4月5日から放送が始まったプレミアムドラマ「対決」。月村了衛の同名小説が原作の社会派ドラマだ。シングルマザーの新聞記者・檜葉ひばきく(松本若菜)が、ある医大入試をめぐる“女子受験生の不正採点疑惑”の核心に迫っていく。菊乃と“対決”することになるのが、疑惑の渦中にある医大で理事を務める神林かんばやしはる。晴海を演じる鈴木保奈美に話を聞いた。


「時間を置いて描くからこそ、問い直せることがある」

――鈴木さんは読書好きで知られていますが、ご自身のインスタグラムで去年8月に読んだ本の1冊として原作の『対決』を挙げていましたね。読んだ時の印象はいかがでしたか? また、晴海を意識して読んでいたのでしょうか?

ドラマのお話をいただいてから原作を読んだので、「神林さんか……、どう演じていこうかな」と思いながら読んでいました。原作で描かれている医大の事件は、実際に明るみに出た当時、世間で大きく騒がれました。でも、そのあとは結局どうなったのかまでは、意外と知られていない。どんな事件も、発覚した時は注目されますが、その後に何が変わったのかは知られていないものです。だからこそ、少し時間を置いてドラマ化する意味があると思いました。た方の何割かでも、ドラマはフィクションですが、「そういえば、あの問題はどうなったんだろう?」と考えるきっかけになれば、私たちの仕事の意義があるのではないかと感じています。

――鈴木さんは「対決」の会見 で、晴海のことを「ポーカーフェイスで、クールで、自分の信念に一直線に向かっていく人なので、菊乃さんにあれこれ探られても、バッサバッサと切っていくような、割と強いタイプの女性を想像しました」と言っていました。鈴木さんご自身が晴海と似ている部分や共感できる部分などはありますか?

あまり人に相談せず、1人で悶々もんもんと悩むところは似ているかもしれません。「迷っちゃうよね、決められないよね」と共感する部分もあります。一方で、「それは口に出して言ってみたらいいんじゃない? その方が楽になるよ」と思うところもありました。

――第1回での晴海は、発言も少なく、まだどのような人物なのか見えてきていませんでしたね。

第1回では、「わからないままでいい」と思いながら演じていました。かといって、わざと謎めいた人物にしようとしたわけではありません。晴海自身は人を煙に巻こうとしているわけではなく、自分なりに行動しているだけですが、周りの人から見るとつかみどころがない。作為的に見えてほしくないと考えていました。

――同じく会見で、“池田(千尋)監督風味”が出ていると言っていましたが、どういうところが池田監督らしさなのでしょうか?

社会派ドラマなのですが、第1回を観ると、すごくエモーショナルな作品だと思いました。第1回は、菊乃さんの心情を切り取っている感じがしました。新聞社や医大といった組織そのものよりも、そこで働いている人たちに迫っているなと。

池田監督は心情をとても大事にされる方で、納得できるまでとことん付き合ってくださるんです。撮影後に、「今のお芝居を観ていて、じーんとしちゃいました」と声をかけてくれて、距離感の近い、温かい現場でした。

それはスタッフの方々に対しても同じで、カメラマンにも「こう撮ってほしい」と指示するのではなく、「この人のここをこういう風に切り取りたい」というように説明されていて、それは演じる私たちにも聞こえてくるので、撮影意図を共有しながら撮影が進みました。こうした現場でのやり取りで、作品への理解が深まったと思います。


「霧の中でも、きっと光はある」

――いよいよ第2回から、大学組織を守る立場の晴海が、疑惑を追求しようとする菊乃とたいしていくことになります。鈴木さんは制作発表時のコメントで、「1つの正解はなく、勝ち負けもない。霧の中を手探りで進むような、けれど確実に先に光は見えている。そんなイメージを保ちつつ取り組もうと思います」と言っていました。この「光」とはどのようなものだと考えていますか?

