「美術館に行きたいけれど、なかなか時間がない」。
そんな人でも、毎日数分で作品に出会える仕組みがあったら――。

NHK財団が開発した「ひめくりアートミュージアム」は、各館が蓄積してきたデジタルアーカイブの作品を活用し、1日3作品を日替わりで紹介するバーチャルミュージアムです。
検索する前にまず作品と出会う。そんな新しい鑑賞体験を通じて、アートをもっと身近にする取り組みをご紹介します。


「探す」前に、「出会う」

美術館を訪れる楽しみの1つは、知らなかった作品との偶然の出会いです。
展示室を歩いていて、ふと気になった作品の前で立ち止まる。そんな体験は、必ずしも事前に作品名や作者を知っているから生まれるわけではありません。
一方、多くのデジタルアーカイブは検索が中心です。目的の作品が決まっていれば便利ですが、何を見ればよいか分からない人にとっては、最初の一歩が難しいこともあります。

そこで「ひめくりアートミュージアム」が大切にしたのは、検索する前に作品と出会えることでした。

画面に表示されるのは、「今日(Today)」「昨日(Yesterday)」「一昨日(Before Yesterday)」の3作品です。利用者は検索キーワードを入力する必要はありません。まず作品を眺め、気になる1作を選ぶところから鑑賞が始まります。
作品は毎日更新されます。

「今日はどんな作品だろう」そんな小さな期待が、再び訪れるきっかけになります。

「ひめくりアートミュージアム」の「今日(Today)」「昨日(Yesterday)」「一昨日(Before Yesterday)」と「展示情報(Information)」の画面イメージ

数分で楽しむ、新しいミュージアム体験

美術鑑賞というと、まとまった時間を確保してじっくり作品を見るイメージがあります。もちろん、それも大切な楽しみ方です。しかし、アートとの関わり方はそれだけではありません。

通勤の数分間、昼休み、家事の合間、就寝前。日常のちょっとした時間に1作品だけを眺める。すぐに詳しく理解できなくても、色や構図、描かれている人物や風景が心に残ることがあります。
翌日また別の作品を見ることで、新たな発見が生まれるかもしれません。

「ひめくりアートミュージアム」が目指したのは、一度に多くの作品を見せることではなく、無理なく続けられる鑑賞体験です。
毎日の暮らしの中に、少しだけアートの時間をつくる。そんな新しいデジタルミュージアムの形を提案しています。


ブラウザですぐに楽しめる

利用できるのは、スマートフォンやパソコンのWebブラウザです。専用アプリのインストールは必要ありません。リンクを開けば、すぐに作品を楽しめます。

目指したのは機能の多さより分かりやすさです。

作品を選び、拡大して見たり、解説を読んだり聞いたりする。基本操作はそれだけです。使い慣れた画面で迷うことなく楽しめます。


PC端末での作品拡大提示

「見る」「読む」「聞く」から選ぶ

作品の楽しみ方は人それぞれです。
そこで「ひめくりアートミュージアム」では、作品画像の拡大表示に加えて、字幕表示とAI合成音声による読み上げ解説を用意しました。

アナウンサーの口調を学習した AI合成音声技術を活用しています。作品の説明を聞き取りやすい音声で聞く、字幕で読む、そして画像を拡大して見る。利用者は自分に合った方法で作品を楽しめます。

例えば、移動中は音声解説、静かな場所では字幕、自宅では作品を拡大して細部を鑑賞するなど、状況に応じた使い分けが可能です。
こうした機能は一部の利用者だけのための特別な機能ではなく、誰もが最初から利用できる標準機能として組み込みました。


公開が終わった作品は、アーカイブへ

日替わりで紹介された作品は、公開後にアーカイブへ移ります。まずは偶然の出会いを楽しみ、気になった作品は後から見返す。そんなシンプルな流れを重視しました。 アーカイブは単なる保存庫ではありません。

