10月よりレギュラー放送となった「未解決事件」。10月18日(土)放送の「北朝鮮 拉致事件」では、ドラマとドキュメンタリーの2本立てで事件の真相に迫る。その放送に先立ち、東京・渋谷のNHK放送センターで、ドラマパートの完成試写と出演者会見が行われた。
北朝鮮工作員を追う外事警察捜査官・喜多見守和を演じる主演の高良健吾、拉致被害者の蓮池薫さんを演じる田中俊介、演出の桑野智宏が出席した。


オファーを受けるのに、覚悟がいった

日本人の失踪が相次いだ1970年代後半から、北朝鮮拉致被害者が帰国した2002年までを描いた「未解決事件 北朝鮮 拉致事件」。オファーを受け、演じると決めた理由を聞かれると、

高良 オファーをいただいたときは、しばらく芝居をしていない時期でした。台本を読んで、自分なりに事件について調べている中で、この事件は拉致被害者の5人が帰国してから何も進展していない、と改めて知りました。それに対し、自分はこの作品を通して何かを伝えたい、なかったことにはさせない、この未解決事件に向き合う一人になりたい、という気持ちに。事件を意識しなくなり、忘れてしまえば、それはないものと一緒になってしまいますから。

田中 最初、お話をいただいたとき、正直なところすぐにお返事ができませんでした。なぜなら、この作品に向き合うにはかなりの責任と覚悟が必要だからです。でも、この拉致事件は未解決です。多くの人々に注目してもらいたいし、役者としてその力になれるのなら、と参加させていただきました。

本作は史実をもとに制作されたドラマであり、同日にドキュメンタリーパートも放送される。それぞれが難しい役どころではあるが、どのように演じたのか、役に込めた思いを聞かれると、

高良 監督に、この事件についてどこまで勉強すべきか相談しましたが、何も調べずに、まっさらのまま演じてほしいと。正直、知らないまま演じるのは怖かったです。その気持ちが演技にでてしまわないように意識しました。

また、捜査官である喜多見のセリフには「はい」「わかりました」という言葉が何度もでてきます。いろんな感情の「はい」「わかりました」があって、とても短いセリフでもひとつとして同じではダメだ、ということも意識しながら演じました。

新潟県柏崎市の海岸で拉致された蓮池薫(田中俊介)

田中 僕は、蓮池薫さんを演じる役だったので、とにかく蓮池さんの言葉を浴びるように著書も読みましたし、講演会の映像、インタビュー映像なども拝見しました。ですが、それだけでは自分の中でどうしても納得がいかず、監督とプロデューサーに、ご本人にぜひお会いしたいとお願いしたんです。そして新潟県柏崎市で実際にお会いすることがかない、2時間ほどいろんなお話をさせていただきました。

蓮池さんと話して印象的だったのは、「拉致は夢や希望、絆を一瞬で奪い去ってしまうものだ」という言葉だったと話した。

田中 胸に突き刺さるものがありました。当時、蓮池さんは20歳で、一緒に拉致されてしまう恋人の奥土祐木子さんと海岸でデートをしていた時に、被害に遭われました。夢や希望にあふれている20歳で、それらが一瞬で奪われてしまう。日本でそんなことが起きているなんて信じられないし、悔しかった。いまだ帰国が叶わない方もいて、残された親世代は高齢になっています。本当に時間がないんだ、と改めて思うに至りました。


蓮池さんの気持ちは、想像できる範疇になかった

20年を超える外事警察の執念の捜査と、北朝鮮での蓮池さんの暮らしが描かれる本作。見どころを聞かれると、

外事第二課に配属になった喜多見(高良健吾)

高良 この作品は、史実にある出来事に行きつくまでの“過程”が丁寧に描かれています。観ている人は、その先の感情や出来事を想像できる。演じていても、その過程の意味、大切さを感じながら現場に立っていました。

蓮池薫(田中俊介)と妻・祐木子(堺小春)

田中 蓮池さんが北朝鮮でどのような暮らしをしていたのかはぜひ見ていただきたい。日本に一時帰国することになりますが、その感情は「帰りたい」という気持ちだけではなかったと言います。もちろん帰りたいけれど、(北朝鮮には)守るべき家族もいる。実際に、ご自身の身の危険も感じたとおっしゃっていました。その感情は、僕たちが想像できるはんちゅうにないし、悲しいとかむなしいとか怒りとか、そういうことだけではない言語化できない苦しみが常にあったと。そこは丁寧に演じました。


NHKの部署横断でチームを結成

演出の桑野は、拉致問題を取り上げるにあたり、どの切り口がよいか模索したと話した。

桑野 ドラマ化するために、いろんな切り口が考えられます。日本に残っている家族にフォーカスする切り口もあるし、外交や政治から見る切り口もありますが、外事警察の捜査の中身、蓮池さんの北朝鮮での生活というのは今まで描かれてこなかった。新しい視点で拉致問題を見ていただけるのではないか、という期待を込めて制作しました。

また、実際に捜査に当たった外事警察捜査官にも取材していると明かした。

桑野 作中で描かれている捜査の中身などは、膨大な資料や100人を超える取材の証言に基づいています。ドキュメンタリーパートもあり、NHKの報道チーム、社会部の記者と一緒に、部署を横断したチームで挑みました。

実際のニュース映像も使われながら、2002年までの出来事が描かれる。なぜ今も事件は未解決のままなのか。この拉致事件を風化させないために、視聴者にもしっかりと見届けてほしい。


【ドラマのあらすじ】

1978年7月31日、蓮池薫(田中俊介)は交際していた奥土祐木子(堺小春)と新潟県柏崎市の海岸を歩いている途中に、たばの火を貸してくれと言う男(大倉孝二)に応じたところを、突然見知らぬ集団に暴行される……。連れてこられた先が北朝鮮と知らされた蓮池は、祐木子とも離ればなれのまま“招待所”で終わりの見えない軟禁生活を強いられる。
70年代後半から日本各地で相次いだ日本人の失踪は、後に北朝鮮による拉致であることが明らかになるが、当時、警察はその輪郭をつかめておらず、捜査は難航していた。


「未解決事件」File.02 北朝鮮 拉致事件(ドラマ+ドキュメンタリー2本立て同日放送)

10月18日(土)総合
【ドラマ】午後7:30~8:53(83分)
【ドキュメンタリー】午後10:00~10:49(49分)

作:大森寿美男、桑野智宏
テーマ音楽:川井憲次
出演:高良健吾、田中俊介、榎木孝明、大倉孝二、沢村一樹 ほか
制作統括:井上新治郎、三村忠史、今西章
プロデューサー:大橋守
演出:桑野智宏

NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます