
我が子・与一郎(高木波瑠)に対する思いを小一郎(仲野太賀)が理解し、「力になりたい」と気遣ってくれたことで、閉ざしていた心を開いた慶。ここに至るまで、織田家に対しての敵がい心をあらわにしていた慶の胸の内をどのように感じながら演じていたのか、慶役の吉岡里帆に話を聞いた。
小一郎を信頼して支えようと思い始めるきっかけに
――月明かりの下で、慶が隠していた自分の気持ちを小一郎に明かしたことから、2人の関係は大きく変わり始めました。このときの2人の心情を、どのように考えましたか?
ともに大事な人を失った者同士の深い絆、同志であるという気持ちが生まれたと思います。羽柴家の幸せな家族の中では小一郎だけが直(白石聖)さんという大切な人を失っている。慶も頼広さんという旦那様を亡くし、2人とも自分の幸せの追求というところから一回リタイアして、「もういい。自分の人生は終わった。本当は生きていたくない」と、一度は考えた人たちだと思うんです。けれども、小一郎は直さんから託された「万事円満の世を作る」という使命のために、慶は与一郎が立派に成長するまで見守り続けたいという母としての想いのために、何とか生かされていた感じがします。

――これまで頑なだった慶の心が、小一郎の言葉で大きく揺らぐことになりました。
自分自身の正義感と、武家の娘で死がすぐ側にあることが日常だったから、何か得るためには何か犠牲が必要だ、という考えが、慶にはすごく染みついていた気がします。そういう教えを父親の安藤守就(田中哲司)からも、義父の頼昌(奥田瑛二)からも受けてきた。だからこそ、小一郎の「何でも力になる」「必ずや、説き伏せて参る」という言葉は衝撃だったし、それが「この人を信頼して、支えよう」と思い始める瞬間だったのではないかと思いました。
――最初は「なぜ、そんなことを」と慶は言っていましたが、そこから「この人なら、もしかしたら」という気持ちに変わっていったわけですね。
本当に一生かかっても返しきれない恩を受けた……と、慶を演じている私自身も感じました。だから小一郎が今後の人生においてどんな選択をしようとも、それに従っていく覚悟が生まれたのではないでしょうか。もちろん、彼が間違ったことを言えば、厳しいことも返すのでしょうけど。元々、喧嘩はたくさんしている夫婦なので(笑)。でも、小一郎のことを支えていきたい、いちばんの味方でいたいと思わされる出来事だったと思いますね。
慶の胸の中にあった、母としての思い

――慶の覚悟の基盤である我が子・与一郎への思いを、どんなふうに捉えて演じましたか?
慶という役を演じることが決まってから、この第19回に向けて全てを逆算して、撮影現場に向かいました。与一郎が置かれた立場に対する慶の苦しみというのは、現代ではなかなか表現されにくいものですが、それでも見てくださる方に共感してもらえるような、普遍的な痛みと温かさになったらいいなと思いました。
小一郎は「お慶が織田家を許す気になるまでは」と言って、8年間、冷え切った仮面夫婦のように過ごしてきた。その重みを、“与一郎を思う気持ち”に込めたいと思いました。
自分の命なんてどうでもいいと思えるぐらい大事な存在だけど、自分が死んでしまっては彼を守ることができないから、生きている。死んでもいいほど愛していて、それが生きる理由にもなっているという、唯一無二の存在ですね、与一郎は。
――取り返したいわけじゃなくて、ただ見守りたかった?
見守っていく中で、慶が織田家に対する恨みを持ち続けた同じ年月、与一郎は、「父親の仇をとれ」と教育されて過ごしているのを見て、「このままではいけない」と、ずっと思いながら……。でも、どうすることもできない無力感に苛まれ、悩み苦しんできたのかな、というふうに思います。

