10月1日、夜ドラ「ひらやすみ」の第1週試写会と会見が行われ、主演の岡山天音、共演の森七菜、制作統括の坂部康二が登壇した。
「原作が大好き!」という2人が初共演
本作の原作である漫画『ひらやすみ』(真造圭伍)は、現在、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載中の人気漫画。仲良くなった近所のおばあちゃんから一戸建ての平屋を譲り受けることになったフリーターの生田ヒロト(岡山天音)。そこへ、美大進学を期に上京してきた従妹の小林なつみ(森七菜)が同居することになり、このふたりの暮らしぶりと周囲の人々の様子を丁寧に描いた作品だ。
会見冒頭の挨拶で、岡山と森は、もともと原作ファンであったことを明かした。

岡山 僕はもともと、このお話をいただく前から『ひらやすみ』が大好きで、ずっと読み続けていました。原作者の真造圭伍先生が作り出す世界観が好きで、今回、このような機会をいただけたことを幸せに感じています。
同時に、非常にプレッシャーもありましたが、ヒロトというキャラクターが大好きですし、「ひらやすみ」の世界の人たちの息遣いや暮らしぶりといったものが、みなさんの心にどうタッチするのか、ということを今から楽しみにしています。
森 私も原作がすごく好きで、NHK放送センターの近くにある本屋さんで『ひらやすみ』を試し読みしたのが初めての出合いでした。なので、出演することになり、今こうしてお話させていただいてご縁を感じているところです。
夏に撮影をしていたのですが、1週目を見ると懐かしく、自分の過去をまた見直しているようでした。何でもないような日々だけど、見返したくなる価値があると感じられますし、きらめきのある作品になっています。夜、疲れたな、と感じる時間にほっと一息してもらえるんじゃないかと思っています。
岡山と森は同じ作品に出演したことがあるものの、共演は今回が初めてということで、お互いの印象を聞かれた。
岡山 これまで会ったことないタイプの人、という感じです。“森七菜パワー”をすごく感じました。カメラが回っていない時にお話を聞いていても面白いですし、カメラが回ってお芝居になってもすごく面白い。唯一無二の人という感じですかね。
森 いろんな役を演じていらっしゃるので、ヒロ兄みたいな“平和な人”というイメージがありつつも、サイコパスのような天才で、頭脳派というイメージもありました。セリフも一瞬で覚えちゃうんだろうな、という感じでビビっていたんですけど、今回共演させていただいて、今は先輩俳優さんの中で1番お話しやすい方になりました。今日ちょっと喋りすぎたかなと思うぐらい、いっぱいお話していただけたのがありがたかったです。
派手な何かが起こるわけではないけど、面白い
記者から原作の魅力について問われたふたり。
岡山 いろんなキラキラが詰め込まれた作品と感じているので、ひとつ、というのは難しいんですよね。どの角度から見ても完成度の高い作品です。派手な何かが起こるわけでもないのに、あれだけ面白く読めるのは、そこにいる人たちに実在感があり、とても魅力的だからだと思うんですよね。
森 登場人物に悪い人がいません。時々、ぶつかり合いや、すれ違いは起こるのだけど、誰かを貶めようとする人もいません。これって現実にもきっとあることだと思うし、この「ひらやすみ」が、それぞれ人には正義や思いがあるということを教えてくれていると感じています。

現実にもいそうな、リアリティのあるキャラクターたちが本作の魅力だが、ふたりが役柄をどう演じているかについても語った。
岡山 『ひらやすみ』の1巻が出て、はじめて読んだ時に、僕が出会いたかった人たちにやっと出会えたという思いがあったんです。ヒロトは、こういう友達がいたらいいなと、子どもの頃から思い描いていたまんまの人なので、演じるのはすごく難しかったです。僕が持つヒロト像を、1つも取りこぼさず、全うできたらなという思いがあったので。
街の中にいて、すれ違ってしまうような人ではあると思うんですけど、僕はヒロトをある種の天才だと感じています。本人に全く自覚はなさそうですが、僕の心の中で出来上がりすぎてしまったヒロト像を、僕なりに“生きている人間”にできたら、という思いで臨んでいました。
この天才というのは、人間として“生きる才能”だと、僕は個人的には感じています。人はここではないどこかに、何か希望を見いだしがちだと思うんですけど、その手前にある日常の中に、宝石みたいなものがちゃんと用意されていることに、ナチュラルに気づけているというか……。
派手さはないかもしれないけど、豊かな時間の中を生きている人な気がしています。そういうところにいろんな人が惹かれて集まってくるんじゃないかなと感じていますね。

