主人公・松野トキ(髙石あかり)を見守っている母・松野フミ(池脇千鶴)。出雲大社の上官家で育ったフミは、出雲の神々の物語や生霊・死霊の話、目には見えないモノの話に詳しく、よくトキにもお話を聞かせてあげている。そんなフミの影響で、トキも怪談好きに。フミは、ちょっと頼りない夫・松野司之介(岡部たかし)や義父・松野勘右衛門(小日向文世)を優しく見つめながら、いつも明るく松野家を支えている。
そんなフミを演じるのは、24年ぶりの朝ドラ出演となる池脇千鶴。池脇にフミを演じる上で意識していることや、「ばけばけ」という物語の魅力について聞いた。
松野家の面々が大真面目にやっているのが面白い
――個性的なメンバーが集まった松野家ですが、第10回のお見合いのときには、銀二郎(寛一郎)と出かけたトキの帰りを一家でてっぽう(木に向かって突っ張りを繰り返す動作)をしながら待つシーンにはクスリとさせられました。
はい、松野家はいつも賑やかです(笑)。クランクインのシーンは第1話の丑の刻参りのシーンだったのですが、朝ドラの一番最初から、「こんなに暗いシーンなの!?」と驚きました。でも、こういうシーンがお茶の間の画面に飛び込んできたら、面白いだろうなと思いながら撮影しました。
――丑の刻参りの司之介も、笑ってしまうくらいのインパクトでしたね。
おトキは半分引いているところがあるんですけど、司之介さんと勘右衛門さんは大真面目なんですよ。あの2人は本気でああやって生きているから、フミとしては笑うほどではないというか、別に面白くもないんです。「また、やってるな」ぐらいで(笑)。夜中に起こされて、いつまで「ペリーペリー」って言っているんだろうと、呆れ半分に見ているんですよね。だから、笑いは込み上げてきませんでした(笑)。
――司之介と勘右衛門がボケ役で、フミはツッコミ役なのかと思いきや、一緒にてっぽうをやったりなど、フミさんにはお茶目な一面もありますよね。
私もウケようと思ってしているわけではなくて、大真面目にやらせていただいています。でも、真面目にやっているのが面白いみたいで、スタッフの皆さんが笑ってくださるので、安心して演じています。
みんなを寛容に受け入れているけれど、フミ自身もどこか抜けている女性です

――主演を務めた「ほんまもん」(2001年)以来、24年ぶりの朝ドラ出演ですが、改めて出演オファーを受けた時の率直なお気持ちを伺えますか?
うーん、どうしようかなと思いましたね。朝ドラが大変なのはよく分かっていましたから。「フミは(途中で)亡くなりますか?」と制作の方にお聞きしたら、「ずっと生きています」というので、ずっと出続けるんだなとか、そっちの大変さを先に考えてしまいました(笑)。夏の撮影も久しぶりで、体力が持つのかなとか、そういうことが心配でしたね。でも、脚本自体がすごく面白くて、明るいなと思いました。私自身、あまり明るい話を演じたことがなかったし、最近は肩が凝るようなテレビドラマも多いから、こういう明るいドラマはすごく観やすいし、朝にぴったりだなと思って、それでやってみようと決めて飛び込みました。
――実際に撮影が始まってみて、体力的にはいかがですか?
いや、やっぱりきついですね(笑)。撮る分量もすごく多いですし、もちろん主人公のトキを演じる髙石あかりさんが一番たくさん出られているんですけど、トキが家に帰ってくる限り、私は絶対にいるんですよね。だから、トキと同じくらい出てしまっているというか(笑)。「いってらっしゃい」から、「お帰りなさい」とか「おやすみ」まで、ずっと私はどこかにいるので、結構大変だなと感じています。
――確かに、フミさんの出番も多いですよね。フミを演じるにあたって、役作りで意識されていることはありますか?
この作品は完全に時代劇なので、改めて所作を教えてもらわなくちゃいけないなと思っています。正座をして膝の上で手を組んだ時に、どちらの手を上にするかにしてもお作法があるので、そのお作法と役柄の気持ちとセリフとを連動させて動くのがとても難しいです。所作指導の先生からは、右手は「動」、動く方の手だから、「静」の左手を上に重ねることで、「右手を左手で鎮める」=「敵意はありません」という意味合いがあると教わりました。今は落ちぶれてしまっていますけど、フミも元々は武家の女性なので、そのあたりの所作はちゃんと引き継いでいかないといけないなと思っています。
――演じられてみて、フミという女性の魅力はどんなところにあると感じていますか?
司之介さんと勘右衛門さんはマイペースで、おフミさんはふたりのことを寛容に受け入れているんだけれど、自分自身もどこか抜けているというか、ふたりよりもさらにもうひと回り器が大きい人なのかな。家族の問題を全部受け止めつつも、自分もちょっとボケてるようなところがあって、そこがとても魅力的な女性だなと感じています。
トキは自分の子で、自分が育てていくというプライドがあるんです

