ドラマの出演者やスタッフが「この回のあの人、あのシーン」について語ったコメントを不定期で配信するコーナー。今回は、脚本家の森下佳子さんから!
森下佳子さんの第47回振り返り
——一橋治済(生田斗真)は松平定信(井上祐貴)らが仇討ちするにはかなりハードルの高い相手です。今回斎藤十郎兵衛(生田斗真の二役)と入れ替えて島流しにするという驚きの展開を迎えましたが、このアイデアは最初から考えていたものなのでしょうか。
初めに考えていた出口とは、途中で違う方向性に変えました。
最初は具体的な仇討ちではなく、蔦重(横浜流星)が「写楽の謎」を仕掛けることを出口に考えていたんです。やってもやっても企みが潰されていくなかで、何も残っていなくても、謎が残れば人は探すじゃないですか。そして古びない。実際、「写楽が誰か」ということに、長年多くの人が走り回されたわけですし。「写楽は誰か」という謎を残すこと自体が蔦重の仕掛けだったとしたら、時を超えた大きな仕掛けになるな、と考えました。
治済に対する直接的な仇討ちは今生では果たせないけど、それは歴史が下すだろうと。隠れて権力を握り、好き放題していた卑怯者には誰も感銘を受けない。だけど、一生懸命に生きた蔦重たちの跡形は残るだろうし、例えば「源内通り」のように名を残すこともできる。それが治済に対する復讐になるのでは、というのが最初に考えていた出口でした。

でも、書いているうちに「すごく観念的だな。この出口で果たして視聴者はスッキリするんだろうか」と思い始めて……。スッキリする方法はないのかな、と考えて出てきたのが今回の入れ替わりの形でした。写楽の謎の作り方や絵をどうやって描いたのか、定信がどう関わるかなどは当初のプランどおりですが、治済に対する仇討ちをどう合体させるかについては、途中で思いついたことです。
治済が傀儡を好きなことについては初めから敷いていた設定ですけど、能面については仇討ちのプランが変わったことによって途中から付け加えたものです。すべてが終わって、振り返った時に効くガジェット(気の利いた小道具)になればいいな、と。
