11月24日、放送100年特集ドラマ「火星の女王」の第1回試写会と会見が行われ、出演者の菅田将暉、シム・ウンギョン、岸井ゆきの、滝藤賢一、演出の西村武五郎が登壇した。


放送100年という節目の年に、見たことがないものを届けたい

本作は、直木賞作家・小川哲の同名小説を原作にしたSFサスペンス。舞台は100年後の火星で、多様な地域から10万人が移住しているという設定。火星を支配する組織ISDA(イズダ)が、火星からの撤退を決めた直後に、超常現象が発生し、未知の力を持った謎の“物体”が出現。未知なるものと立ち向かう人々の物語が描かれる。

演出の西村武五郎は、次のように語った。

西村 テレビというものは、僕にとっては、見えない世界をいつも見せてくれるというものでした。放送100年を機に、見たことがないものをお届けしたいという思いで集まった人たちと、ようやくここまで作り上げてくることができて感無量です。
「火星の女王」では2つの見えない世界を描いています。1つは未知なる物体の発見で、その先にあるのではないか、という世界が科学パートとして描かれています。そこに菅田さん演じるISDA日本支局の若手職員・白石アオト、滝藤さん演じる新世紀出版の記者・北村などが登場します。もう1つの舞台は火星で、地球からは見えない世界です。そこに岸井ゆきのさん演じる火星の労働者チップやISDA火星副支局長のシム・ウンギョンさん演じるガレたちがいます。
これは、2つの見えない世界に立ち向かっていく、「見えないものをなきものにしない」ための戦いのドラマです。その中に、ロマンや恐怖、生活などを描いていて、そこが魅力でもあります。

西村が、今回登壇している、地球側、火星側の出演陣は、実は一緒に撮影シーンがなく、この会見で「はじめまして」みたいな状態であることを明かした。

菅田 ほぼ誰とも会ってないんですよ。

滝藤 (登壇者の中では)菅田くんとしか会ってない(笑)。

そして、ISDA日本支局長の娘・リリを演じる台湾出身の俳優スリ・リンがビデオメッセージを寄せた。リリは火星生まれで視覚障害のある女性で、白石アオトとは恋人関係にあり、本作にはオーディションで選ばれた。

リン(ビデオメッセージ) 「火星の女王」は、私が初めて1つの役のためにこんなに多くのスキルを学んだ作品です。日本語、ギター、歌、そして視覚障害に関するあらゆる知識などを学びました。とてもチャレンジングな役でした。その中でも、言語が一番難しい部分だと感じました。リリは目が見えないので、言語が彼女にとって世界とつながる主要な手段になっています。
菅田さんは、私がとても憧れている俳優です。だから初めてお会いした時は、実はとても緊張していました。でも、お忙しいにもかかわらず、私と話し合い、信頼関係を築き、息を合わせるために時間を割いてくれました。そのことには本当に感謝しています。さらに、ギターまで教えてくれました。撮影現場では言葉が通じなくても、彼はとても積極的に役について話し合おうとしてくれました。憧れている俳優さんにこんなに気にかけてもらえて、本当にうれしかったです。
制作陣は膨大な労力を注ぎ、非常に緻密な世界観を創り上げました。そして一番大切なのは、やはり人と人との絆です。とても胸が熱くなる作品だと思います。


100年後の火星の撮影は、苦労の連続

本作は100年後の火星と地球が舞台ということで、最新の映像技術を駆使した、壮大でありながら緻密で、リアリティのある映像となっている。そのため、セットやロケ地の選定などにさまざまな苦労があったという。チップ役の岸井は、「洞窟にいました」と話した。洞窟は大谷石の石切場(栃木県)で、ほかにも茨城県にある浄水場やごみ処理施設でもロケをしたという。

岸井 洞窟では日の光が入ったらいけないし、雨が降ると、火星にとって水は貴重な資源だから映しちゃいけなかったんです。

西村 水が映ったらあとで全部消していました。

また、主人公のスリ・リンをはじめ、シム・ウンギョンなど、各国出身の俳優が多数出演している。100年後の世界では、人々は自動翻訳機能を備えたデバイスを装着しており、それぞれが異なる言語で話していても、コミュニケーションが取れるという設定。撮影現場でも多言語が飛び交っていたという。

ウンギョン 日本の作品では珍しく、自分の母国語である韓国語をしゃべっていました。あと英語もです。

西村 言葉についてもみんなで話し合って、火星の共通言語は英語だけれども、プライベートの会話は母国語にしましょう、ということになりました。

菅田 撮影の記録さんが大変だったんですよ。監督が「すいません、そこのインド人の方、さっきアドリブでなんて言いました?」「フランス人の方なんて怒ってましたっけ?」みたいなことを全部書いてて、台本を見ていたら想像できたけど、これやんの大変だよなみたいな。