森 漫画のコマを見ていると、なつみは基本的にむすっとしているので、1話をご覧になられる視聴者の方に嫌われないかな、という思いはあったんですけど、そこはそこで自分としてちゃんと表現したいところでした。
それに、ヒロ兄や、あの平屋をどんどん好きになっていく感じとか、口には出さないけど本当は感謝している気持ちだとか、なつみの中にあるいい子の部分、つまり核の部分である素敵な女の子としての面を見せることができたらいいな、という思いはずっと持ち続けていようと思っていて。それがどこかでこぼれ落ちて、誰かに拾ってみてもらえればうれしいなと思いながら演じていました。
自分が演じるキャラクターと似ていることがあるか、という問いに対しては、「似ているところはわからない」と答えた岡山。
岡山 僕のまわりは、『ひらやすみ』がもともと好きだったという人が多いのですが、ドラマの情報解禁前で、僕がまだ何も言えない時に、「ヒロトに似てるね」と言われたことがありました。でも、それを自分で言うのはおこがましいです(笑)。
平屋はもう1つの“主人公”

ヒロトとなつみが暮らす、阿佐ヶ谷の平屋は物語には欠かせない存在だが、実際にある家なのだろうか?
坂部 物語の中で、もう1つの“主人公”と言ってもいいくらい大事な存在です。スタッフと話し合い、セットを建てるのではなく、阿佐ヶ谷を中心に実際にある平屋を何十軒と探して行き着いたのがこの平屋です。
ここには長年、実際に人が住まれていて、借りた時は空き家でした。そこに小道具などを飾り、人が住んでいたんだなという雰囲気や、そこにしかない時間というものが映像に映っているんじゃないのかなと思っています。
ただ、撮影のために作られた家ではないので、機材とスタッフが入ると場所がないのですが、岡山さんはベッドの上とか、森さんはなっちゃんの部屋でゴロゴロしていたりとか、自分で居心地のいい場所を見つけてくださっていたようです。
ヒロトとなつみを演じたふたりも、演じる上でこの平屋の存在は大きかったという。
岡山 僕がばあちゃんから譲り受けたという家で、家の中に入ってみると、ばあちゃんが暮らしてきた痕跡とヒロトがいま暮らしている痕跡、なっちゃんが一緒に暮らすことになって、また新しい色が、澱のように積み重なっていってる……そういったものが画面の端々までちゃんと映っていて、香っているというか、そういう場所でしたね。自分としてはすごく、ヒロトとしてここで生活している、ここでばあちゃんとの時間があったということを信じる上で、この平屋が非常に力になりました。
実は僕は今回が、平屋デビューでした。自分がこの平屋で、仮初めで生活してみて、ヒロトという人にはすごくマッチしている場所だなと感じました。また、時間との付き合い方がすごく変わる体感がありました。生活の中で、ふと呼吸をするために立ち止まるきっかけというか、そういうことをしたくなる気分になる場所だなと感じて、とても好きでしたね。
森 私は縁側と台所がすごく好きです。あの台所には窓があって、そこから光が入り、まな板のところにちょうど光が当たって、食材が照らされているところも美しかったです。ちっちゃなテーブルで食事をしているのも、この小さな暮らしの感じがとても心に落ち着くというか……。
食事のシーンが終わってからも、ご飯が美味しくて食べ続けましたし、居心地があまりに良すぎてなかなか帰れないこともありました。縁側も風通しが良くてとっても気持ちいい場所。縁側のある部屋は畳で、夏は暑いけど、外からの風を浴びながらちょっと休むみたいな、本当に自分の家にいる感覚でした。
私は小学生の頃に、平屋に住んでいたことがあります。なつみがこの平屋のこと「すごいボロボロだ」みたいなことたまに言うんですけど、うちの平屋は3日で建てたような感じ(笑)。畳と畳の間からカイワレ大根が生えてきたり、ナメクジと一緒にお風呂に入ったり、ナチュラル系の平屋だったので、ここは贅沢だなと思いました。
でも、平屋は2階建てと違って、階段だったり隔たるものが全くなくて、家族に声が届く距離なのですごく平和な空間。雰囲気も好きなので、いつか自分の理想の平屋に住みたいなと思っています。
ふたりが現場に現れた瞬間、「漫画から抜け出した」

