足軽から農家に転じた竹内家の長男で、一ノ瀬りん(見上愛)とは幼なじみの竹内ろう。互いに淡い思いを抱きながらも口にすることができない2人の関係性を、虎太郎役の小林虎之介はどんな気持ちで演じているのか。自前のカメラで撮影現場のスナップも撮っているほど撮影を楽しんでいる小林に、現場の様子も含めて話を聞いた。


男女の恋愛要素が絡む役柄、実は初めてなんです!

――連続テレビ小説への出演は初めてとなります。出演依頼を受けて、どんな気持ちになりましたか?

まず、びっくりしました。 朝ドラは僕ら世代はもちろん、全世代の俳優さんがいつかは出演したいと口にするようなステージ。そのうちチャンスが来たらいいな、くらいの気持ちでしたが「まさか、こんなに早く出られるとは」と驚きました。しかも、役柄を聞いたら主人公の幼なじみで、ちょっと恋愛要素も入っていて。恋愛が絡む役自体も初めての僕に「そんな役が来るんだ!?」と、改めてびっくりしました。

――その恋愛要素的な部分は、どんなふうに演じようと思いましたか? 何か準備されたんでしょうか?

準備は、特にしていないです(笑)。その場で生まれるものを大事にして演じていこうかなと。虎太郎はりんの初恋の人のような存在。だから、る人たちにキュンとなってもらいたいので、現場にいる女性スタッフさんたちに話を聞きに行きましたね。女性目線から見て虎太郎はどう映ったのか、「(今のお芝居で)大丈夫でしたか? 虎太郎にキュンとしました?」と(笑)。スタッフさんからの感想やアドバイスを聞きながら、「ほぅ」みたいな(笑)。

実際、見る人たちがどういう反応をするのか、放送を見るのが怖いです(笑)。エゴサーチをするかも(笑)。りんにとって大事な人として、温かく見守ってもらえればうれしいなと思っています。

――虎太郎は、どんな人物だと捉えましたか?

まず純粋に、根っこに優しさがある子だなと。社会が大きく変わっていく時代、彼自身も大人になっていく中で、いろいろな迷いが生じ、そこで苦しんでいる17歳なのかなという印象を持ちました。

――足軽から農民になった竹内家の息子・虎太郎と、元家老の娘であるりんは、仲が良いけれど格差も意識せざるを得ないところがありますよね?

りんと話しているとき、虎太郎自身はあまり意識していなくて。幼いころから近い存在だったし、りんと話すと、つい、いつもの感じで話してしまって周囲の大人に怒られる、という(笑)。ただ、これから物語が進むにつれて、やはり少しずつ家柄や身分の違いが気になって、自分なりに距離感を模索しながら生きていくんだろうな、ということを演じていて感じました。


何かきっかけがあったわけではなく、気づいたらりんを好きになっていた

――りんと2人で並んでいることが多いのですが、手が触れたり触れなかったりというような、物理的な距離についても意識されましたか?

そうですね。僕は相手との距離が大事だと考えていて。恋人以外の関係でも、ほんのちょっと、それこそ1センチ違うだけで関係性が変わって見えたりしますよね? りんと虎太郎でいうと、まだ恋人にはなれていない感じ、お互いに気持ちはあるけれど言えずにいる、わずかに壁がある距離感を、視聴者の皆様に見ていただければと思っています。

見上さんや監督とも潜在意識の中で距離感は共通しているので、段取り(リハーサル)の段階から「あ、この感じだよね」みたいな感覚があって、自然に芝居をしているものが“画”に映っていると思います。

――虎太郎はりんへの思いを胸に秘めていますが、彼女のどんなところを好きになったと小林さんは考えていますか?

何かしらのきっかけがあったわけではなく、ずっと一緒にいるうちに、「笑顔が素敵すてきだ」といったところから、気づいたら好きになっていたのかな、と思います。この人と結婚して家庭を築いて、という理想が自然と虎太郎の中に生まれていたのかな、と。あと、りんにはちょっと危なっかしいところもあって、守ってあげたくなる気持ちも虎太郎にはあったでしょうね。

――自分の思いを秘め続けている人物を演じることの難しさはありますか?

あります! 本当に、めっちゃくちゃ難しいんですよ! 虎太郎が自分の気持ちを言い出せない、思いを秘めている時期のシーンが多くて……。うじうじして見えないか? という心配は常に持ちながら、お芝居をしていました。カッコ悪い男に見られたくはなかったし、視聴者の方々が「虎太郎、頑張れ!」と応援したくなるような、そのさじ加減を自分の中でどう表現したらいいか、すごく悩みましたね。僕がこの朝ドラで心底悩んでいたのは、そこだけかもしれないです(笑)。


「このドラマは大丈夫だ」と感じたシーンは……

――これまでの撮影の中で、いちばん印象的だったシーンは?