西村も、これだけの多言語での撮影は挑戦であり、異なる言語で話しても会話が成立するという表現は映像ならではだったと話す。

西村 VFXがもっとすごいハリウッド映画もあるんですけど、マルチ言語でそのままやり取りするのは、舞台でもなかなか難しいし、おそらく映像作品だけに許されたトライアルじゃないかなと思っています。
いろんな国の人が出てくるのは火星だから当たり前だろうという考えがあり、多言語の人たちを集めてオーディションをした時に、英語や日本語でやってみたんですけど、母国語の生き生きとした感じと全く違うんですよね。それで母国語でオッケーにしたけれど、実際にやり始めると、いつセリフが終わったかがわからなくて……。
今の“物体”っていうのは、その言語だと何という単語だった? っていうことなどがたくさん起きていました。だから、リハーサルを多めにして、通訳の方や、俳優のみなさんとセッションしながら、一つひとつアナログでやっていった、という感じでしたね。

菅田 セリフ尻がわからないんですよね。でも、不思議と途中から気にならなくなって、面白いなと思いました。


この台本をどうやって映像化するんだろう?

会見では、台本を読んだ時の感想についても質問が挙がった。

菅田 最初は、理解するのにむっちゃ時間かかりましたね。専門用語も多いし、100年後のSFで、僕らのイメージの外ものも当たり前として入ってくるので。
そういう難しいテクノロジーは置いておいて、(西村)武五郎さんがものすごくハートフルに説明をしてくれるんですよ。「このシーンは、これがレアなんです」「この美術大変なんです」みたいな。ロマンと愛がいっぱい詰まっている物語だなっていう。台本上では全部わからなかったのですが、あふれてくる熱量をすごく感じるストーリーだなと思いました。

ウンギョン 台本が伝えたいメッセージにかれました。100年後でも、人と人のつながり、それを思う心とか愛は決して変わらないなと思いました。
私が演じたガレは、火星や火星の人々のことをいつも考えながら、真面目で常に熱いものを持っている、そういう性格の持ち主というところも印象的でした。

岸井 私も台本読んだ時は、それぞれの信念やたくらみ、物語がしっかり描かれていると思いました。中でも、人々の争いっていうのは、100年前も100年後も変わらないっていうところ。あと、私は火星の労働者で、IDがない人間なんですけど、それでも存在しない人間や目を背けていい人間はいません。
そういう存在はきっと、今の世界でもあるはずだし、これは100年後の火星の世界が描かれているけど、いろんな国の人たちがそこで生きているということは変わらなくて、シムさんがおっしゃったように、手を取り合うことが、今も昔も変わらずに大切なことなんだということを感じたので、そこをちゃんと描きたいと思いましました。

滝藤 この台本をどうやって映像化するんだろうって思いました。ハイテクな方に行くのか、チープな方でも面白かったと思いますが、でも出来上がったものを見て、得体えたいの知れないドラマができたよなっていうのはとても感じました。

スリ・リンのビデオメッセージで、「(菅田から)ギターを教えてもらった」とあり、記者からは菅田にどのような感じだったかを質問した。

菅田 初めて顔合わせした時がギター練習の日で、先生といろいろやっていたので、ギターを一緒に触ったり、「せーの」で弾いてみんなで歌ったりとかはやってましたね。本当にアオトとリリーが遊んでいたであろうことをやっていたって感じですかね。
ただでさえ、日本語という言葉と、視覚障害のお芝居、ギターと歌と、いっぱいミッションがあって「すごい大変だ」と言っていましたけど、四苦八苦してるのかなと思ったら、リリちゃんが楽しそうにしてくれていたんで、これから楽しみだなっていう顔合わせでしたね。

全3回の本作では、登壇していた滝藤賢一演じる北村は2回からの登場となる。地球在住の科学ジャーナリストで、新世紀出版の記者という役どころだ。

滝藤 宇宙大好き少年がそのまま大きくなったような役で、22年前に超常現象が起こってある“物体”が見つかるのですが、とにかくそれを一番にスクープして、書きたいという情熱を持っている人です。
こんなハイテクな100年後の世界なのに、菅田くんと僕は撮影でずっと西伊豆の景色のいい山を登ってたんですよね。そういうのをドローンで撮影していました。ちっちゃく映っていて誰かわからないのもありますけど、僕たちがちゃんとやってます(笑)。

西村 デジタルで制御されている世界線だからこそ、車や空飛ぶ乗り物に乗らずに逃げなきゃいけないという。

菅田 スーパーアナログでしたね。


火星旅行に行ってみたい?

