松野トキ(髙石あかり)の親友で幼なじみの野津サワ。元下級武士の娘で、貧しい家に生まれ、いつか不自由ない生活を夢見る家族の期待を一身に背負いながら成長してきた。そして、安定した生活を手に入れるため教師を志す。ちょっと変わったトキのことをありのまま受け入れてくれる、唯一無二の親友である。そんなサワを演じるのは、円井わん。トキとの共演シーンで感じたことや、朝ドラへの思いを聞いた。
毎回、脚本を読むたびに、なんだか“人間勉強”をしている感じがします

──第3週のラスト、実の父・傳(堤真一)を亡くして大泣きするトキ(髙石あかり)をサワは抱きとめて慰めます。このシーンがとても印象的でした。どんな思いで演じられましたか?
サワとしては、泣くつもりはなかったんですよ。でも、なぜだか、泣けてきちゃって……。
このシーンに限らずなんですけど、「ばけばけ」の撮影現場の特徴として、俳優の感情の引き出しを信じて待ってくれる感じがあります。その結果、本番では、当初の段取りとは違う動きや表情になることが結構あって……。だから、常にアクティブにお芝居ができている感触があり、思ったことを引っ込めずに「やってみよう!」と思いきって試せるんです。それであのシーンでも、最初は泣こうとは思っていなかったのに、勝手に涙があふれてきてしまったんです。
サワはトキの幼なじみであり、親友です。少し変わったところのあるトキのことを、全部、理解している。何かあっても、例えば視聴者のみなさんが「え?」と思うことがあっても、「そうだよね、トキはそういう子だよね」と、真正面から受け入れる、そんな“器”みたいな存在でありたいと思っています。
だから、あのシーンで、トキの「取り乱したいんだけど、取り乱し方がわからんの」に対して、「上手に取り乱せちょるよ」というのは、サワだからこそ言えた言葉。「ああ、こういう受け止め方、慰め方もあるのか」と、しみじみ思いました。毎回、脚本を読むたびに、なんだか“人間勉強”をしている感じがします。
そもそも「ばけばけ」の登場人物には人間味のある人物が多いんですけど、とりわけ、サワは、全人類の人間性を集めたらこうなる! みたいな、人間味にあふれた人ですよね。どんな人でも共感できる部分を持ち合わせているんじゃないかな。思いやりがあって優しくて、頼りになる。どこか達観しているかと思えば、素直に嫉妬もする。家族のために一生懸命頑張る反面、嫌なものは嫌だと、思っていることははっきり言う。理想的な性格だなあと思いますね。

──そんなサワから見て、松野家ってどうですか?
もう、司之介さん(岡部たかし)、最低! と思ってます。なあんて(笑)。でも、矛盾だらけでおかしな家族ですよね。勘右衛門さん(小日向文世)も、フミさん(池脇千鶴)もなんだか不思議。サワからすれば、「トキがかわいそうだな」と思うこともありそうですけど、結局は「仕方ない家族だなあ」じゃないですか。それに、そう言いながらも自分の家族のように慕っている感じもしますし。幸せの形って、やっぱりお金とか、そういうことだけじゃないよね、というのが表れている家族なので。もしかしたら羨ましいなあと思っているかもしれない。
サワ自身も、貧しい家の生まれで、自分が一家を支えていくために、教師を目指しているわけですから。貧しくても、いつも仲がよくて雰囲気がいい松野家は、ひとつの理想だと思っているかもしれませんね。
私にとって怪談の世界は、非日常であり、人恋しさ、懐かしさでもあり、親しいものでもあり……
――改めて、「ばけばけ」への出演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。
すごいご縁だなと思っています。出雲の神さまに呼んでもらったようで感謝しかないです。
まず、チーフ演出のひとりである村橋直樹監督です。私の主演映画(『コントラ KONTORA』)がグランプリをいただいたエストニアの映画祭(タリン・ブラックナイト映画祭)で、もう1本、日本から選ばれていたのが、なんと村橋監督の映画(『エキストロ』理由ある反抗部門)だったんです。
そして、実は、私の母が小泉八雲の大ファンでして……。私も子どものころから、怪談話は身近だったという、トキみたいな生い立ちなんです。今でも、毎日のように怖い話の動画を見ちゃいますし。
それからヒロインのあかりちゃんは、以前から何かと近いところで活動されている方で、気になりつつも、すれ違いばかりでなかなかお会いすることができなかったのですが、やっとかなった共演が朝ドラだなんて、本当にびっくりです。