「以前見た作品をもう一度見たい」という思いに応え、利用者と作品、所蔵館とのつながりを維持する役割も担っています。


続けられる仕組みを目指して

このシステムは、ユーザー側だけでなく、運営する美術館や博物館にとっても負担が少ないことを目指しました。
全国各地にある美術館や博物館など施設のすべてが、十分な予算や専門スタッフを確保できるとは限りません。
そこで一度に多数の作品を更新するのではなく、1日3作品という小さな単位で引用する仕組みとしました。利用者にとっては選びやすく、運営側にとっては無理なく続けやすい。その両立が目標です。

また、美術館や博物館で公開される展示の背景には、学芸員による調査研究があります。作品の来歴を調べたり、時代背景を読み解いたり、新たな視点から資料の価値を見出したりする研究は、展示や図録を支える大切な活動です。
しかし、その活動成果が一般の来館者や館外の人々に広く届く機会は決して多くありません。展示期間が終われば目に触れる機会は限られ、研究成果の一部は専門的な報告書や学会発表にとどまることもあります。

「ひめくりアートミュージアム」は、そうした学芸員の知見を日常の中で届ける新たな発信の場にもなります。日替わりで紹介される作品に、学芸員ならではの視点や発見を添えることで、利用者は作品そのものだけでなく、その背景にある物語や研究成果にも触れることができます。

1日3作品という小さな単位だからこそ、一つひとつの作品に丁寧に向き合うことができます。展示室では伝えきれなかった研究成果を届け、利用者と学芸員をつなぐ新しいコミュニケーションの場としての役割も担います。


災害の記憶を伝える38作品からスタート

2026年9月1日(火)から9月27日(日)まで東京・日本橋で開催される、企画展「災害の記憶をもういちど―風刺画に見る災害と暮らし」展。その企画展に関連する38作品を、トライアルとして「ひめくりアートミュージアム」でご紹介しています。(2026年8月27日から10月4日まで実施)。一部には動画資料も含まれます。
HIMEKURI Art Museum Trial ※ステラnetを離れます

トライアル期間中は、NHK財団の配信プラットフォーム「ステラnet」に専用リンクを設け、スマートフォンやパソコンからアクセスできるようにします。企画展の会場内にも体験コーナーを設置し、実際の展示とデジタル上の鑑賞を行き来できる環境を整えます。

NHK財団では、2023年に図録「伝える災害の記憶」に掲載された災害史料のデジタル化に取り組み、オンライン上のデジタルミュージアムや8K高精細鑑賞システム、AI合成音声による解説と翻刻文の読み上げなどへ展開してきました。

世界初のAI合成音声と高精細画像により、VR空間でよみがえる「災害の記憶」 | ステラnet

災害の記憶 デジタルミュージアム | UNPEL GALLERY ※ステラnetを離れます

今回のトライアルは、そうした経験を基礎にしながら、より日常的で継続しやすい鑑賞体験を目指す新たな試みです。スマートフォンを開くたびに、その日だけの作品と出会う。そんな小さな習慣が、美術館や博物館、そして文化資源との距離を少し近づけてくれるかもしれません。

「今日はどんな作品だろう」

その期待とともに、ぜひ体験してみてください。


※本トライアルの詳細は、第11回デジタルアーカイブ学会研究大会(2026.11.7-8)にて報告予定

第11回研究大会概要 | デジタルアーカイブ学会 研究大会 ※ステラnetを離れます

「ひめくりアートミュージアム」トライアル概要

実施期間
2026年8月27日(木)から10月4日(日)
関連企画展
「災害の記憶をもういちど―風刺画に見る災害と暮らし」展
「伝える―災害の記憶」「災害の記憶をもういちど」展 | UNPEL GALLERY (ステラnetを離れます)
企画展会期
2026年9月1日(火)から9月27日(日)
紹介作品
38作品(一部に動画資料を含む)
閲覧方法
スマートフォン、タブレット、パソコンなどの標準Webブラウザ
告知・入口
NHK財団「ステラnet」
企画・開発
NHK財団
協力
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社

(文 NHK財団 社会貢献・開発推進室 石井啓二/木村与志子)