連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロイン・松野トキ(髙石あかり/幼少期は福地美晴)の成長を陰ながら見つめる、蛇とかえる。演じるのは、お笑い芸人・阿佐ヶ谷姉妹の渡辺江里子と木村美穂だ。2人に、どんな思いで物語を見守っているのか聞いた。


「ばけばけ」の世界に転生した普通の朝ドラ好きのおばさんたち

──「ばけばけ」に出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。

蛇役・渡辺江里子:まさに青天の霹靂へきれきでした。子どもの頃から拝見していたNHKの朝ドラに自分たちが関わらせていただけるなんて、思ってもみないことでしたから。

脚本のふじき(みつ彦)さんは、私たちのエッセイ『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』がNHKでドラマ化された際(同タイトルで2021年放送)の脚本を担当してくださった方。なので、ふじきさんが朝ドラの脚本を担当されるとうかがった時は、もちろんお祝いのメッセージをお送りしました。「うちの事務所も、総出で出演スタンバイしております~」なんて最後に冗談を書いたりしてね。

美穂さんと「あの人は出そうよね~」などと出演者を予想して、一視聴者として楽しみにしていました。なので、自分たちにお声をかけていただいたと知った時は、本当にびっくりしました。

蛙役・木村美穂:うれしかった反面、お芝居の経験は多くないので、俳優としての出演であれば少し荷が重いなとも思っていたんですよ。そうしたら、声の演技ということで。

江里子:そうね。なんでも「ばけばけ」には、従来の朝ドラの“語り役”はいなくて、代わりに私たち──蛇と蛙が2人でおしゃべりをしながら、物語を見守るという形なのだそうで。私たちの性質をわかってくださっているふじきさんだからこそ、こういうスタイルをとってくださったのかなと。だから、腹をくくって精一杯せいいっぱいやるしかないと思いましたね。

──結果、まさかの“人外”のキャラクターでのご出演ということになりました。この役どころを聞いたとき、どのように思われましたか?

江里子:最初は「え?」と聞き返してしまいましたが、おいしい役でありがたいな~と。声もじんめりしているので、ピッタリだと思いました。

美穂:私は蛙が好きなんです。蛇よりも。だからとってもうれしかったです(笑)。

江里子:私だって蛙、好きですよ(笑)。でも蛇は日本では昔から“神様のお使い”的なお役目を持っていますでしょう。だから、阿佐ヶ谷姉妹のなかでは、どちらかというと、姿勢がいい私の方が蛇っぽいのかなと思われたのかな。

美穂:お姉さん、ちょっと目つきも悪いしね。蛇っぽいかもね。

江里子:目つきのことは言わなくていいのよ。それでいうと、美穂さんも夜な夜な台所で何かモグモグ食べている感じは蛙さんっぽいわよね。

……と、こんなふうに、「いつも2人で話ししているような感じでやってもらえたら、『ばけばけ』の世界観にもマッチすると思う」とふじきさんには言っていただきました。「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」のドラマも素敵すてきな作品にしていただいて、ふじきさんには本当にご恩しかないのですが、また大きな借りができてしまいました。

──音声収録はどのようにされているのでしょうか?

美穂:同じブースに2人で入って、立ったまま、ハの字で向かい合って、おしゃべりさせていただいているのよね。

江里子:そうね。マイクを高めにセッティングしてもらって、2人で顔を見合わせてタイミングをはかりつつ、録っていただいています。そのほうが声量も出ますし、気心知れた相手と一緒だという安心感があって助かっています。私のセリフが多い時は美穂さんが「ガンバ!」と応援してくれたりしてね。

私たち、お芝居の基礎があるわけでも、発声の技術があるわけでもないので、そもそも聞き取りづらくないか心配していたのですが、監督はじめスタッフのみなさんがいつも笑って、褒めて伸ばしてくださる方ばかりなので、とてもありがたいです。

最近は、あり余った母性を全部おトキちゃんに向けてる(笑)

──演じる上で、大事にしていることがあれば教えてください。

江里子:あえてこのスタイルで、私たちを選んでくださったというのは、より視聴者の皆さんと近い立場が求められているのだろうなと思っているんです。だから、「ばけばけ」の世界に蛇と蛙として“転生”した、中身は朝ドラ好きのおばさんたち、という目線や空気感を大事にできたらなと思っております。美穂さんはどう?

美穂:あと、“台本を読む”というより、自分の生の心情を言葉に乗せよう、と思ってしゃべってますけども。うまく乗ってるかしら?