──髙石あかりさんとは初共演ですが、とても仲が良いとか……。
そうなんですよね。よくハグもしあってますし。「おつかれ!」とか、そういうタイミングで。ごはんにも一緒に行きました! あと、よく2人で自画自賛してますね。「トキとサワ、かわいいよね!」って(笑)。別に、2人とも、あえてかわいくしようとか、コミカルにしようとか思っているわけじゃないんです。真剣に、その時その時のトキとサワを演じているだけなんですけど、まず台本が面白いっていうのと、あかりちゃんとは、お芝居の間合いがマッチするんですよね。絶妙に波長が合う。それがキャラクターとしての相性の良さや、ドラマとしてのコミカルさにつながっているのかなと思っています。
ほかにもいろいろ、自分がこれまで生きてきて、ちりばめられてきた、いろいろなものがこの作品に結集していることを実感しています。もうめっちゃうれしくて、毎日現場でも、めっちゃ楽しくやってますし、みんなとめっちゃ喋ってます(笑)。
――どんな話題で盛り上がっているのでしょうか?
たわいないことですね、お休みは何をしているんですか? とか、下積み時代、どんなしんどいことがありましたか? とか。あ、これは主に岡部たかしさんですけど(笑)。あと、怪談くらい怖い現場の話とか。いろいろ話してくださるので、「ひいー!」って悲鳴を上げながら聞いています。経験豊富な方が多いので、お話を聞くだけで、勉強にもなりますし、楽しいですね。
──ところで、サワは、トキのように怪談好きではなさそうですが、円井さんはいわゆる“怖い話”やホラーがお好きなんですね。
はい、大好きです。なんですかね、自分が体験できないことだから興味があるのかも。一方で、亡くなったおじいちゃんが夢に出てきて、お告げめいたことを言ったり、ということもあったし……。私にとって怪談の世界は、非日常であり、人恋しさ、懐かしさでもあり、親しいものでもありという感じですかね。あ、怖いのは怖いんですけどね!

──なみを演じる、さとうほなみさんとは、どんなコミュニケーションをとっていますか?
ひとつ面白いエピソードがあります。スタジオ開きのとき、神社の方が来てくださってお祓いをしたんですけど、その時に叩く太鼓の音がとってもリズミカルで……。
私、高校のときにドラムをやっていたせいもあって、気づくと、つい体でリズムをとっていたんですね。それでハッと周りを見たら、なんと、ほなみさんも同じように体でリズムをとっていて。ほなみさんは、プロのドラマーですからね(ほな・いこか名義でバンド「ゲスの極み乙女」のドラムを担当)、やっぱり血が騒いじゃうんでしょうね。「あ、共通点!」と思って、ちょっとうれしかったですね。
──サワは、遊郭で働くなみのことを毛嫌いしているように見えますが……。
うーん、実のところ、サワは、なみのことをめちゃくちゃ嫌いとは思ってないと思うんですよ。ただ、やっぱり遊女という職業については受け入れがたいというか、強い抵抗があるんだと思いますね。しかも、なみは酒癖も悪いし、ひどいお客が多いし。実際しんどいですよね。
それでも、なみを個人的に嫌いたいわけじゃない気がするのは、話しかけられたら相手をするし、英語を教えてと言われたら教えるし……。同族嫌悪まではいかないかもしれないですが、何かしら女同士、意識しあうところがあるのだろうと思いますね。好きにはなれないけど、なんだか気になるというか、無視できないというか。不思議な関係ですよね。
日常ってなんでこんなに面白いんだろう
──脚本を読まれた際の、作品の印象について教えてください。
「何も起きない話だよ」って脚本のふじきさんは言っていたんですけど、「めっちゃ起きとるやないか!」ってみんなで言ってます(笑)。
でも、やっぱり日常は日常なんですよね。で、すごく笑えて泣ける。「日常ってなんでこんなに面白いんだろう」と逆に思えてくる。日常の中に起承転結があるって、すごい脚本だと思いますし、言葉遣いやセリフのテンポ、ささいなやりとりが本当に面白いんですよ。
でも、演じる側が「これはコメディーだ!」って思いながらやったら面白くないと思うので、自分の表情などが大きく出過ぎちゃったと思う時には、「今の大丈夫ですか? やりすぎましたかね?」と、逐一、監督に確認しながらやっています。その調整のくり返しですね。
──最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
サワを見ていると、人に寄り添う、人の優しさを改めてすごく感じます。これは出演者発表の時のコメントの繰り返しになってしまうんですけど……、サワをとおして、特別になんてなろうとしなくて良い。あなたはあなたで、もうとっくにすばらしいのだからと伝えていきたいと思っています。
我ながら、気に入っているコメントで、本気で伝えたいと思っているし、「ばけばけ」をとおして本当に伝えられるんじゃないかなと思っています。