連続テレビ小説「ばけばけ」は、小泉セツ&八雲(ラフカディオ・ハーン)夫妻をモデルに、明治の松江で、怪談を愛する夫婦の何気ない日常を描く物語。

新聞記者として取材のために来日したが、縁あって松江で英語を教えることになるレフカダ・ヘブンを、英国出身の俳優トミー・バストウが演じる。ひょんなことから、多額の借金を抱えた松野家の娘・トキ(髙石あかり)と出会って交流が始まるが、ドタバタの連続となる。日本に長期滞在して挑む朝ドラへの出演や、役作りへのこだわりなどについて聞いた。


日本と西洋の懸け橋になれるように

──バストウさんにとって日本でのドラマ撮影は初めてのご経験です。「ばけばけ」へのご出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。

10年以上、日本語を勉強してきた僕にとって、日本での仕事、しかも日本で長く愛されてきた朝ドラへの出演は、まさに夢がかなった! という気持ちです。同時に、これは大きな挑戦になること、また重い責任を伴う役割だとも感じました。これまでに朝ドラのメインキャラクターを外国人が務めた例として「マッサン」(2014年)があることは知っていますが、僕も今回、西洋を代表する気持ちで取り組まなくては、と。日本と西洋の懸け橋になれるような、また、どちらから見ても楽しんでもらえるような物語を作るために力を尽くしたいと思っています。

──実際の撮影現場の雰囲気はいかがですか? 共演者やスタッフとのコミュニケーションはうまくいっていますか?

実は撮影に入る前、日本語の学校で3か月間、敬語を習って準備したのですが、あまり使っていませんね(笑)。それよりも、日本文化の勉強のほうがきているかな。
撮影は毎日楽しいです。みんながしっかり働き、お互いをサポートし合う、いい雰囲気があります。僕自身もその中に加わって、和気あいあいと撮影できていると思います。

──レフカダ・ヘブンについて、どんな人物だと感じていますか?

人見知りな冒険者。ヘブンは、両親に捨てられた経験をずっと引きずっているんです。そのせいで、子どもっぽくてわがままなところもある。人と衝突しながら、自分が安心できる場所を探しているんでしょう。そんな繊細さや外国の文化への関心が強いところには共感します。僕も自分の人生の意味を探して、日本にやって来たので。

また、ヘブンが100年前の松江には珍しい外国人教師として大いに期待されているのと同じように、僕も、外国人で朝ドラに出るくらいだから、すごい俳優なのだろうと思われているというプレッシャーにも共通点が……。大丈夫、頑張ります(笑)。そんなわけで、ヘブンにはシンパシーがあるし、好きですよ。と言っても、ヘブンは実在したラフカディオ・ハーンがモデルですから、半分くらい、ハーンのことでもあるのですが。


ハーンのようにほぼ毎日、手紙や日記を書いている

──ラフカディオ・ハーンはどのような人物だったと捉えていますか?

自分がつらい経験をしたからこそ、彼には、動物や弱い人、障がいのある人などを守ろうとする思いやりがあります。しかも、偽善が大嫌い。それは、とてもいい性格だと僕は思うんです。ハーンは幼い頃に、引き取られた先で強制されたカトリックの偽善性を嫌って、以来キリスト教から距離を置くようになるのですが、そんなふうに自分の考えをしっかり持っている人を僕は尊敬します。そして、土着の信仰に興味を持っていく中で、日本の『古事記』に出合うんですよね。

──ラフカディオ・ハーンについて、かなり詳しく勉強されたのですね。

そうですね、役をいただいた2024年秋からほぼ1年間、役作りをしてきました。まず、彼の伝記を読みまくりましたし、彼が書いた手紙もずいぶん読みました。山ほど残っているので、さすがに全部ではないですけどね。

今も役作りとして、彼のようにほぼ毎日、手紙や日記を書くようにしています。ちょうどドラマでヘブンがやっているのと同じ姿勢で。これはとっても役立っています。例えば、ヘブンは船で松江にやってくるのですが、その船の中で船長たちとどんな話をしたのか? 劇中では描かれないシーンですが、想像して書いてみる。そうすることで、ヘブンの立ち居振る舞いにリアリティが出せるのではないかなと思っているんです。


トキ役があかりさんで、本当によかった

──本作で、夫婦役として共演する髙石あかりさんについて、どんな印象を持たれていますか?

彼女とは会った瞬間から仲が良くなりました。誰よりも話しやすい存在です。それに、僕たちは、ハーンと妻のセツさんと同じように、私たち2人だけで通じる言語を作り出しました。時々、監督からの指示が(日本語で)理解できない時も、あかりさんがフォローしてくれるので、とても助かっています。トキ役があかりさんで、本当によかったです。

あかりさんには、すごくエネルギーがある。それに周りも助けられているんじゃないでしょうか。僕も、朝は元気ですよ。でも、日が落ちてくると疲れてきてしまうのですが、彼女の発するエネルギーのおかげで目が覚める感じがします。信じられないほどのエネルギーです。

──アメリカで過ごすヘブンの様子を垣間かいま見る場面はありましたが、いよいよ本格的に登場されますね。第4週までは、ヘブンに出会う前のトキの物語を中心に語られていました。その部分をご覧になった感想を教えてください。

物語の始まりとして、トキのこれまでについて、また家族の話を語るのは、とても魅力的だと感じました。トキがどうしてこういう人物になったのかがよくわかりますよね。また、彼女の家族も、機能不全なところはあるけれども、愛情深い。また祖父・勘右衛門(小日向文世)の存在が、当時の日本の家族が置かれた状況をよく表してもいる。ヘブンに出会う前のトキのストーリーを私自身も楽しみましたし、視聴者にも彼女のキャラクターがよく伝わっていると思いました。

──ヘブン役にリアリティを持たせるために、ひげも自前で伸ばしたり、猫背にされたりという工夫もしていると聞きました。

僕の身長は185センチなのですが、ハーンの背丈は160センチくらいで小柄だったという記録があるんです。しかも、かなりの猫背だったと。すると、常に下から見上げるような角度で人と相対していたわけです。だから、僕もそれを意識して猫背にして、目線の角度も意識するようにしています。

それから目も特徴があります。ハーンは16歳で片目を失明しているんです。それで、ヘブンも左目が見えないという設定なのですが、それを表現するために、左目にはカラーコンタクトレンズを入れて瞳を白濁させています。これは正直言って、大変です。とても見えづらいし、最初はイライラしました(笑)。でも、僕がどう思うかよりも、周りからどう見えるかが大切ですから。この外見の人に対して、共演者がどう反応し、どう関わるのか。この物語やキャラクターを理解するうえで、大きな助けになると信じています。

──役作りにとても熱心であることが伝わってきます!

役作りをし、演じることが俳優の仕事ですから。そして、俳優にとって何より必要なのは自信です。ハーンのことを深く理解し、彼のように振る舞うことができれば、撮影時には、より自信を持って、自由にヘブンを演じることができる。だから、個人的には、役作りのほうが撮影よりも大切だと思っています。撮影が始まったら、その場で変わっていくこともあると思いますが、それも、事前の準備があってこそ。なので、ハーンがどんな生活を送り、どんなことを考えていたのか、本当にたくさん、考えてきました。それを活かせることが楽しいです。