現在放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」。制作統括の橋爪國臣と演出の村橋直樹のインタビューのなかから、今回は第2週について回答した部分を伝える。
※制作統括&演出インタビュー①はこちら
※制作統括&演出インタビュー②はこちら


――2週目のお見合いの話は、髙石あかりさんのお芝居全開で素敵すてきでした。第8回では、障子を閉めた途端、大の字になるという、多分あの時代にはないリアクションをしていますが、あの場面はどのように演出されたのでしょうか。

村橋 髙石さんには「自由にやってください」としか言っていません。でも、かつらの問題があって、実は自由にやれないんですよね。本当は障子を閉じた瞬間にそのまま倒れたいところを、かつらがあると大の字になれないので、頭が縁側の先に出るよう移動しているんです。それを不自然に感じさせないところに、髙石さんならではの味があったと思います。

――第9回では、岡部たかしさん演じるつかさすけの落武者頭がすごく印象的でした。堤真一さん演じる雨清水でんはかっこいいざんり頭で登場していましたが、これらについて裏話があればお聞かせください。

村橋 岡部さんだと面白く映るんですよね。岡部さんはおどけて見える役なんですけど、おどけていないから面白いんです。あの時代を生きている人が、真剣にかっこいいと思ってやっているから笑える。岡部さんはそこを体現できる数少ない役者さんなので、すごく助かっています。

これってふじきさんの台本が持っている性質なんです。全員が本気で真剣に生きている。岡部さんはふじきさんと舞台をずっと一緒にやっていらっしゃったこともあって、「真剣にやるからこそ面白いんだ」ということを体現してくれています。まさに陰の演出家で、他の俳優のみなさんも、くだらないことでも真剣に、いかにも笑ってください、みたいな芝居を誰もやらない現場になっているのは、岡部さんのおかげだと思っています。

橋爪 髪型について補足すると、散切り頭にすると、月代さかやきっているからああなります。資料を調べると、当時も格好悪い落武者スタイルだった人たちがいて、恥ずかしいからみんな帽子をかぶっていたとか、月代が伸びるのを待ってボサボサになってから切ったりしていたようなんです。なので、今回は、それをやってみたら面白いよねということで、特殊メイクを使ってあのような形にしました。

――1週目の第5回で、遊女のなみが、「いっとくけど、おなごが生きていくには身を売るか、男と一緒になるしかないんだけんね」と言っていました。トキもお見合いすることになるわけですが、現代の女性からすると非常に不自由で選択肢がないように見えます。当時のそういった女性たちの姿をどう描こうと考えていますか。

橋爪 当時の女性は今よりもっとすごい制限があったし、きっと男性にも選択肢は少なかったと思います。とはいえ、当時はそれが当たり前で、何も疑問を持たなかった。それはそれで幸せな生活があったとも思います。

新しい価値観が入ってきて、今までの価値観が壊れていくというのは、明治維新の大きい政治の話だけではなく、庶民にも起きたことです。価値観がどんどん変わっていく中で、どういう選択をしていくか、というのは今回のテーマのひとつだと考えています。

不自由だった時代、と言ってしまうと語弊がありますが、選択肢がそれしかなかった時代だったことはきちんと描かないといけないし、それが当たり前に見えるように描かなきゃいけない。それは脚本のふじきさんとも話しました。

ただ、当時の価値観が正しいか、正しくないかをドラマで言いたいわけではありません。今の価値観で見ても、この先10年後、100年後には価値観や正しさは変わっているかもしれませんから。それよりは、「当時の人々はそういう生き方だった」と、史実に沿って描きたいと思いました。トキのおさな馴染なじみのサワにちょっと違う目線を持たせたのは、それを際立たせるためだったりもします。

村橋 お芝居をやってもらう上では、これが当たり前だと思って演じてもらうことが大事だと思っています。現代の価値観を落とし込んで、当時の女性が置かれた立場に疑問を抱くとか、何か意見があるようなお芝居をすると、逆に正しく伝わらなくなると思うんです。この時代はそういう時代だったことは確かなことなので、それを壊さないようにやるのが、僕らのやるべきことだと思っています。

――板垣李光人さんと寛一郎さんの起用理由と、お芝居を見られての感想をお聞かせください。

橋爪 あの時代の中で、雨清水家だけちょっと違う色を出さなくてはいけません。三男坊としてあの一族の中に入れる人は誰だろうと考えたとき、「青天を衝け」(2021年)でご一緒した板垣さんのことが思い浮かびました。役者として稀有けうな存在です。