――フミは母親としての愛情がとても深い女性だと感じていましたが、第13回で、実はトキの生みの親ではなく、育ての親だということも明らかになりました。
フミとしては、「預かり」という意味ではなくて、実の子として育てているんです。だから、トキのことを自分のそばできちんと育てて、ちゃんと生きていけるようになるまで見守っていきたいと思っているんですよね。
――フミにとってタエ(北川景子)はどのような存在なのでしょうか。
確かに、タエに対しては一種の気まずさがあるのかもしれません。トキは我が子ではあるけれど、実際はタエが産んだわけですし、それを誰にも言わないという約束もある。さらに、タエの方が自分より身分が上だから、フミにはその身分の違いを気にしている部分もあって。だから、フミとしては、トキは絶対に自分が育てていくというプライドを持っていることを、その時々でちゃんとタエに見せなくてはいけないと思っているんですよね。
タエさんもフミのことを認めてくださっている感じではあるし、フミもタエに気を遣ってはいるんだけれど、どうしても物申すべきところでは物申すというか、そこは身分関係なく、「自分の子供である」トキを守る一心なんだと思います。
トキが東京から戻ってきた時の、フミの心中は?

――第20回では、夫である銀二郎(寛一郎)を追いかけて、東京に行っていたトキ(髙石あかり)が松江に帰ってきました。トキを迎えるシーンの撮影はいかがでしたか?
帰ってきてくれて、すごくうれしいんだけれども、トキがなにか病気をしてないか、怪我をしてないかと、迎え入れた時にはその心配が先に立ちました。なので、思わず身体の埃をはらったり、トキの足に触れてみたりしていました。
――フミとしてはトキに帰ってきてほしい気持ちもありつつ、東京で銀二郎と幸せになってほしいという気持ちもあったのではと思うのですが、トキを待つ間はどんな心境だったのでしょうか。
完全に「東京で幸せになってほしい」ですね。
――それは、もう100%、そちらの気持ちだったのですか?
そう思っていました。もう東京へ送り出したのだから、フミはそれでいいと思っていたんじゃないでしょうか。うちの男どもは女々しくて、「おトキおトキ」と過保護なので(笑)、彼らとは違う考えだと思いますが、フミはちゃんと自分自身で添い遂げる人を見つけて、東京で幸せになれるのであれば、それでいいと思っていたと思います。

――では、出迎えた時のフミは、実は複雑な心境だったのですね。
無事帰ってきてくれてうれしいのはうれしいものの、事情は知りたいですよね。銀二郎さんとの間に何があって、戻ってくることになったのかは、その後じっくり聞いたんだろうなと。でも、トキが決めたことだからと納得したんだと思います。
――最後に、放送を楽しみにしていらっしゃる視聴者の方にメッセージをお願いいたします。
松野家の面々——トキ、フミ、司之介さん、勘右衛門さんが、大真面目にバカなことを言ったりやったりしているところを、肩の力を抜いて、クスッと見てもらえたら、それが一番うれしいです。松野家の4人は本当に和気あいあいとしていて楽しいんですけど、撮影が終わった後の松野家も和気あいあいとして、とっても楽しいんです。そういうところが、いい具合に松野家のシーンにもにじみ出ていると思うので、毎朝、演技ではない楽しさを味わってもらえたらいいなと思っています。