なぜこのタイミングで漫画『ひらやすみ』をドラマ化したのか。制作統括の坂部が語った。
坂部 岡山さんがヒロトはある種の天才で、“生きる才能”があるとおっしゃっていましたが、こんな人が本当にいるのかな、いや、なかなかいないよねという、ある種のファンタジーな人物である気もするんですね。
ただ、ヒロトみたいな人がいたらいいなとか、いてほしいというのは、社会全体が望んでいるキャラクターなんじゃないのかなという風にも思います。なので、本当にいてほしい、こんな時間が流れていてほしいという願いのようなものを込めて作っていたように感じています。今、このドラマを作るべき意義は、ドラマの中にいろいろと詰まっていると思っています。
ヒロトとなつみのキャスティングについては、自然に浮かびましたね。ふたりが現場に現れた瞬間、「漫画から抜け出した」とは、こういうことだ! と思いました。本当に血が通った素晴らしい演技をしてくださったので、ぜひ楽しみにしていてください。
最後に、原作者の真造圭伍先生から寄せられたメッセージが代読された。
【原作・真造圭伍さんのメッセージ】
岡山天音くんへ
天音くんとは昔から色々ご縁がありましたね。ひらやすみを描くだいぶ前に、天音くんが主演のドラマの現場見学をさせてもらいました。
あの時、休憩時間中に一人でブツブツと台詞の練習をしてる猫背な後ろ姿を見て「この人はきっとこれからも活躍して、いい俳優さんになっていくんだな」と思いました。
ヒロト君を演じてくれてありがとう。天音くんのヒロト、観るのを本当に楽しみにしています!
森七菜さんへ
ひらやすみのドラマの現場見学をさせてもらった日は、8月で夜なのに本当に頭がクラクラする位蒸し暑かった。そんな中現れた森さんは発光してるようなエネルギーを感じました。
なっちゃんの若さゆえの生意気さ、でも可愛らしさが森さんなら説得力を持って演じてくれるだろうなぁと感じました。森七菜さんのなっちゃんを観るのも本当に楽しみです!
原作者からのメッセージを聞き、笑顔を見せるふたり。
岡山 恩師からのメッセージのようで、教え子のような気持ちになりましたね。僕がもともとファンで、最初の出会いはプライベートで行った真造先生のトークショーでした。世に出ている真造先生の作品はほとんど全部読んでいて、先生が描くものが大好きなので、今こうして、ドラマをお届けできる日を迎えられたことを改めてありがたく感じました。
真造先生が撮影の見学にいらっしゃった時も好きすぎて喋れなくて……。「もう帰られたよ」と言われてから、もっと喋りたかったなと思うほどでした。
森 原作があるものをお芝居させてもらう時は、もちろん原作ファンのみなさんや、新しく観てくださる方の目線は何より気になるんですけど、原作者の方のお許しが得られるのかどうか、といった緊張感が常にある中でお芝居をしています。
真造先生が描かれるなっちゃんは、1コマ1コマが本当に生き生きしていて、演じることは、コマ同士をどうやって繋げていくかという作業で重大な責任を感じていました。今、先生からそういうお言葉を聞けたことがとてもうれしいです。
いよいよ放送が始まる夜ドラ「ひらやすみ」。漫画からそのまま飛び出てきたような平屋を舞台に繰り広げられる、ヒロトやなつみを中心とした日常の暮らしに期待が高まる。
【あらすじ】
生田ヒロト(岡山天音)、29歳、フリーター。元俳優で、いまは定職なし、恋人なし、普通ならあるはずの? 将来の不安も一切ない、お気楽な自由人です。そんな彼は、人柄のよさだけで、仲良くなった近所のおばあちゃん・和田はなえ(根岸季衣)から、一戸建ての平屋を譲り受けることに。そして、山形から上京してきた18歳のいとこ・小林なつみ(森七菜)と2人暮らしを始めました。不動産会社勤務で仕事熱心な立花よもぎ(吉岡里帆)をはじめ、彼の周りには生きづらい“悩み”を抱えた人々がいつのまにか集まってきて……。
夜ドラ「ひらやすみ」(全20回/5週)
11月3日(月・祝)放送スタート
毎週月曜~木曜 総合 午後10:45~11:00
※NHK ONEでの同時・見逃し配信予定(ステラnetを離れます)
原作:真造圭伍
出演:岡山天音、森七菜、吉村界人、光嶌なづな/吉岡里帆、根岸季衣 ほか
ナレーション:小林聡美
脚本:米内山陽子
音楽:富貴晴美
音楽プロデューサー:福島節
演出:松本佳奈、川和田恵真、髙土浩二
制作統括:坂部康二、熊野律時
プロデューサー:大塚安希
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