朝ドラ「虎に翼」の世界が、ついにスピンオフという新たな形で戻ってくる――。
脚本家・吉田恵里香が手がける「山田轟法律事務所」が3月20日(金・祝)に放送される。本編で強烈な存在感を放った弁護士・山田よね(土居志央梨)を主人公に据えた意欲作だ。続編の構想は本編放送中から密かに温められていたという。主人公によねを選んだ理由、そして本編では描ききれなかったテーマに今回挑む理由とは――。作品に込めたメッセージとともに、放送を前にスピンオフ誕生の背景を語った。
続編をやるなら、よねと轟だよね
──待望のスピンオフ。企画実現のきっかけや経緯を教えてください。
続編を作りたいという話自体は、実は、本編の放送中から出ていました。やっぱり、スピンオフが作られるっていうことは、本編の評判が良かった証拠でもあるので。だから、そうなったらいいなあと、本編執筆中から、いろいろと妄想を膨らませていたんです(笑)。
とはいえ、正式にゴーサインが出たのは、たしか本編の放送終了から数か月後、2025年初頭のことでした。今回こうしてスピンオフが実現したのは、放送が終わった後も変わらず応援を続けてくださった皆さんのおかげです。本当に、たくさんのご支持や温かいお声に感謝です。ありがとうございます!
──「虎に翼」には魅力的なキャラクターが数多く登場しますが、そんななかで今回、「山田轟法律事務所」の主人公は山田よね。その理由を教えてください。
正直に言えば、どのキャラクターが主人公でもスピンオフを書ける自信はありますし、お声がかかればぜひ挑戦したいです(笑)。
中でも、寅子(伊藤沙莉)の対となる存在といえば、幼なじみで義姉でもある花江(森田望智)、そして、盟友ともいえる存在のよねです。「虎に翼」はリーガルエンターテインメントですから、その持ち味がより色濃く出るのは、やはり弁護士・よねの物語のほうだろうと。それに、「よねと轟(戸塚純貴)の話を見たい」と言っていただくことが多かったですし、制作チームの中でも、「続編をやるなら、よねと轟だよね」という共通認識はずっとありましたね。
──「執筆中から妄想を膨らませていた」とおっしゃっていましたが、今回の物語の構想は以前からあったものなのでしょうか?
本編を書き終えた後、改めて作品全体を俯瞰してみると、どうしても取りこぼしてしまったテーマが多くあったことに気づいたんです。「虎に翼」では、寅子の関わっていない事件については描けないという、ある種の制約がありました。それで悩んだ末に泣く泣くカットしたテーマも多くて……。
そこで、今回の物語は、よねの目線で描くことで扱えるテーマを探して物語を作っていきました。比較的恵まれた環境で生まれ育った寅子と異なり、苦しい境遇を背負っているよね。彼女の目線だからこそ、今回の物語は、本編以上にシリアスな側面が強いかもしれません。72分の単発ドラマだからこそ腰を据えて描けた、より骨太な作品になっていると思います。

──「虎に翼」も作品全体のテーマはシリアスながら、コミカルなシーンも魅力的でした。そのバランスを吉田さんはどう捉えていますか?
私は、自分のことを「0を1にするエンターテインメントを作る人間」だと思っています。物語を通じて、「すでに持っている知識を1から100に広げる」のではなく、これまで無自覚だったことや、考えたこともなかった視点に気づいてもらえるような作品を届けたい。そのためには、入り口はできるだけポップで、広い間口を持っていることが理想なんです。
だからシリアスになりすぎそうな場面にこそ、意識的に笑いを配置するようにしていて、特にノンフィクション的な視点を持っていた「虎に翼」では、そのバランスを意識しました。
そういう意味では、今回はすでに「虎に翼」の世界観に入ってくださった人に向けて書いた作品なので、そのアプローチはちょっと違っているかもしれません。とはいえ、もちろんユーモラスなシーンはあります! そのバランスも含めて、楽しんでいただけたらうれしいです。
土居志央梨の“熱”が、よね像を変えた

