現在放送中の、連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツと、外国人の夫・ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに紡ぐ“夫婦の物語”です。

ヘブン(トミー・バストウ)を松江に招いた島根県知事・江藤安宗を演じるのは佐野史郎さん。ドラマの感想や、故郷松江についての思いを語ったメッセージが届きました。


島根県知事・江藤安宗やすむね役 佐野史郎

島根をこよなく愛し、島根を日本が誇る一流の県へ押し上げようと情熱を燃やす知事。
これからの時代を担う若者たちには英語教育の充実が不可欠だと考え、外国人教師としてヘブン(トミー・バストウ)を松江に招く。

【佐野史郎さんのコメント】

――今回、初の朝ドラ出演になります。決まったときの感想を教えてください。

島根県・松江市出身で、これまでも「だんだん」や「ゲゲゲの女房」など島根を舞台にした朝ドラは何本かありましたが声がかからなかったので、「もう朝ドラには出ないんだろうな」と思っていました(笑)。でも、今回「ばけばけ」のお話をいただき、このためにこれまで出演することがなかったんだと思いましたね。

僕は小泉八雲のひ孫の小泉凡さんの監修のもと、奥様の祥子さんのプロデュースで小泉八雲の朗読を18年続けているのですが、昔から小泉八雲とセツのドラマをいつかやりたいという話をNHK松江局でもしていたので、今回「ばけばけ」の制作発表があった時は、みんなも喜んでいましたし、僕もお声がけいただけてうれしかったです。

――演じられる江藤安宗は、どんな役ですか?

江藤の直接のモデルではありませんが、小泉八雲を教師として招聘しょうへいした籠手田こてだ安定やすさださんは、滋賀・新潟・島根の知事を務められた立派な方で、武術の達人でもあり、質実剛健のイメージを持っていました。だから、台本で最初に江藤という役を読んだ時は、えらくとぼけた人だなと(笑)。でも、島根をこよなく愛し、西洋近代文明をいち早く取り入れるところは、ちゃんと押さえられていますね。

実は当時の知事は国から遣わされていて、籠手田さんも長崎出身。出雲ことばはほとんど話さなかったと思います。ですが、松江の人間である僕が知事役を務めることもあり、ドラマでは松江出身の島根愛の強い人物像の設定となりました。地元の人に「変な出雲ことばだ」と言われるのは嫌なので、実は相当プレッシャーを感じています。

近代化を促していきたいんだけど、異国の人に思いを寄せる娘のリヨ(北香那)のことは心配という、混迷していた時代の中で近代化推進と伝統を重んじる価値観を同時に持つ人物だとも思います。僕にも娘がいるので心情がわからなくはないし、フィクションと現実が重なるような気持ちになったり……。小泉八雲の朗読を続けていることも含めて、「ばけばけ」というドラマを生きるだけでは収まらない、現実とフィクション、現代と明治の時代を同時に生きているような感覚でいます。


――小泉八雲の作品を長年朗読されてきた佐野さんから見て、「ばけばけ」の印象はいかがですか?

僕は研究家ではないけれど、それなりに小泉八雲に関する書籍を読んできているので、大体の流れは把握しているつもりです。それでも、知らないような深いところを掘り下げていて、すごくしっかりして筋が通っている。もちろんフィクションだから事実と違ったりデフォルメしたりしている部分もありますが、本質から逸脱することはありません。ある程度、ヘルン(小泉八雲)とセツのことを知っている人でも、このドラマを見たら、「そこまでやるんだ!」という感じは、お受けになるのではと思います。

実際のセツさんがどんな方だったのかはセツさんが記した『思ひ出の記』などから想像するしかないのですが、怪談や本を読むのが好きな、いわゆる「怪談オタク女子」的な感じがしています。もしご存命であったら、きっと仲良くなれるんじゃないかな(笑)。そんなセツをモデルにした松野トキに、髙石(あかり)さんのあの大らかな感じがこのドラマにおいてピッタリだなと感じています。

ヘブンを演じるトミーさんは、よく研究なさっているなと思います。実際のヘルンさんを見たことがあるわけではありませんが、たたずまいはもちろん、その気性といいますか、決して優しいだけの男ではない強面こわもてなところも表現されていて、流石さすがにロックバンドFranKoを率いているだけのことはあるなあと敬服しています。

西田千太郎がモデルの錦織にしこおり友一を演じる吉沢亮さんは、芝居を交わすたびに、その正直で真っすぐな姿勢にき込まれてしまいます。錦織が抱える後ろめたさや引き裂かれるような思いは、実は影の主役というか、近現代の日本が抱えてきた歴史の闇を代弁しているようにも感じています。

――「ばけばけ」の見どころ、視聴者の方へのメッセージをお願いします。

「ばけばけ」の登場人物は、みんなが誰かを思いやっています。
今、自分の権利や立場を主張してばかりで、相手を攻撃するようなことが増えているように感じることも少なくありませんが、価値観が変化していく中で、人にとって大切なものとは何かということを改めて問いかける物語であり、トキとヘブンのふたりを取り巻く登場人物たちも葛藤しています。
その答えは簡単には出せないものかもしれないけれど、現実を「怪談」というフィクションとして捉えることができれば、救われることもあると思います。

今回のテーマは、価値観の違う者同士がどうやったら一緒に共存できるのかということを諦めずに生きていきませんか?という問いかけだと思います。江藤を演じながら、役柄と自分自身という葛藤とも重ねて、常にそのことを問われ続けているように感じています。そのことを視聴者の方々とも共感できたらと思っています。
松江出身の俳優として、また江藤知事としても、視聴者の皆さんにいにしえよりの歴史の残る松江に興味を持っていただき、松江を訪れていただけるようになったらうれしいですね。


【物語のあらすじ】
この世はうらめしい。けど、すばらしい。

明治時代の松江。まつトキは、怪談話が好きな、ちょっと変わった女の子です。
松野家は上級士族の家系ですが、武士の時代が終わり、父が事業に乗り出すものの失敗。とても貧しい暮らしをすることになってしまいます。
世の中が目まぐるしく変わっていく中で、トキは時代に取り残されてしまった人々に囲まれて育ち、この生きにくい世の中をうらめしく思って過ごします。
極貧の生活が続き、どうしようもなくなったトキのもとに、ある仕事の話が舞い込んできます。
松江に新しくやってきた外国人英語教師の家の住み込み女中の仕事です。外国人が珍しい時
代、世間からの偏見を受けることも覚悟の上で、トキは女中になることを決意します。その外国
人教師はギリシャ出身のアイルランド人。
小さい頃に両親から見放されて育ち、親戚をたらい回しにされたあげく、アメリカに追いやられ、居場所を探し続けて日本に流れ着いたのでした。
トキは、初めは言葉が通じない苦労や文化の違いにも悩まされます。ところが、お互いの境
遇が似ている事に気が付き、だんだんと心が通じるようになっていきます。しかも、二人と
も怪談話が好きだったのです!
へんてこな人々に囲まれ、へんてこな二人が夜な夜な怪談話を語り合う、へんてこな暮らし
が始まります――。


2025年度後期 連続テレビ小説「ばけばけ」

毎週月曜~土曜 総合 午前8:00~8:15ほか ※土曜は一週間の振り返り

作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
出演:髙石あかり、トミー・バストウ/吉沢亮 ほか
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史、小林直毅、小島東洋

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