覚悟を持って小一郎に嫁いだ慶に共鳴したところは
――そんな慶を演じるにあたって、役作りとして何を心がけていますか?
常に感覚として持っているのは、媚びない、折れない、浅いところで一喜一憂しない。そういったところを大事にしたいなと思っています。あとは、あえて愛されようとしないというか、嫌われる覚悟を強く持っていること。相当強靭に育てられ、「女性だからって、なめるなよ」と、心の中に猛獣を飼っていたのではないかと感じました。いつだって戦う、市(宮﨑あおい)さんもそうですが、戦国時代の武家の女性たちは、そんな気概を持っていないと生きられなかったのではないでしょうか。
――織田方の人々に心を許せない日々が長かったですよね。
やっぱり、仇なので。本当に愛していた夫を亡くして、子どもとも離れ離れになった慶は、織田家、羽柴家の人たちと仲良くなり、自分1人が幸せになるわけにはいかないと心に決めていたと思います。子どもと同じように自分自身も不幸でいなければいけないんだ、という気持ちに、すごく複雑な思いが絡み合って、前半は演じていても苦しかったです。
太賀くんが思いを明かしてくれて、グッときました!
――小一郎役の仲野太賀さんとは以前、映画で仲が悪い夫婦役を演じていらっしゃいましたが、今回はどんなコミュニケーションを取られたのでしょうか? もう気心が知れた感じですか?
私は勝手に、そう思っています(笑)。例えば、太賀くんがリハーサルで違和感を抱いているときは、すぐにわかるんです。逆に私が違和感を持っていてそれを口にしなくても、太賀くんが「さっきの、やりづらかったよね」と気づいて「じゃあ、もっといい方法を探そう」と言ってくれる。その気遣いは、小一郎ともリンクしているなと思います。

――第19回の小一郎のセリフの中で、吉岡さんご自身が言われて嬉しかった一言はありますか?
たくさんあります! 中でも、私が「さすが太賀くん」と思ったのは、第19回の最後のほうのシーン。脚本には「この先は、たとえ誰かを守るためであっても、自らの命と引き換えにするようなことは言わんでくれ」と書かれていたのですが、太賀くんがここに「わしはそなたが大切なんじゃ」という言葉を足してくれて、その瞬間、慶の胸に矢が刺さりました(笑)。
このシーンを撮るときに、私は直さんのことを考えたんです。小一郎が直さんとの悲しい思い出や、関係性を話してくれたから、直さんと過ごした時間ごと小一郎を愛したいと思いました。
だから私は、小一郎は直さんのことをしっかり感じながらセリフを言ったほうがいいのではないかと、太賀くんに提案してみました。でも太賀くんは、「慶に対して大切だと思う感情をまっすぐにぶつけたい」と、明かしてくれました。私は、2番目の恋だとわかっているし、キュンとするような恋心ではなく、お互いに大人だから割り切った部分もある関係だと思っていたので……。そこが太賀くんの頼もしさというか、太賀くん演じる小一郎の優しさだなと思って、グッときました。
――まさに殺し文句ですね(笑)。
何よりも、慶は慶である、というのを認めてもらえたことが嬉しかったです。直さんとはやはり初恋の美しさ、尊さみたいなものがあって、慶とは、ともに痛みを抱えているがゆえの絆というか……、何と言えばいいんだろう……、“お互いがお互いでなければいけない感じ”がすごくあるなと思います。
――吉岡さん自身は、小一郎と直さんの過去は、詳しくご存じなわけですよね?
知っています。放送ももちろん見ていましたから(笑)。朝ドラの「あさが来た」に出演させていただいたときもそうでしたが、後で登場するキャラクターは自分が出演するまでの回を視聴者として見ているから、その作品が大好きになっちゃうんです。だから直のことも応援していました。直の死は「どうにかならないのかな?」と思ってしまうぐらい、せつなかったですね……。だからこそ、小一郎の歴史を心の奥底で感じることを否定しないというか、直とのことも大事に思える慶を演じていければと思いました。