足利あしかが義昭よしあき(尾上右近)ため、織田信長(小栗旬)の家臣として働いてきた明智あけちみつひでは次第に信長に重用されるようになり、義昭が追放された後、信長の家臣団の中でも頭一つ抜けた存在になっていく。そんな中で、光秀はなぜ日本史上最大のミステリーといわれる「本能寺の変」を起こしたのか。ここまで光秀の葛藤を見事に体現してきた要潤に、光秀の抱える思いや信長を演じる小栗との芝居について聞いた。


第16回の比叡山の焼き討ちが、「本能寺の変」に繋がる大きな布石に

――4月26日放送の第16回の比叡山の焼き討ちは、脚本のト書きに光秀は血の涙を流しているかのようとありました。演じた心境をお聞かせください。

あのシーンは自分の中で受け止められない部分がとても大きくて、自分が崩れそうになるのを必死に支えているような感覚でした。信長に命じられたから自分を捨てて、女性や子どもも構わず殺してしまう――そんな感情に振り切って演じました。でも、それは本心ではない、本当はやりたくないんだという気持ちを絶対に捨てずに演じようと思いました。そういう信長には言えない自分の本当の気持ちを藤吉郎(秀吉/池松壮亮)には言えた。藤吉郎がいたから、光秀はなんとか自分を保てたんだと思います。

――その後、光秀は信長から坂本城を与えられ、一方の義昭からは激しく叱責されました。

比叡山の焼き討ちの後、光秀としては、もうこんなことはやりませんと辞表を出すような気持ちで信長とたいしたのではないでしょうか。ただ、辞表を懐に入れていることが信長にはわかっているので、それを出させないために褒美をどんどん与えていく。公方様からは逆に、お前はもうクビだと言われて、自分はどうすればよかったのか、何が正解だったのかというやるせない思いを抱えていたと思います。果たして、この先、自分がどっちについていけばいいのか、その正解もわからない苦しさが第16回ではすごく出ていたと思います。だから、ここが「本能寺の変」につながる何か大きな布石になるんじゃないかとも感じましたね。


光秀のキャラクターを捉えるヒントになったものとは?

――明智光秀は本能寺の変の首謀者としてあまりに有名ですが、ここまで光秀を演じてこられて、どのような人物だと捉えていらっしゃいますか?

本当に迷いながら演じています。自分の居所みたいなものを探せば探すほど、迷路に入ってしまう。信長の前ではこういう顔、公方様の前ではこういう顔と決めて演じると薄っぺらく見えてしまうので、すごく曖昧な立場というか、自分の意思ではなく、誰かに命じられて生きている状態をいかに作り出せるかということをいつも考えていますね。信長に認められてもどこか微妙な顔をするなど、あくまで公方様を胸の内に抱えて生きている……そこを心の芯に持っている人物として演じました。

――明智光秀を作り上げる上で参考にされたことはありましたか?

過去の作品はあまり意識していません。坂本城があった場所や比叡山を訪ねて、土地の距離感、すなわち光秀が信長に会うためにどう動いていたのか、公方様の元にいる時はどう過ごしていたのか、実際の風景を見ながら作品の世界観をイメージしました。大河ドラマはスタジオでの撮影が中心になるので、見ている方にリアリティを感じていただけるようにしたかったんです。あとは、直筆の手紙を見せていただいたこともヒントになりました。光秀の手紙は勢いのある筆致で直接的な強い文章ではなく、柔らかくて、お伺いを立てるような内容で、光秀の人柄を知ることができました。


小栗さんとは現場でも距離をとって、芝居だけでお互いを感じ取っています

――信長を演じる小栗旬さんとお芝居で対峙されていかがですか?

