ドラマの出演者やスタッフが「この回のあの人、あのシーン」について語ったコメントを不定期で配信するコーナー。今回は、北尾政演まさのぶ山東さんとう京伝きょうでん)役の古川雄大さんから!

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古川雄大さんの第29回振り返り

——『江戸えどうまれ艶気樺焼うわきのかばやき』が誕生する過程で、北尾政演が抱える戯作への真摯しんしな思いが描かれました。

常に余裕を見せていた政演が、実はとても繊細で、作品に取り組む際には陰でものすごく努力していたことが今回わかりました。でも、それを誰にも見せてこなかった……。

高く評価された『御存ごぞんじの商売物しょうばいもの』の時も、「鶴屋(喜右衛門/風間俊介)さんの言う通りにしたら何だか出来ちゃった」なんて言っていましたけれど、その裏では「なぜ、こんな発想ができるんだろう?」「この思考はどこから生まれるんだろう?」と、恋川春町(岡山天音)先生をうらやましく思って分析や研究を重ねていたんですよね。政演は、ずっと一人で戦っていたんだな、と感心しました。

政演が育った深川には岡場所(非公認の妓楼ぎろう)もあって、そんな土地柄が政演の反骨心を育んだのではないかと思います。重政しげまさ(橋本淳)さんの元で頭角を現したのも、吉原を描くことで己の才能を発揮していったのも、文の才能を見いだされたのも、すべては反骨心のおかげ、という気がしています。

——そんなクリエイターとしての苦悩、努力などは、古川さんも共感できる部分があるのでは?

深川育ちの政演は、妓楼を描くことにはけていたと思います。感覚的にも鋭いものがあったんでしょうけど、文を書くことはまだ発展途上の人。ゼロから1を生み出す作業にはすごく苦悩しただろうと思います。

僕もアーティスト活動では自ら作詞・作曲をしていますが、歌詞を作るときには、無限の道筋の中から一つ一つ選択していく作業がすごく難しいと感じます。いいものを作りたいと、誰かのエッセンスをもらいたい気持ちもわかりますし、それが理解できる分、政演の悩みが胸に迫ってきました。

きっと政演は、自分にもできると考えていたと思うんですよ、器用な人だから。ただ、深みというか、春町先生のように“通”をうならせることに関しては、自分はすごく劣っていると、どこかで感じていた。だから、時間がない中で「自分にはできない」と逃げようとしたのだと思います。

——しかしながら、つたじゅう(横浜流星)は北尾政演を見捨てませんでした。

蔦重さんは「政演なら、できる」と信じて、いろいろヒントを与えてくれました。自分一人ではなく、誰かの力を借りて物語を作っていくことを知った政演は、これからさらに成長していくでしょう。「べらぼう」では、『江戸生艶気樺焼』が劇中劇になっていて、“山東京伝は蔦重が見いだした存在”という構図が、より色濃く描かれていると思います。

『江戸生艶気樺焼』の主人公・艶二郎は、不細工な顔の男という設定なのですが、それを色男として知られた政演が演じるという面白さもあるし、そのほかの登場人物を「べらぼう」のキャストの方々が演じたのも面白かったです。この作品を通して、蔦重が掲げていた「本で人の心を豊かにしていく」ことも表現されていましたし、いろんなドラマが詰め込まれていたと思います。

——劇中劇について、台本を読んだときの印象や収録現場での裏話を教えてください。

政演がより深く描かれている喜びと、『江戸生艶気樺焼』の物語ともちょっとリンクしているという受け止め方もできるので、とにかく楽しみでした。見た目で言うと、つけ鼻をしているのが面白いポイントですけど、僕はもっと不細工にしたくて垂れ目にするなど、メイクの北原勇樹さんと相談しながら作りあげました。

鼻をつけたままNHKの食堂に行ったら、本当にいろんな方から不思議な目で見られて……(笑)。共演者との会話も、鼻の話から始まるんです。「それ、息できるの?」とか「(メイクに)何時間かかるの?」とか。(大田なん役の)桐谷健太さんは挨拶をしたときに僕だと気づかなかったみたいで、ちょっと引き気味にお辞儀じぎをされました。後で話を聞いたら「鼻のでかいエキストラの人だと思った」と(笑)。

「各自の役のエッセンスを残しながら、劇中劇の役を演じてほしい」という演出の意向があったので、遊びのニュアンスを入れつつ、普段の現場とはまた少し違う雰囲気で収録しました。劇中劇自体もポップに仕上がったと思うので、良かったです。

——いろんなエピソードが描かれていましたが、印象に残っているのは?

艶二郎が白目をむいてぶっ倒れる場面ですね。そこはスタッフさんからも「面白かったよ」と言っていただけてうれしかったです。あと、艶二郎が最高潮に気持ちよくなる瞬間があるのですが、そこでは歌舞伎役者のような芝居を意識しました。劇中劇の中でも、更に演じている構図が面白かったです。

何より、現場が終始“つけ鼻”の話題で持ちきりだったのも、今となってはいい思い出です。何回も同じ説明をしたので、説明の仕方しかたも上手になりました(笑)。