アニメ「青のオーケストラ」で主人公・青野 一の演奏を担当している東 亮汰は、2年前の「Season1」放送後、J.ブラームス国際コンクール第2位、イザイ国際音楽コンクール第3位を受賞するなど、今や世界にその名を知られる存在となった。
彼の「Season1」放送時のインタビューでは、青野役として大事にしたことや収録の様子を語ってもらったが、当時から青野の演奏に対する考え方は、どのように変化したのか? 「Season2」での演奏にあたって工夫した点などについて、話を聞いた。


工夫したのは、アンサンブルの中での意識の配分

――今回の「Season2」は、物語上の時間としては「Season1」直後から始まるのですが、あの定期演奏会を経験したことで、青野としても大きく成長した部分があると思います。彼の変化を、演奏でどのように表現しようと考えましたか?

「Season1」はざっくり言えば、「青野くんの再生」の物語で、彼が「個」の部分で成長していくストーリーが中心だったと思うのですが、「Season2」に入ると、そこから大人に近づいて、仲間とともに音楽を作り上げていくという意識が、より強くなっているように感じます。「集団」の中での成長——彼が作る音楽にも仲間意識が色濃く表れるようになっているのではないか、と考えました。

音楽的なことで言うと、「Season1」のときは割と自分のソリスティックなところの配分が強かったのが、「Season2」では、周囲に対する視野が広がり、仲間と一緒に作り上げるという配分が強くなったのかな、と。青野くんの人間としての成長がより顕著になった気がしています。

――彼の音や演奏も変わっていくのですね。

「Season1」の最初のほうは、ヴァイオリンの天才少年でありながら、しばらく楽器から離れていて、かなりブランクがあった、という設定を念頭に置いて演奏していました。その後は、かなり取り戻しているであろうと考えて、「Season2」ではブランクはほとんど意識しませんでした。シンプルに演奏だけ取っても、成長を感じていただけるようになっているのではないかと思います。

――青野の成長を、具体的に演奏でどう表現されたのですか?

いちばん大きなポイントとしては「アンサンブル」の部分です。誰かと演奏することが前提だとして、その中で自分を表現する配分が、「Season1」の青野くんの場合、7割ぐらいが自分の音楽を打ち出すイメージだったんです。それが「Season2」に入ると、青野くんの視野が広がって周りと音楽を作る意識が芽生えて、自分を出すパーセンテージかかなり下がります。その配分で、全く同じ曲を、同じ人たちと演奏しても、出てくる音楽は変わってくるんです。そんな、アンサンブルにおける青野くんの意識の配分というものを、「Season2」の演奏で感じ取ってもらえたらうれしいですね。


アニメ「青オケ Season1」の「カノン」同様に印象に残った曲は……

――「Season1」で演奏された中には、パッヘルベルの「カノン」のような「これぞ!」という曲があったのですが、東さん的には「Season2」の「これぞ!」は?

青野くんが秋音律子ちゃんと弾く、バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」ですね。この曲は、律子ちゃんが母親への感謝を込めて、青野くんと一緒に演奏するのですが、ふたりの演奏レベルは違うけれども届けたい思いは一緒で……。お互いの心が重なっていくシーンで流れるので、個人的にすごく印象に残っている演奏のひとつです。

――山田さんはヴァイオリン初心者の律子として弾かなくてはいけないので、そのあたりも大変だったでしょうね。お2人で弾くときは「ここは、こうだよね」みたいに、話し合いながら?

ところどころ確認はしましたけど、基本的には、そこまで話し合いすぎずに。というのも、律子ちゃんと青野くんのレベル差があるので、我々で念入りにリハーサルをしてしまうと、彼らのレベルの設定を考えると、ちょっと音が合いすぎてしまったりする部分があるかな、というふうに思いました。あえてほとんど話し合いをせず、その場の雰囲気を大切にしてった記憶があります。
律子ちゃんは初心者とはいえ、母親への感謝の気持ちがせいいっぱい込められている場面なので、それを表現するバランスは、多分、山田さんの難しかったポイントなんじゃないかなと思います。

幅広い年代層に自分の音楽が届いた実感

――改めて「Season1」を振り返って、ご自身の演奏スタイルを参考して作り上げたアニメの「絵」をご覧になったときは、どんな印象を持たれましたか?

想像していた以上に、自分の動きが再現されているな、と感じました。僕を知っている人からは「弾いている姿が目に浮かぶ」とも言われましたし。あとは、収録のときには絵がなかったので、自分が弾いた音と(青野 一の声を担当した)千葉翔也さんの声が重なったときに、頭で思い描いていた以上に感動して、自分が関わっている身でありながらも、心を震わされるアニメだなと感じました。

――この「青オケ」に関わったことで、ご自身に影響したものはもありますか?

僕が実感している部分では、普段のコンサートに足を運んでいただいた方から、「『青のオーケストラ』を見て、聴きに来ました」「これをきっかけにヴァイオリンを始めました」と言われることが珍しくないんです。それがいちばん大きな変化ですね。クラシック音楽のファン層というのは、50代、60代であったり、どちらかと言うと年齢層が高い傾向にあったりするのですが、このアニメのおかげで、僕と同世代の方、そして「ヴァイオリンを始めました」という小さな子どもたちも、たくさん聴きに来てくれるようになりました。そんなふうに自分の音楽を聴いてくれる方の層が格段に広くなったのは、本当に「青のオーケストラ」のおかげだと感じますし、また今回、「Season2」の放送で、さらに多くの人の心に音楽が届いてくれたら嬉しいなと思っています。

【プロフィール】

ひがし・りょうた

第88回日本音楽コンクール第1位、第30回J.ブラームス国際コンクール第2位(オーストリア)、イザイ国際音楽コンクール2025第3位(ベルギー)など受賞多数。ソリストとして、NHK交響楽団、東京交響楽団、東京フィル、日本フィル、神奈川フィル、群馬交響楽団、大阪交響楽団、EURO Symphony SFK等のオーケストラと共演。Japan National Orchestraコアメンバーとして、年2回の全国ツアーをはじめ欧州でも公演を行っている。東大寺奉納公演などではコンサートマスターとして出演。
沼尻竜典指揮、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の第400回記念定期演奏会でコンサートマスターを務めるなど、国内主要オーケストラへの客演も重ねている。
桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業後、同大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
テレビ朝日「題名のない音楽会」「未来への扉!ニュースターの音楽会2024」で注目の若手音楽家として特集された他、NHK Eテレのアニメ「青のオーケストラ」で主人公の演奏を担当。
メジャーデビューアルバム『Piacere〜ヴァイオリン小品集』で第16回CDショップ大賞2024クラシック賞を受賞。
使用楽器は株式会社文京楽器を通じて匿名のオーナーより貸与された1831年製 G.F. Pressenda。

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アニメ「青のオーケストラ」Season2

毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送:毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45

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カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。