連続テレビ小説第114作となる2026年度前期放送の「風、薫る」。文明開化が進む明治時代、日本初の近代看護学を学んだ実在の看護師2人をモチーフに、彼女たちの生きざまを脚本家・吉澤智子がフィクションとして再構成するオリジナル作品だ。
主人公は、栃木県那須地域の山すその町で元家老の家に生まれた一ノ瀬りん(見上愛)と、生後まもなく親に捨てられてキリスト教の牧師に育てられた大家直美(上坂樹里)。ドラマは、同じ看護婦養成所を卒業した2人が、医療現場で悩み、ぶつかり合う中で成長。やがて“最強のバディ”となっていく姿を描く。
そんな「風、薫る」が、9月8日に那須地域でのロケ撮影でクランクイン。14日には、撮影現場のひとつである栃木県大田原市の大雄寺で取材会が行われた。
大雄寺は600年以上の歴史を持ち、7つの茅葺きの伽藍が国の重要文化財に指定されている曹洞宗の禅寺。かつてこの地を治めた黒羽藩主・大関家の墓所がある。「風、薫る」のヒロインのひとり・一ノ瀬りんのモチーフになっている、明治のトレインドナース(正規に訓練された看護師)・大関和さんは、黒羽藩の家老の娘として生まれた。そのため大雄寺にも訪れたことがあるのでは、とスタッフが考えたことから、この場所で撮影するきっかけになったそうだ。
この日、撮影されたのは、ドラマの第1週放送で登場する予定の、りんが家族とともに地元のお祭りに足を運ぶシーン。祭り囃子や出店でにぎわう境内で、りんは幼なじみの竹内虎太郎(小林虎之介)と出会い、みんなで祭りを楽しむことになる。
大雄寺の趣ある茅葺きの総門の周辺には、いくつかの出店が飾り付けられ、地元劇団の俳優たちやエキストラも参加。地域の人々が祭りで盛り上がる、華やかなシーンとなった。
一連のシーンの撮影を終えた後、りん役の見上が大雄寺の中庭に姿を見せて報道各社の写真撮影に応じ、続いて本堂での会見に臨んだ。
見上「撮影がものすごく楽しい」

会見の冒頭で、見上は撮影現場の空気を話題にして、
「いよいよ始まったんだな、という感じがします。クランクインしてから(数日間、天候不順が続いて)お天気に悩まされていて、そういうときは気分が落ちがちなんですけど、この現場はそんなことがありません。雨が降る中でも生き生きとお仕事してくださっているし、雰囲気のいい現場、温かい現場を作ろうとしてくださっていることが全員から伝わってくるので、撮影がものすごく楽しいです」
と、笑顔で語った。
また、一ノ瀬家の家族4人、りんと父の信右衛門(北村一輝)、母の美津(水野美紀)、妹の安(早坂美海)が一緒に撮影をするのは、この日が初めてで、
「ようやく家族が集まりました。お祭りのにぎやかなシーンで、きょうはお天気も味方してくれて晴れたので、家族としての幸せの絶頂というか、みんなが温かい気持ちになるシーンが撮れたんじゃないかなと思います」
と、この日の撮影を振り返った。

役衣装を着て、りんとして明治の時代に生きている印象を聞かれると、
「衣装を着てカツラをつけると、ものすごく背筋が伸びて、お稽古していたときとはまた違う、自然と凛とできるようなパワーをもらえます。明治の町並みを再現した場所での撮影もあって、『昔は、こんなうなぎ屋さんがあったんだ』とか『お茶って、こういうふうに売っていたんだ』とか、いっぱい発見があって楽しかったですね。撮影が始まって、まだちょっとしか経っていないのに、たくさんの時間を過ごしたような濃密さがあります」
と、短い時間では話したりない様子をうかがわせた。
さらに強く印象に残る出来事として、今回のロケ撮影には登場シーンがない直美役の上坂樹里が、撮影開始に合わせて那須まで訪ねてきていたことを挙げた。
「自分は撮影がないのに、クランクインを一緒に見届けてくれて、それがすごく嬉しくて、心強いなと思いました。ヒロイン発表の後も一緒にお稽古をしたり、一緒に過ごす時間の中で、2人ともどんどん心を開いていって、少しずつ敬語もなくなっていって(笑)、こういう少しずつの心の開きが、りんと直美にリンクする部分なんじゃないかと思いました。今後撮影する出会いのシーンしかり、その先のシーンしかり、しっかりと手を握り合って、同じ歩幅で歩いていけたらいいなと思います」

そして、約1年に及ぶことになる連続テレビ小説の撮影について、
「物語の中でも、撮影現場全体でも、いろんなことがあるだろうと思うんです。でも、この数日間で、スタッフの方もキャストの方も、何があっても乗り越えていける仲間だな、と思える安心感が得られました。1年間、すごく朗らかに撮影していけるぞ、と。それが確信に変わっています。頑張ります!」
と、力強く意気込みを語った。
また同席した制作統括の松園プロデューサーは、
「ドラマ制作では、それぞれ担当部署ごとに各自の業務が決まっているのですが、雨が降ったり止んだりしてギリギリのスケジュールの中で、なんとかその日に撮り切る、撮影を進めるために、みんな自分の業務を超えて、できることを協力してやり始めた瞬間があったんです。それを見ていた見上さんが『みんなで作っていることを実感して、とても嬉しい』とおっしゃって、その言葉に僕も感動しました」
と、見上の言葉を裏付けるとともに、彼女への強い信頼感を述べた。
もうひとりのヒロイン・直美役の上坂樹里のクランクインは、もう少し先になりそうで、現在はさまざまな稽古に邁進しているとのこと。来年春の「風、薫る」放送開始を、今から楽しみに待ちたい。
2026年度前期 連続テレビ小説「風、薫る」
2026年春 放送スタート
毎週月曜~土曜 総合 午前8:00~8:15ほか
【物語のあらすじ】
明治18(1885)年、日本で初めて看護婦の養成所が誕生したのを皮切りに、次々と養成所が生まれた。そのうちの1つに、物語の主人公・一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)は運命に誘われるように入所する。不運が重なり若くしてシングルマザーになった、りん。生まれてすぐ親に捨てられ、教会で保護されて育った直美。養成所に集った同級生たちは、それぞれに複雑な事情を抱えていた。手探りではじまった看護教育を受けながら、彼女たちは「看護とは何か?」「患者と向き合うとはどういうことか?」ということに向き合っていく。
りんと直美は、鹿鳴館の華といわれた大山捨松や明六社にも所属した商人・清水卯三郎(坂東彌十郎)らと出会い、明治の新しい風を感じながら、強き者と弱き者が混在する“社会”を知り、刻々と変わり続けていく社会の中で“自分らしく幸せに生きること”を模索していく。
養成所卒業後、2人は同じ大学病院でトレインドナースとしてデビュー。まだ理解を得られていない看護の仕事を確立するために奮闘の日々を送っていたが、りんは程なくして職場を追われることに。一方、アメリカ留学を夢見る直美は渡航直前に思わぬできごとに巻き込まれ……。
やがて、コレラや赤痢などさまざまな疫病が全国的に猛威をふるい始める。一度は離れ離れになった2人だったが、再び手を取り、疫病という大敵に立ち向かっていく。
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介、葛西勇也
演出:佐々木善春、橋本万葉、新田真三、松本仁志ほか