僕は出演していないのですが、りんの父・しん右衛もん(北村一輝)がコロリにかかり、ひとりで納戸にこもって亡くなった時にりんが父上の手を握るシーンです。りんが悔やんで「また、間違えてしまった」と泣き崩れるシーンは、すごく衝撃を受けました。その後の虎太郎のシーン撮影を待つ間、僕はスタッフさんたちと一緒にモニター前でそのシーンのりんの姿を見ていたのですが、あまりにも素晴すばらしくて「このドラマは大丈夫だ。絶対に、いいドラマになる」と感じました。そのくらいインパクトが強いシーンでしたね。

――ご自身のシーンじゃなくて、りんのシーンなんですね。

印象に残っているというと、真っ先にそのシーンが頭に浮かびました。虎太郎が登場している場面だと、鬼怒川ロケで撮影をした、第5回の釣りをしているシーンです。虎太郎自身がずっと言えずにいた自分の気持ちを、言おうかどうしようか迷っていて……。りんが縁談の話を切り出そうとしたときに魚が釣れて、うやむやになってしまうのですが……。その直後に、虎太郎が手にけがをして、りんがハンカチを巻いてくれる。あの一連の展開は、思い出深いです。

あのハンカチは、物語としても看護の道に進む将来を暗示しているようでもあるし、そんな小さなところからりんの夢がだんだん形になっていく、最初のピースなのかもしれないと思いました。虎太郎自身としても「りんは、こんなことができるんだ」とか、「きれいなハンカチで巻いてくれた」とか、不思議な気持ちや嬉しさがあって、あのハンカチを巻いてくれたところは記憶に残っていますね。


僕ができることは、全て “画”の中に納めました

――りん役の見上愛さんには、どんな印象を持ちましたか? 

めちゃくちゃしっかりしていて、びっくりします。「風、薫る」の全体クランクインは那須地方でのロケだったんです。山中の自然豊かな場所で、キャストもスタッフも虫刺されの被害に見舞われたんですよ。すぐに、見上さんが薬を大量に手配して、みんなに配ってくれて。僕もいただいて、心の中で「姉御、あざっす!」と手を合わせました(笑)。
それは彼女自身が元々そういう人なのか、たくさんの作品に出演してきての経験からなのか……。現場での過ごし方や対応が、歴戦の勇者、修羅場をくぐってきたベテラン俳優さん、みたいに感じるんです。年相応じゃないというか(笑)。年齢を聞いて、2つ年上の僕が2年前を考えても「こんなにしっかりした同年代、ほとんどいなかったな」と思いました。

そして、会うたびに「すごく(撮影の日々が)楽しいです」と言っています。僕が「そろそろヤバく(疲労がまってきて)ない?」と言ってみても、笑顔で「いえ、全然。大変というより、すごく楽しいです」みたいな。強いな、って思いましたね。
この先りんは、看護の道に進み、専門用語なども増える医療現場のシーンが多くなりますが、「そこまでは大丈夫。でも、その先はどうなるかわかりません」とも言っていました。そういうところに年下の妹っぽいところが見えて、少し安心しています。でないと、あまりにも彼女はしっかりしすぎていて、自分が情けなくなってしまうので(笑)。

――見上さんのお芝居自体は、どういうふうに見えていますか?

彼女はとても器用で、パッとスイッチを入れられるタイプなんですよ。僕は現場に入ったところから集中したいほうで、他愛たわいもない話をするシーンなら撮影の合間でもしゃべれるんですけれど、大事なシーンの時は「ちょっと、壁に向かって集中させてください」というタイプ。でも見上さんは、そういうときでもスタッフさんと喋っていたり、子役さんと遊んでいたりする。それなのに「本番」の声がかかったら、コロッとりんに変わります。ずっと集中しておかないとチンプンカンプンな芝居をしてしまう僕は、瞬時に切り替えられる彼女が羨ましいですね。

――最後に「風、薫る」をご覧の方たちにメッセージをお願いします。

僕にとっては初めての朝ドラです。たくさんの人に見ていただけるという緊張感を保ちつつ、いい作品にしたいと願いながら撮影に臨みました。僕にできることは全部“画”の中に収めましたので、引き続き放送を楽しみにご覧いただければ、と思います。