江里子:乗ってる乗ってる。美穂さん、すごくおしゃべりしてる感じに聞こえるわよ。

美穂:ふだんお姉さんと話す感じでいけるように、頑張っています。どちらかというと状況説明的な役割が多い蛇さんに比べて、蛙は、それを受けて「大変ね〜」みたいなセリフが多いんです。だから、お茶飲みながらテレビを見てる時に出る、自然な「へえ〜」って感じを大事に。蛇さんもいい感じですよ。説明をするのも、優しくてね。

江里子:もうおトキちゃんが本当に健気けなげでね。最近は、あり余った母性を全部おトキちゃんに向けてる(笑)。

美穂:お姉さんは、私よりも涙もろかったり、感情移入しやすかったりするところがあるので。そういう優しさが声に出てるから、いいわよね。

江里子:でもこれが、あまりに入りすぎると泣き出しちゃったりするのよね。蛙さんの飄々ひょうひょうとした感じでバランスをとってもらってます。2人で見守るというのが、独特の良さになればと思います。

──ご出演にあたって、何か準備はされましたか?

美穂:2人でちょっと読み合わせをしたり、あと私は蛙の動画を見てみたりして、蛙の気持ちを考えました。

江里子:それ、蛙がただ好きだからってわけじゃなくて?(笑)

美穂:研究してたんです。

江里子:あらそう、立派じゃない。私はやっぱり滑舌に自信がなかったので……。美穂さんが先ほど言ったように、蛇のセリフには大事な説明が多いんですよね。だから、歯を磨く時間もできるだけ大きく口を開けたり、少しでも口角を上げたりして、できるだけ滑舌をよくしようとしています。

あと、最近、私はバク転教室に通い始めたのですが、そこで腹筋の大事さを学びまして。そこで腹筋を鍛えて、今回の役に備えました。でも、全然毎日ではないんですけど……。ほかの方に比べれば微々たる努力ですけれど、そういうことをしていました。

美穂:あとは、蛇さん、蛙さんとしてできるだけ息を合わせないといけないので、できるだけ仲悪くならないように。私たち、たまに小競り合いをするので。

江里子:そうね。本番で息を合わせてほしいと思っても、合わせてもらえなくなったら困っちゃうもの。

美穂:そうそう。だから収録が終わるまで、少なくとも半年の間は仲良しでいきたいですね。


日常の中に何気なく描かれる多様性が魅力

──蛇&蛙としてトキを見守る中で、彼女の魅力はどこだと思われますか?

美穂:おトキちゃんはすごく家族思いですよね。ひとりだけ幸せになろうとは思わずに、みんなで助け合って、松野家を支えていこうとしているのね。

江里子:松野家だけじゃなく、雨清水家や、関わる人たち全員に対して愛情深くて素敵だなと思います。

──まだ始まったばかりですが……、特に印象的だったシーンはありますか?

美穂:それはもう、最初のシーンですよ。ヘブンさんが、おトキちゃんにキスしようとするでしょう。まったく、私たち2人は一体、何を盗み見てるのかしらという感じですけど(笑)。ほんとに、「あらあら〜!」っていう気持ちになりました。

江里子:「やだ、ちょっと朝よ! 夜だけど、朝なのよ!」っていうところでしょ。あれは本当にふじきさんらしい、遊び心のあるセリフよね。夜のシーンだけど、朝なのよ、朝ドラなのよっていう。あのシーンで、私たちの立ち位置もはっきりわからせちゃうんだからすごいし、ああ、これからこういうニヤニヤするようなセリフがいっぱい重ねられていくんだろうなあと、台本を読むのがいっそう楽しみになりました。

──「ばけばけ」という作品の魅力や見どころを教えてください。

江里子:現代は多様性の時代といわれていますが、この「ばけばけ」はおよそ150年前が舞台にもかかわらず、アメリカと日本、昼と夜、見える世界と見えない世界……さまざまな人、関係性がたくさん描かれています。それが今この時代にドラマとしてつづられていることが素晴すばらしいことだと思いますね。しかも、それが声高に語られるのではなく、何気ない日常の連続の中にひっそりと、押し付けがましくなく描かれる。ふじきさんの筆を通して、私たちの中に染み込んでくる。そこが、「ばけばけ」の魅力なのではないでしょうか。

怪談を愛した小泉八雲さんご夫婦がモデルと聞くと、最初に夜のイメージを持たれたりするかもですが、それが、朝ドラでこう扱われるか、という面白さがあります。映像も含めて、ただ明るいだけではない、“うらめしい”という言葉に含まれる奥深い感情や情景を、 私たちの声からもお届けできたらと思います。

美穂:個人的に一番ワクワクしているのは、おトキちゃんとヘブンさんがどう結ばれて夫婦になっていくのか? だって、ちょっと想像ができない。ちょっと下世話な、まさに朝ドラ好きおばさんとして、「このふたり、どうなっちゃうのかしら? うふふ」という気持ちで台本を読んでいます(笑)。みなさんも私たちと一緒に、ワクワク、楽しみに見守っていただけたらと思います。