さんじょうは、自分が期待されていない中で、なんとかやらなきゃいけない、でも何もわからない、という葛藤を抱えていて、板垣さんが持っている雰囲気に合っていると思いました。また、北川(景子)さんと堤(真一)さんから生まれた子供としても、納得できると思ってお願いしました。

このドラマの中で、三之丞というキャラクターはちょっと特異な存在なんです。他のキャラクターが自分たちの生活に必死な中で、三之丞だけ違う方向を向いているところがあって……。板垣さんのお芝居はぐっと胸に来るところがあり、試写を見ていても泣けるので、本当に彼にしてよかったなと思っています。

寛一郎さんが演じる銀二郎に関して言うと、トキと結婚する役です。だけど、トキは最終的にはヘブン先生と一緒になるので、どこかで別れるわけです。銀二郎が嫌な男だったから別れる、という流れにはしたくなくて、それはそれでトキとは素敵な生活を送ったように描きたいなと思いました。いろんな状況や時代が許さなくて、ふたりが別れてしまった、と見えるようにしたかったんです。

実直かつ、嫌味にならないお芝居ができて、みんなが好きになれる人にしたいなと思って、寛一郎さんにお願いしました。愛されるキャラクターで、きっとみなさんも銀二郎のことが好きになると思いますよ!

村橋 現場では、板垣さんや寛一郎さんにほとんど何も言っていないですね。彼らが持っているものがそのまま役柄と直結しているので。彼らの味を殺さないように撮るにはどうしたらいいかだけを考えてやっていました。

三之丞という役は、大きな時代のうねりの中でのどうしようもなさ、というものと一人で戦わなきゃいけない役です。板垣さんは、運命を背負っているように見える特異な存在感を持ちつつ、さらに人間としての揺れを表現できる方です。

世界を変えようといった大きな戦いではなく、雨清水家の中で小さな戦いを強いられて立ち尽くす人ということを、彼なら朝ドラの短い時間でもリアリティーをもって見えます。それをどう殺さずに撮るかだけを考えていますが、それを本人に伝えると壊れてしまうので、現場ではバレないように接しています。

寛一郎さんも同じです。時代劇の登場人物って、現代人から見るとある意味で決められた価値観で生きている人が描かれることが多くて、真っぐで純朴です。それを表現できる人は少ないんですけど、寛一郎さんは、平安時代に行っても、奈良時代に行っても、戦国時代に行っても、「その時代の人になれるんじゃないかな」というぐらい、汚れていない感じが匂い立つ方です。それが壊れないように、何も言わずに演出したという感じです。

ですから、このふたりに関しては共通して何もしないと決めていました。楽な商売ですいません(笑)。


【物語のあらすじ】
この世はうらめしい。けど、すばらしい。

明治時代の松江。まつトキは、怪談話が好きな、ちょっと変わった女の子です。
松野家は上級士族の家系ですが、武士の時代が終わり、父が事業に乗り出すものの失敗。とても貧しい暮らしをすることになってしまいます。
世の中が目まぐるしく変わっていく中で、トキは時代に取り残されてしまった人々に囲まれて育ち、この生きにくい世の中をうらめしく思って過ごします。
極貧の生活が続き、どうしようもなくなったトキのもとに、ある仕事の話が舞い込んできます。
松江に新しくやってきた外国人英語教師の家の住み込み女中の仕事です。外国人が珍しい時代、世間からの偏見を受けることも覚悟の上で、トキは女中になることを決意します。その外国人教師はギリシャ出身のアイルランド人。
小さい頃に両親から見放されて育ち、親戚をたらい回しにされたあげく、アメリカに追いやられ、居場所を探し続けて日本に流れ着いたのでした。
トキは、初めは言葉が通じない苦労や文化の違いにも悩まされます。ところが、お互いの境遇が似ている事に気が付き、だんだんと心が通じるようになっていきます。しかも、二人とも怪談話が好きだったのです!
へんてこな人々に囲まれ、へんてこな二人が夜な夜な怪談話を語り合う、へんてこな暮らしが始まります――。


2025年度後期 連続テレビ小説「ばけばけ」

毎週月曜~土曜 総合 午前8:00~8:15ほか ※土曜は一週間の振り返り

作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
出演:髙石あかり、トミー・バストウ/吉沢亮 ほか
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史、小林直毅、小島東洋

公式Xアカウント:@asadora_bk_nhk
公式Instagramアカウント:@asadora_bk_nhk

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。