そんなアナログな撮影に挑んだ地球組の菅田、滝藤に対して、「火星旅行が実現したら行ってみたいか?」という質問が飛び出した。

菅田 行きたくないかな……。めっちゃ簡単に行けるならね。(火星に行くまで)半年どころじゃ済まないんですよね? よくわからなすぎて、行っても一体何をすればいいのか? でも興味はあります。

滝藤 役じゃなくて僕がですか? 考えたこともない。すごい時間かかりそうですよね。いいかな……。

会見の最後に、「自分が演じたキャラクター以外に、注目のキャラクターは?」と問われて多く声が挙がったのが、火星のISDA警察の捜査官・マルを演じた菅原小春だった。

菅田 菅原さんかっこよかったな。うん。チップとマルとのシーンがすごいいいね。かっこよかったです。そういえば1回プライベートで、ボクシングジムで岸井さんに会ったんです。むちゃくちゃボコボコにしている岸井さんを見ました。火星での、めちゃめちゃ強そうな2人のやり取りは個人的に好きですね。

ウンギョン 私も菅原さんのマルという役はとても印象的で、完成されたドラマを見たらその存在感に圧倒されました。今、隣にいらっしゃる岸さんのお芝居にもとても感動しまして。チップのお話にもぜひ注目してほしいなと思っています。

岸井 私はウンギョンさんのガレ。あまり言えないんですけど、最後まで見てください。ガレのことを注目して見ていただけると、面白いことが起きると思います。

滝藤 僕は菅田くんと、松尾スズキさん(宇宙鉱物学者でアオトの父・白石恵斗役)が。不思議と本当に研究している人に見えて、とってもいいシーン。

菅田 面白かったっすね。最終的に科学者が手で抱えて守るっていう。なんかそこにグッときましたけどね。松尾さんがやっているとすごく大事なものに見えるというか、「俺が地球を守ってるんだ」ということに説得力が出ていました。ぜひ観てほしいですね。

「火星の女王」の放送は12月13日(土)から全3回。スケールが大きく、そしてテンポよく展開するSF大作にぜひ触れてほしい。


【あらすじ】
それは、出会うはずのなかったものとの遭遇だった。
2125年。人類が火星に移り住んで40年、そこに“安定”という言葉は存在しない。
ISDA(イズダ/惑星間宇宙開発機関)による支配、自由に暮らしたい住民たち、火星社会は静かに揺れていた。
そんな中、“それ”は突如現れた。人知を超えた超常現象とともに。誰が創ったのか、なぜここにあるのか。そして、それは人類にとって、希望なのか、それとも――わざわいなのか。

物語の主人公は目が不自由なリリ-E1102。
火星で生まれ育ち、厳しい訓練をやり遂げ、地球行きの宇宙船に乗る決意をしていた。
それはある特別な人に会うため。白石アオト──地球で暮らすISDAの若き職員。
ふたりの間に交わされた、まだ誰にも話していない約束。でもその日、リリは運命を狂わす大事件に巻き込まれてしまう。

その事件をきっかけに動き出す“火星と地球の思惑”。その全てが、“それ”とつながっていく。

これは、未知なるものと立ち向かう人々の物語。
日本小説界の鬼才・小川哲の原作を元に、感情を繊細に紡ぐ吉田玲子が脚本を手がける。
心をえぐるほどリアルで、息をのむほど美しい本格SFドラマです。


放送100年特集ドラマ「火星の女王(全3回)

12月13日(土)放送スタート
毎週土曜 総合/BSP4K 午後10:00~11:29

NHK ONEでの同時・見逃し配信予定(ステラnetを離れます)

原作:小川哲
脚本:吉田玲子
音楽:坂東祐大、yuma yamaguchi
出演:スリ・リン、菅田将暉、シム・ウンギョン、岸井ゆきの、菅原小春、宮沢氷魚、
松尾スズキ、UA、松岡茉優、鈴木亮平、滝藤賢一
デイェミ・オカンラウォン、サンディ・チャン、宮沢りえ、吉岡秀隆 ほか
主題歌:「記憶と引力」 君島大空 坂東祐大 yuma yamaguchi feat. ディスク・マイナーズ
制作統括:渡辺悟
プロデューサー:石川慎一郎、原英輔、大久保篤、服部竜馬
演出:西村武五郎、川上剛

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