──山田よねを演じる土居志央梨さんとは、今回のスピンオフ主演に際して、何かお話をする機会はありましたか?
制作が決まった後にお会いして「楽しみですね」と言葉を交わしました。すごく作品を大事にしてくださる方であることはわかっていたので、信頼して脚本を書かせていただきました。私の一方的なラブレターというか、「土居さんが演じるよねに、こんなことをしてほしい」「こんな表情が見たい」という思いを、たくさん込めています。
──「虎に翼」本編での土居さんの演技を見て、よねというキャラクターについて理解を深めた部分もあるのでしょうか?
ありました。実は、もともと、よねはもっと冷たい人物のイメージで脚本を執筆していたんです。怒っていても、その感情自体がどこか冷えているというか。でも、ドラマを拝見すると、土居さんは最初から熱のこもったお芝居をされていた。その表現が、よねの持つ泥臭さや、這いつくばりながら歯を食いしばって生きてきた背景とすごくマッチするなと感じました。それ以来、私の中で、よねは熱い怒りを糧として前へ進んでいく、というキャラクターになったんです。今回のスピンオフもまさに、土居さんが演じるよねに影響を受けて書きました。
──俳優として土居さんの魅力は、どんなところだと感じますか?
作品に対して誠実に寄り添ってくださるところですね。土居さんの誠実さと、嘘やごまかしのないよねは、とても親和性が高いと思います。
よねって、おそらく演じるのはしんどいキャラクターだと思うんです。背負っている過去が複雑ですし、怒りの表現も難しいですし。でも、土居さんはそうした難しさにもすごくポジティブに向き合ってくださる。よねを演じてくださるのが土居さんで、本当に良かったと思っています。
「虎に翼」が誰かの支えになっていたら本望
──「虎に翼」は、2027年には朝ドラとしては27年ぶりの映画化が発表されました。本作がここまで愛される作品になった理由は何だと考えていますか?
それはもう「たくさん応援していただいてありがとうございます」としか言えません……!
でも、あえて客観的に分析するとしたら……悲しいですが、今の社会があまり希望に向かっていないことが理由のひとつかもしれないと思っています。未来の歴史教科書では、現代は第三次世界大戦の最中といわれる時代なのかもしれない。そんな、平和や平等が遠のいて感じる世の中だからこそ、「怒ることは間違いじゃない」「理不尽なことに対して声をあげていい」というメッセージを発していた「虎に翼」が、誰かの支えになったのではないかと思います。
──「虎に翼」の放送からおよそ2年。あれ以来、弱い立場の人たちが声をあげていく機運が少し高まったように見えます。吉田さんはどう感じていますか?
確かに、その機運は感じています。例えば、「よねの『どの地獄で何と戦いたいか決めるのはその人自身』というセリフに感銘を受け、今、声を上げることを頑張っています」という感想をいただいたことがあります。ほかにも、権利を訴える裁判を起こしている最中の方が「心が折れそうな時にこのドラマを見られて良かった」と言ってくださったり。
日々、不安なことばかりが続く世界で、「今立ち上がらないと次の世代が苦しむ」という思いで行動している方がたくさんいらっしゃいます。そんな方々の力に少しでもなることができたのなら、この作品を作って本当に良かったと思います。
──改めて「虎に翼」を応援している皆さんや、スピンオフドラマ、映画を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします。
こんな時代だからこそ、エンターテインメントの力、何かできることがあると私は信じています。まずは楽しんでいただくことを大前提にしつつ、今つらい思いをしている人に寄り添い、何か声をあげようとしている人の力になれる作品が書けるよう、これからも誠実に向き合っていきたいです。
スピンオフの放送はまだちょっと先ですし、映画はもっと先なので、それまでお互い元気で健康で、なるべく心を削らずに、楽しみに待っていていただけたらうれしいです。
【あらすじ】
山田よね(土居志央梨)は、空襲でひん死の重傷を負ったカフェ燈台のマスター・増野(平山祐介)をリヤカーで運んでいた。敗戦に打ちひしがれ、無秩序と差別が渦巻く上野の街で、これまで学んできた法は無力に思え、よねの心は徐々にすさんでいく。生き別れていた姉・夏(秋元才加)と再会するものの、2人の心はすれ違ったまま。そして夏を理不尽な暴力が襲う。よねは犯人を追うが、闇市を支配する勢力のうごめきに増野も巻き込まれ、真相は闇に葬られてしまう。絶望の中、よねは新聞で目にした憲法十四条を怒りに突き動かされるように壁に書き記す。やがて轟太一(戸塚純貴)との再会を機に、よねは法律事務所を開設し、追い詰められた人々の事件に立ち向かっていく。

【プロフィール】
吉田恵里香(よしだえりか)
1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は、「DASADA」「声春っ!」(日本テレビ系)、「花のち晴れ~花男 Next Season」「Heaven?~ご苦楽レストラン」「君の花になる」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。NHK「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞を受賞。
「虎に翼」スピンオフ「山田轟法律事務所」(72分・全1回)
3月20日(金・祝) 総合 午後9:30~10:42
3月29日(日) BSP4K 午後4:45~5:57
※NHK ONEでの同時・見逃し配信もあり(ステラnetを離れます)
作:吉田恵里香
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
語り:尾野真千子
出演:土居志央梨、戸塚純貴、平山祐介、秋元才加、森迫永依、呉城久美、絃瀬聡一、細井じゅん、北代高士、鈴木拓、大谷亮介、伊藤沙莉 ほか
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和(NHKエンタープライズ)、石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎(NHKエンタープライズ)