松野トキ(髙石あかり)は、幼少期に父・松野司之介(岡部たかし)が多額の借金を背負ったことで、天国町の長屋に引っ越してきた。レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)と心が通じ合って結婚し、ようやく長屋生活を脱することができた。天国町には遊郭があり、遊女のなみ(さとうほなみ)もまた、借金を背負った家族のためにここで働いていた。厳しい境遇でも強く、明るく振る舞い、トキやサワ(円井わん)を見守ってきたなみを演じているさとうほなみに、役柄への思いや、身請け話によって晴れて遊郭から出られた気持ちについて話を聞いた。
おなみ、幸せになります(笑)
──常連客だった福間さん(ヒロウエノ)から身請け話が出て、とんとん拍子で結婚へ。めでたく遊郭から卒業されました。おめでとうございます!
ありがとうございます!! 共演者からも、スタッフの皆さんからも、たくさんそう言ってもらって、本当にうれしいです!! 第3週で、“泣き叫んで抵抗するも無理やり遊郭へ連れて行かれる”という衝撃の初登場シーンから、皆さんには大変な心配をおかけしましたが……おなみ、幸せになります(笑)!
実は、「ばけばけ」の撮影が始まった当初は、なみの今後がはっきり決まっていなかったらしいんですよ。ロケ中に橋爪プロデューサーから「おなみ、どうする? どうなりたい?」と聞かれて。「そりゃあ、なみとしては、“いつか身請けしてもらって幸せになる”がいいです」と答えましたけど、「お話的には、“ずっと不幸な境遇でも明るくめげない”姿が求められているのかもなあ」とも、思っていたんです。そしたら、結果的には幸せコースだったので、余計にうれしいですね。
──身請けの話を聞いた時、最初は戸惑っていましたよね。なみはどんな心情だったと捉えていますか?
まさにセリフの通りじゃないですか。若い時に身を売られて、遊郭という場所しか知らずにこの年まできてしまった。ずっとここから出ていきたいと、強く強く願ってきたけど、いざ出られるとなると「怖さ」を感じてしまったんです。長く夢見ていたことだからこそ、実現が見えた時、その一歩を踏み出すのが怖いっていう気持ちってわかりますよね。外に出たものの、「もし自分が思い描いていたものと違っていたらどうしよう?」という不安もあると思うし。それに、ヘブン先生のラシャメンに立候補した時と違って、今度は自分の判断で決めなくちゃいけない。その責任感と現実がドシンとのしかかってきたんだろうなと思いました。
──そういえば、あの時、ヘブン先生の女中に選ばれていたら、もっと早く遊郭を出られていたわけですよね。
そうですよ〜。だから必死だったし、というか、ほとんど勢いでしたけど(笑)。「ここを出るにはこれしかない!」と思い込んでの猪突猛進。でも、錦織さん(吉沢亮)がやってきて具体的に話が進んでいきそうだった時には、やっぱり、怖さと不安を感じてしまいました。
結果的にその話がダメになった時、ベロベロに酔っ払って「だらくそ!」って、社のお狐様にめっちゃ当たってましたけど、あれは悔しさの反面、ホッとしてもいたんじゃないかな。もちろん、行き場がない悔しさをぶつけてたというほうが大きいと思いますけど、安心感の裏返しの神様への「だらくそ!」。そんなところも、なみはかわいいなって思ってます(笑)。

──だから、トキ(髙石あかり)とヘブン先生の結婚を聞いた時も、素直に祝福できたんですね。
うーん、それは、なみ元来の性格かな。2人の結婚が決まった時、トキに向かって、「私のこと、気にしないでええけんね」と声をかけるシーンがありましたけど、何か嫌なことや不安なことがあっても、すぐに前を向けるというか。割とポジティブ。なみはカラッとした性格なんだと思います。というか、そうやってずっと生きてきた。
──なみの境遇の過酷さは、「おなごが生きていくには、身を売るか、男と一緒になるしかない」というセリフにも表れていますよね。令和の時代には、なかなか強烈な言葉です。
もちろん、今だったらとんでもないことですよね。でも、当時、遊郭で働いていたら本当にそれしかないんだろうなって……。
この役をいただいた時、最初にプライベートで松江の町に足を運んでみたんです。そしたら、この遊郭があった町と武家屋敷があった地域とをつないでいる橋が、本っ当に長くて……。その日たまたま風が強かったこともあって、渡りきれる自信がなくなるくらい、長く感じたんですね。その「こっち」側に、子どもの時に否応なく連れてこられてしまったら……。その“長さ”の実感が、役作りに結びついた気がします。
つまり、なみは、「もう自力ではここを出ることはできない」ことを、嫌と言うほどわかってしまっているんですよ。それをカラッと口に出して言えるくらいには、いろいろなことを諦めてきたし、でも、諦めきれていない。その象徴のようなセリフだと思います。
なみは、“うざかわいい”
──改めて、なみを演じるにあたって心がけてきたことはなんでしょうか?
“うざかわいさ”、ですね! こんな境遇なのに明るく前向きで、サワ(円井わん)には嫌われていて冷たくあしらわれることもあるけど、だからといって決してめげない。すぐに抱きついたり、酔っ払って絡んだり、うざったいところもあるけど、憎めない。つまり、うざかわいい。
最初は、どうやってその雰囲気を出せばいいんだろう? と思いもしましたけど、ふじき(みつ彦)さんの脚本を信頼してやってきたという感じです。うまくうざかわいくできているといいんですけど。

──サワとの関係はかなり改善しているようにも見えましたが……。
そう、おなみのほうは、「仲間だと思ってる」と言ってますしね。でも、しょっちゅう逃げられてるし。何度「ちょっと待ってよ!」って言ったことか(笑)。なみは、自分はトキとサワ2人の応援団長だと思っている気がするんです。あの楼の二階から、庭にいる2人のことをよく見ていてね。だからサワのことも、本気で応援しているし、悩んでいたら声をかけずにはいられない。もっとも、人が腹の中に抱えていることなんて、表面だけではわからないことばかりのはずだけど。それでもおせっかいをしちゃうのが、なみなんだと思います。……とか言いつつ、自分はさっさと結婚してサワを置いていってしまうんですけどね(笑)。
──このあと、なみはどうなっていくのでしょうか?
福間さんと幸せに暮らします! ここまで、トキの人生はすでに波乱万丈、いろいろなことがあったのに、なみには全く変化がありませんでしたからね〜。こうして「惚れちょる」って言ってくれる人が登場してくれて、遊郭から出られて、本当によかった。だからこれからも、おなみの幸せが続くことを祈っています。
トキやサワとのわちゃわちゃした時間も好きだったし、もっとサワのことをそばで見守っていてあげたかったけど、なみが天国町に居続けるということは、ずっと不幸ってことだから、まあ仕方ないですね(笑)。