですが、なるべく彼が空振りしないように、ノンデリカシーにはならないように、台本をいただいてから自分の中で気にしていたバランスですね。

――初登場時は18歳の設定ですが、その年頃の男の子を演じることへのプレッシャーは?

めちゃくちゃありましたよ。18! って(笑)。でも、僕はバンドとしてのデビューが18歳だったので、そのときの気持ちだったり、未来に対するワクワク感だったりをもう一度呼び起こして、自分が持っている思い出と照らし合わせながら、ということを意識しました。やっぱりフィジカル的な意味でもそうですし、表現の瞬発力という意味で「18歳のとき、どうだったっけ?」みたいなところは、すごく考えて臨みました。

当時は不安感というよりかは、毎日ワクワクしながら、どういうふうにモノづくりをしようか考えていて。それでも壁にぶち当たって右往左往する中で、とにかくクリエイトすることが好き、みたいな……。とにかく表現することが好きだという、それはいまだにそうですし、そういった自分の根幹となる部分が結局引き出しになるだろうな、と思いました。

――今はまだ何者でもない、いせたくやを、大森さんが作っていくことになりますね。

実際、「あんぱん」の現場に入ってみると、その場その場で瞬間的に生まれていくものを、ものすごく大切にされている印象があるんです。僕がチラッと見たときの表情を、嵩役の北村匠海くんがすごくすくい上げてくれる形で、寛大に受け入れてもらっている感じがあって。だから、本当に現場に入ってから、いせたくやという人物像ができあがっていった感覚がすごくありますね。