数々の名優によって演じられてきた「眠狂四郎」。令和の眠狂四郎として白羽の矢が立ったのは長谷川博己だ。新しい眠狂四郎を演じるにあたっての役作りや、本作への思いを聞いた。
挑戦しないと後悔する
――子どもの頃に、時代劇をよく観ていたそうですね。
学校から帰宅したら、テレビで時代劇の再放送をしていたので、よくそれを観ていました。田村正和さんの「眠狂四郎」も覚えています。人が殺されるなど、ちょっと怖い時代劇は、今も記憶に残っています。
――大河ドラマ「麒麟がくる」などで時代劇の出演経験はありますが、殺陣が多く出てくるような時代劇は初めてですか?
そうですね。今までやってみたいという気持ちはありましたが、なかなか挑戦できる機会がなくて。待つしかないんですよね。49歳という年齢でやるのは大変ですが、これが50代後半だったら絶対に難しい。今ならまだ挑戦できるし、挑戦しないと後悔するな、という気持ちもあって、頑張ってみようと思いました。それに、自分としても時代劇を継承し、次の世代につなげたい気持ちもありました。こういうことは、日本の俳優として大事だよなと思って。使命感みたいなものもありました。
――市川雷蔵、片岡孝夫(現・片岡仁左衛門)、田村正和といった俳優が眠狂四郎を演じてきましたが、みなさんは20代後半から30代くらいでしたが、かなりの貫禄がありますよね。
経験を積んだ上でのものは、歳を重ねないと出せませんが、若さが持つきれいさとは違う、哀愁のようなものが出せれば、とは思っていました。眠狂四郎はやはり若くないとな、という気もしますが……。でも、田村さんは70歳くらいまで演じられていましたしね。
円月殺法――その瞬間をどう演じるか

――今回は、殺陣のシーンがたくさんありましたが、稽古は大変でしたか?
大変でしたね。この歳になってようやくできることになり、うれしくもありながら、今さらか、という感じもあって……。自分のイメージ通りにはいかなかったところもありましたが、できる限りのことをやるしかないという気持ちで臨ませていただきました。
居合術は少しやっていたので、それをもう1回やりました。ただ、それなりのものを1、2か月で仕上げるのは難しく、俳優はいつどんな役が来てもいいように鍛錬をしておくべきだと改めて思いました。
――眠狂四郎の剣さばきでどのような工夫をしましたか?
少し新しい要素を加えるのも面白いかなと思い、殺陣師の方や居合術の先生に「こういう構え方ってありですか?」とアイデアを見て頂きました。見栄えの良さや面白さがあれば取り入れて、少し俗っぽく見えてもいいのではないかと思いました。そのあたりはエンタメという側面も意識して。
――眠狂四郎といえば、「円月殺法」ですが、本作でも見どころの1つですよね?
円月殺法がどう誕生したのか、どうやって見せるのかについてみんなで話をしましたし、もちろんこのドラマでも出てきます。あの技には催眠術的な要素もありますが、ただのまやかしではなく、円環の思想とか、哲学的な要素もあるのかな、と考えながら演じました。いつ円月殺法が出てくるかは楽しみにしていてください。
令和に「眠狂四郎」を描く意味
――京都・太秦の東映京都撮影所での撮影はいかがでしたか?
年末年始を挟んで1か月くらいでした。京都の街には昔の雰囲気が残っているのでいいなと思いました。そんな京都で時代劇に集中できるのはすごく幸せで、いい時間でした。

――今、この令和の時代に「眠狂四郎」という時代劇を作る意義について、どう思われますか?
この作品では権力争いや宗教の問題など、今にも通ずるようなことがたくさん出てきます。そんな中、眠狂四郎みたいな人物がいたら、どういう風に関わるか。そういうところが、今この作品を作る意義なのかな、という気がしています。
――作品を通して伝えたいと思うことがあればお聞かせください。
堅苦しく考えずに時代劇の面白さを感じてもらえたら、と思っています。昔とは違い、さまざまな表現の制約がありますが、その中でどれだけ面白いものを作れるのか、ということをみんなで必死に考えて完成した作品ですので、とにかく観た人に楽しんでもらえるのが一番ですね。
【プロフィール】
はせがわ・ひろき
1977年生まれ、東京都出身。文学座でキャリアをスタートし多くの舞台作品で存在感を示した後、映像作品へフィールドを広げる。20-21年の大河ドラマ「麒麟がくる」では主人公・明智光秀役を熱演。映画『散歩する侵略者』、『シン・ゴジラ』、『リボルバー・リリー』などにも出演。
【あらすじ】
将軍・徳川家斉の下、老中・水野忠成(西村まさ彦)と水野忠邦(木村了)が幕閣内の権力争いで激しくしのぎを削る文政の世。名刀・無想正宗を携えた謎の浪人・眠狂四郎(長谷川博己)が江戸に現れる。狂四郎は老中忠邦の側近・武部仙十郎(宅麻伸)から、忠邦を狙う刺客を倒すよう密命を受けたのだった。一刀のもとに刺客を斬り捨てる狂四郎だが、絶命した刺客の首にはロザリオがあった。
狂四郎は後日、右腕の金八(森永悠希)を使って刺客の妹・茅場静香(黒島結菜)を探り当てる。狂四郎は形見のロザリオを渡し、兄を斬り捨てたことを告げる。自身も熱心な信者である静香は、切支丹仲間の身を案じ、信徒たちを束ねる豪商・備前屋(神保悟志)に助けを求める。備前屋は屋敷の地下に礼拝堂を作り、信仰の場として提供していた。そして信徒たちを守るため、手だれの武士たちを狂四郎暗殺に差し向ける。
同じころ、大目付・松平主水正(坂東彌十郎)は忠邦の失脚をもくろむ老中・忠成の命を受け、忠邦と通じる狂四郎を狙うよう腹心の剣豪・戸田隼人(高橋光臣)に命じていた。そして女盗賊・女狐(菜々緒)も金の匂いを嗅ぎつけ、狂四郎と金八の動きを追っていた。狂四郎を倒すべく、敵味方が入り乱れ、激しい戦いが始まろうとしていた……!
スペシャル時代劇「眠狂四郎」(89分)
3月24日(火) 総合 午後10:00~11:29
※NHK ONEでの同時・見逃し配信予定(ステラnetを離れます)
原作:柴田錬三郎
脚本:酒井雅秋
音楽:池頼広
出演:長谷川博己
黒島結菜、高橋光臣、森永悠希、今野浩喜
菜々緒、佐藤江梨子、原沙知絵、本田博太郎
神保悟志、西村まさ彦、宅麻伸、坂東彌十郎 ほか
制作統括:谷口卓敬、髙橋練、土田真通
プロデューサー:土井健生
演出:一色隆司
制作:東映京都撮影所、NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK
NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます
兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。