私はドラマや映画、舞台を観たり、小説を読んだりするのが本当に大好きなのですが、たとえ悲劇であっても、ハッピーエンドでなくても、何らかの「光」は見たいと思ってしまうんです。それがなければ、あまりにもつらすぎますよね……だからこの作品にも、やっぱり光がなくてはと思っています。

――今回、菊乃を演じる松本若菜さんとは初共演ですが、松本さんの印象をお聞かせください。

とても骨太な方だな、と思いました。いい意味で自信があり、「私はこうしたい」というものをしっかり持っていらっしゃる。見た目の華奢きゃしゃな、華やかな感じというよりはたくましい感じを受けました。
菊乃さんは怒りを強く抱えた人物ですが、若菜ちゃんの怒っている表情がすごく素敵すてきで、思わず怒らせたくなってしまうくらい(笑)。

――この作品は、性差による理不尽さを巧みに浮かび上がらせています。鈴木さんご自身が振り返ってみて、今まで理不尽だと感じてきたことや、女性として感じることはありますか?

私は会社や組織で働いてきたわけではありませんし、女性であることを肯定的に扱われるところからキャリアが始まったので、不合理を被ったという自覚はあまりありません。もしかして客観的に見たら被っていたよということはあるかもしれませんが……。ただ、同世代の女性は男女雇用機会均等法の始まりの世代で、大変な思いをしてきた人は本当にたくさんいらっしゃって、逆に知らなかったという、自分の無知を恥じるようなところの方が大きいですね。                                                  

無知だった自分が、そういうことがあるということを知ってしまった以上は、ちゃんと理解していくべきですし、私たちが気付かないで通り過ぎたり、やり過ごしてしまったりしたから若い人が困っているわけで。今の私たちにできることがあればやるべきだし、それを探すべきだと感じました。俳優という仕事をしている私として今回できるのは、この役を演じることなのかなと思っています。

――この作品の見どころやメッセージをお願いします。

晴海については、どんな人物かわからないところをそのまま楽しんでいただけたらと思っています。今回、キャスティングがびっくりするほど素晴すばらしいんです! 医大の理事会では、演技派俳優のみなさんのやりとりを間近で観ることができて、チケット代を払いたいくらい素晴らしかったです。

私はいないのですが、医大の疑惑を取材する新聞社のP担(検察担当チーム)のみなさんもとても魅力的なので、私も観るのを楽しみにしています!

【プロフィール】

すずき・ほなみ

1966年生まれ、東京都出身。86年にデビュー後、CMやドラマで活躍。91年放送のドラマ「東京ラブストーリー」が社会現象になるほどの大ヒットとなる。映画『ヒーローインタビュー』『プラチナデータ』など。NHKでは、連続テレビ小説「ノンちゃんの夢」「わろてんか」、大河ドラマ「元禄繚乱」「江~姫たちの戦国~」などに出演。読書好きで、読書情報番組「あの本、読みました?」のMCも務める。


【あらすじ】
私たちは戦う、私たちであるために――

ある医大が入試の採点過程で女子の点数を意図的に下げている。衝撃的な「うわさ」を耳にした新聞記者の檜葉菊乃(松本若菜)は、独自の調査を始め、医大の理事である神林晴海(鈴木保奈美)に目をつける。巧みに追及をかわす神林だが、突破口はそこしかないと考え、檜葉は粘り強く核心へと迫っていく。男性優位の社会で、無数の理不尽に直面してきた2人。それぞれの信念がぶつかり合い、敵対せざるをえない彼女たちの闘いの行方は、予想もしない展開を迎える――


プレミアムドラマ「対決」(全5回)

4月5日(日)スタート
毎週日曜 NHK BS/BSP4K 午後10:00~10:45

原作:月村了衛
脚本:渡邉真子
音楽:小山絵里奈
主題歌:「ひと匙」ヒグチアイ
出演:松本若菜、豊嶋花、大倉孝二、大原櫻子、山中崇、前野朋哉、濱尾ノリタカ
/石坂浩二・渡辺いっけい、高畑淳子、鈴木保奈美 ほか
演出:池田千尋、小菅規照
制作統括:黒沢淳(テレパック)、熊野律時(NHK)

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

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