小栗さんは以前も信長を演じられた経験があるので、手数が多いというか、信長を熟知している人の前に立たされている感覚がありました。毎回相対すると、すでに彼にアドバンテージがあるように感じるので、光秀は信長のなすがままにされています(笑)。俳優として対峙した時に、小栗さんはすごく深く考えていらっしゃるんですよね。

――現場では、小栗さんと演技についてお話しされたりしましたか。

これまで小栗さんとは同じ作品に出演したことはあったものの、ガッツリお芝居をするのは今回が初めてで。大好きな俳優さんなので、ようやく一緒にお芝居ができると喜んでいたのですが、現場ではあまり近づかないように、お互いに距離を取っている感じです。仲良くしてしまうと、ここぞというシーンでそういう空気感が出てしまうし、信長と光秀の間で緩んだ感じは出したくないので、今回は特に気を付けています。それはきっと小栗さんも感じてくれているんじゃないでしょうか。だから、現場では「よーいスタート」で出てきたものをお互いに感じ取って芝居をするだけで、芝居の話はほとんどしないですね。常にどこかに本能寺のことが頭にあるので、そっちはどう出てくるんだ? と探り合っている感じです。

――小一郎(仲野太賀)と光秀は打ち解けているようにも感じるのですが、光秀にとって小一郎はどのような存在だったと捉えていますか?

秀吉が窮地に陥った時には必ず小一郎が丸く収めるので、光秀としても一目置いている存在だと思います。光秀は義昭や信長のために動いて、小一郎は秀吉のために動く、お互いに同じような苦しい立場にいるので、ある意味、共鳴し合っているのではないでしょうか。光秀は秀吉にも心を開いていますが、彼は自分の立場とは違うところにどんどん進んでいってしまうので、共鳴ではなく、ちょっとした憧れがあるんじゃないかな。


――豊臣兄弟を演じられる仲野太賀さんと池松壮亮さんの関係性をどのように感じていますか?

本当に羨ましいです。だいたい毎話の冒頭にちょっとクスッと笑えるコメディシーンがありますけど、そういうシーンは彼ら2人だから出来るものなので。漫才じゃないけど、息がぴったり合ってすごくいいコンビだと思います。僕と公方様にもそういうシーンがあったんですけど、2人のようにポップに演じるのはなかなか難しかったですね。

――お2人は現場ではどんな様子ですか?

お2人からはこれまでの大河ドラマの殻を破って、いままでとは違うものにしようという気概を感じます。本当に才能あふれる2人で、自分たちでこの作品のオリジナリティを作り上げようとしているので、僕らも安心してついていけるし、いろんなトライができる。挑戦できる場所を彼らが作ってくれているんですよね。


これまでの光秀と振れ幅が大きいほど、「本能寺の変」へのエネルギーが大きくなる

――第16回が「本能寺の変」へ繋がる布石だったというお話がありましたが、その時点では光秀の内面はどのようなものだったのでしょうか。

その段階ではまだ怒りというよりも、なんで俺ばっかり? という戸惑いの方が大きかったと思います。矛先がちょっと他の人に向かったら、俺だけじゃなかったんだ、と収まるくらいの……。光秀はいきなりキレる人ではなくて、どちらかというと僕が力足らずでしたって素直に言える人ですから。

――では、そんな光秀が「本能寺の変」という謀反を起こした理由を、要さんご自身はどう考えていらっしゃいますか?

今回の光秀というキャラクターを考えれば考えるほど、自分から謀反を起こすキャラクターではないですよね。どちらかというと、俺が悪かったと我慢する人なので、僕としては誰かにき付けられないと謀反を起こそうという感情は出てこないのかなと感じています。自発的に奮い立つというより、大事なものを失くして、考えて考えて立ち上がるという感じなのかなと。

――いよいよドラマの中でも「本能寺の変」が近づいてきています。どのように演じたいと思っていらっしゃいますか?

光秀が信長を裏切ることは周知の事実ですから、そこに至るまでのキャラクターの振り幅が大きい方がいいと思ったので、ここまで光秀をすごくいい人として演じてきました。見ている方に信長より光秀に感情移入していただけるようなキャラクターとして作ってきましたし、小栗さんが演じる信長とは対照的で、反旗を翻すような人物には見えないように意識してきました。最終的な光秀とのギャップが大きければ大きいほど、「本能寺の変」に向かうエネルギーもより大きくなっていくのではないかと思っています。振り幅のある光秀が信長と対峙するシーンを、楽しみにしていてください。