直美(上坂樹里)と吾郎(甲斐翔真)は子どもを授かった。2人にとって、それは最高の喜びでもあったが、直美は夫が出征する日が遠くないことも感じていた。ようやく幸せな家族を手に入れ、温かい時間に包まれた直美はどんな思いだったのだろうか。演じる上坂樹里に話を聞いた。


直美が素で笑っているのは、唯一吾郎さんとのシーン

――いよいよ直美も母親になりますね。

妊婦さんの役は初めてだったので、母に「妊娠中はどんな感じだったの?」と聞いたりして、参考にしました。おなかが大きくなると衣装で足元が見えなくなったり、いつものようには動けなかったり。一番驚いたのは、自然とお腹に手を添えるようになって……自分の中に母性が芽生えてきたのか、初めての感覚でびっくりしました。

これまで、自分より上の年代の役を演じたことがなかったのですが、今回は直美を通して、未知の世界を体験させていただいているような感覚があります。台本には役名の横に俳優の名前が書かれていますが、「大家直美 上坂樹里」だったのが「小川直美 上坂樹里」に変わったときは、なんだか感動してしまいました。

一ノ瀬家の家族として迎えてもらい、吾郎さんとは本当の家族になって、お腹も大きくなっていく。その中で、幸せな気持ちや生まれてくる赤ちゃんを思う気持ちを感じることができました。直美と一緒に人生を歩んでいるような、とても貴重な経験をさせていただいています。

――直美にとって、小川吾郎はどのような存在なのでしょうか。

吾郎さんの前では、直美はつい笑ってしまいます。自然とやわらかい表情になっているようです。監督から「直美が素で笑っているのは、唯一吾郎さんとのシーン」と指摘されて、自分でも驚きました。吾郎さんの存在がいかに大きいものか、実感しました。

――演じられる甲斐翔真さんに感じることは?

帝都医大病院に吾郎さんの友人が入院していた回(6月24日放送 第13週63回)で、甲斐さんは軍人の言葉遣いを先生にご指導いただいていました。自分のセリフを一生懸命練習されているのが印象に残っています。役作りに打ち込まれている姿は、誰よりもまっすぐで誠実な小川吾郎という人と重なる部分がありました。どこか放っておけない魅力も含めて、役とご本人が通じ合っているように感じました。

吾郎さんは「大食いキャラ」という設定なので、おだんを食べるシーンでは4本用意されるんです。蒸しパンを頬張るシーンでは、甲斐さんはリハーサルのとき、ご自分でパンを買ってこられていました。口いっぱいにそのパンを入れて何を言っているのか分からないような状態で……その一生懸命さに笑いをこらえられなくなるほどでした。そんな風に役にまっすぐに向き合われる方です。

吾郎さんのキャラはスタッフのなかでも人気なのですが、それは甲斐さんが演じられているからこそのオーラや魅力があるからだと思います。

――結婚式も素敵すてきなシーンでしたね。

久しぶりに看護学校のみんなと再会できて、同窓会のような雰囲気の中で撮影をしました。あの撮影は本当に楽しかったです。吉江先生(原田泰造)も駆けつけてくださいましたが、最初の台本には吉江先生の名前はなかったんです。原田さんのクランクアップは結婚式撮影の前だったので私も残念に思っていたところ、原田さんから「直美の結婚式、行けるようになったよ!」と言われてびっくり。台本に吉江先生のシーンを追加していただいたようで、すごくうれしかったです。

――原田さんとは「生理のおじさんとその娘」(2023年)で、親子役で共演されていましたが、今回の役どころはいかがでしたか?

吉江先生と直美は、血はつながっていませんが親子のような空気感でした。前作もあってすごく縁を感じていますし、安心感も大きかったです。吉江先生との撮影は時間を空けて何回かに分かれていたのですが、久しぶりにお会いするたびに「ちゃんとご飯食べてる?」「睡眠時間足りてる?」と心配してくださって、その温かさにいつも救われていました。


いつのまにか「直美」として台本を読んでいる

――大家直美を演じられて、強く感じていることは?

最初に台本をいただいたとき、自分の目線で読んでいたのですが、途中から大家直美として台本を読んでいたんです。どんどん直美がいとおしくなるし、台本に書かれているシーンについて「こう演じなければ」と考えるよりも、自然に表情が出るようになって。そんな感覚は初めての経験です。

――“朝ドラ”の主人公を演じることについて、改めて感じていることはありますか?

私のSNSは「風、薫る」以外のお仕事の話も投稿していますが、別のお仕事のポストにもコメントで「直美さん」と書いてくださる方が増えてきて……。“朝ドラ”は私の夢でもあったので、作品が皆さんに愛されているんだなと、とてもありがたく感じています。放送時間の朝8時は、スタジオで収録前の支度時間になっていることが多いのですが、スタッフさんと一緒に放送を見て、自分が“朝ドラ”に携わっているんだな、としみじみ感動しています(笑)

――今後の直美については?

吾郎さんとの幸せな時間を過ごしながらも、少しずつ戦争の影が日常に入り込んできています。これから母になる直美が何を思い、どんな選択をしていくのか。時代に翻弄されながらも、自分の信念を貫こうとする直美の姿を、ぜひ見守っていただけたらうれしいです。