今年の夏は、熊本県で発生した最大震度7の地震をはじめ、千葉県や北陸地方で相次いだ大雨など、各地で自然災害が続きました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
災害が起きたとき、大切な家族であるペットをどう守るのか――。
8月29日、岡山市のルネスホールで、防災ワークショップ「災害からペットを守る」(主催:日本動物愛護協会、企画運営:NHK財団)が開催されました。

7回目となる今回は、2018年の西日本豪雨で大きな被害を受けた岡山県倉敷市真備町の事例を振り返りながら、NPO法人ANICE(人と動物の防災を考える市民ネットワーク)代表の平井潤子さんとともに、ペットとの避難について考えました。

安全な「マイカー避難」のために
災害時の避難先として選択肢のひとつとなるのがマイカーです。しかし、限られた車内空間で人とペットが何日も過ごすことは、ストレスの蓄積やエコノミー症候群の発症など、心身への負担が懸念されます。

7月28日に起きた熊本地震の被災地では、35度を超える猛暑の中、マイカーで過ごす人やペットの「暑さ対策」が課題になりました。支援活動にあたったANICE代表の平井さんは、当時の状況をこう振り返ります。
「連日の猛暑で車のエアコンを付けっぱなしにせざるを得ず、短時間でガソリンが消費されてしまうのです」
平井さんは、マイカー避難を行う際のポイントとして次のような点を挙げました。

マイカー避難の注意点の中でも、平井さんが強調したのは「車の室温管理」です。「強い日差しの下に車を停めると、車内温度は短時間で上昇します。できるだけ日陰に停め、窓をサンシェードで覆うなど、室温を上げない工夫をしてください」

さらに平井さんが紹介したのは、キャンプ用品として知られる「タープ」と呼ばれる日よけ用具です。

「もとはキャンプ用品ですが、こうした用具を使うことで、エアコンの効きが良くなり、ガソリンを節約することができます。災害に備えて持っておくと、いざという時、役に立ちます」。
肉球のヤケドに注意

もうひとつ、平井さんが注意点として挙げたのが、車から犬を散歩に連れ出す時の「アスファルトの温度」です。

「犬の散歩はできるだけ早朝に。朝7時を過ぎると油断はできません。散歩に出る前に、まず飼い主が手のひらでアスファルトを触り、熱くないか確認してから散歩に連れ出すようにしてください」
人が暑さを感じる以上に、地面に近い場所を歩く犬たちは高温環境にさらされます。熱中症対策としても、散歩時間の見直しが重要です。
※日本獣医師会「災害時にペットと車中泊される皆さまへ」(ステラnetを離れます)
愛犬とともに乗り切った車中泊避難

ワークショップでは、実際にマイカー避難を経験した人の事例も紹介されました。
倉敷市真備町に住む野田俊明さんは、2018年の西日本豪雨で自宅が床上浸水しました。水が迫る中、野田さんはマイカーに妻と愛犬を乗せて近くの公園へ避難し、2日間、車中泊しました。

「私は釣りやキャンプが趣味で、車の中で寝泊まりしたり、食事の準備をしたりしやすいように、DIYで車内をアレンジしていました。そのおかげで、西日本豪雨のときも、大きな不自由なく過ごせました」


野田さんの軽ワンボックス車には、数々のアレンジがあります。
組み立て式のテーブルを荷室に組み付けたり、小型のガスコンロや調理器具、水や米、調味料、防災用品を収められる棚を設えたり、車を拠点に短期間の避難生活が出来るよう、創意工夫が凝らされています。

「アイデア次第で、車は災害時の避難場所として使いやすくなります。DIYなら数万円の費用でこうしたアレンジができます。犬を連れて避難所のお世話になることを考えると、短期間ならクルマで過ごす方が『気が楽』です。大切なのは、ふだんからキャンプなどを通じて、人も犬も車中泊に慣れておくことだと思います」
自宅で過ごす「在宅避難」という選択

災害時、自宅に大きな被害がない場合には、「在宅避難」という方法もあります。

倉敷市真備町の冨永昌宏さんは、西日本豪雨の際、住宅の浸水被害はありませんでしたが、電気と水道が止まり、自宅で生活しながら避難所に通う日々を送りました。

「私の場合、住宅が水に浸かるなどの被害はなかったので、当初、避難所に通って物資を補給して良いものか迷いました。ですが、電気も水も止まり、食べ物もなく、風呂にも入れない状態では、自分も被災者なのだと気づき、定期的に避難所に通うようになりました。避難所には、犬や猫の一時預かりを案内する貼り紙があったり、獣医さんが巡回に来て無料で相談に乗ってくれたり、すごく助かりました」

「猫たちは環境の変化に適応しづらいので、猫たちにとっても在宅避難ができたのは良かったと思います。私は、いつ電気や水が復旧するのか、気が気ではありませんでしたが、猫たちはふだんどおり落ち着いていて、その姿に救われました」
在宅避難でも避難所には足を運んで

ワークショップのアドバイザーを務めるNPO法人・ANICE(人と動物の防災を考える市民ネットワーク)代表の平井潤子さんは、在宅避難を選んだ場合でも、定期的に避難所を訪れる重要性を強調しました。
避難所は、獣医師の巡回診療情報や、ペットの一時預かり先に関する情報、飼い主同士の情報交換など、多くの支援情報が集まる拠点でもあります。


「在宅避難をする人の中には『自分は住宅に被害を受けていないから』と避難所で食料や物資を補給することを遠慮する人がいます。避難所に避難している人の中にも『家が無事だった人が物資の補給に来るなんて』と眉をひそめる人もいます。けれども、在宅避難している人も被災者であることに変わりはありません。避難所は生活必需品だけでなく、獣医さんの巡回診療のスケジュールがわかったり、ペットの一時預かりの情報が掲示されたり、大事な情報が集まる場所になります。飼い主同士が情報交換したり、悩みを相談し合ったり出来る『サロンの役割』も果たしますので、在宅避難の人も定期的に避難所を訪ねるようにしてください」

“飼い主力”と“防災力”を磨く
ワークショップの結びに、平井さんは、会場に集まった飼い主の皆さんに「飼い主力と防災力を磨いてください」と呼びかけました。
「まず、飼い主が自分自身の命を守ること。そうしないとペットたちは路頭に迷ってしまいます。災害への『日頃からの備え』も、改めて確認しておきましょう。住まいの耐震補強に努め、好みのペットフードやおやつは余裕を持って『1か月分を目安』にローリングストックする。犬や猫をケージに慣らし、複数の避難先や預け先を探しておく。こうした『平時のうちに出来ること』を実践してください」


11月23日、東京で開催!
次の災害が、日本列島のどこで、いつ起きるか、わかりません。南海トラフ巨大地震のような大規模災害が起きれば、誰もが被災者になり、広域支援も難しく、「公助」が十分に機能しない事態も起こり得ます。 災害は「いつも違う顔をしてやって来る」と言われています。想定を超える事態が起きることを念頭に、平時のうちに、できる限りの準備を済ませておいてください。

次回の防災ワークショップ「災害からペットを守る」は、2026年11月23日(祝)午後1時から、東京・江東区の「TFTホール500」(東京ファッションタウンビル西館2階)で開催します。
日本動物愛護協会が主催する「ずっといっしょ!スマイルフェスタ」(11/22-23)の催しのひとつとして、第1部「避難シミュレーション」、第2部「チコちゃんと学ぶ防災クイズショー」を予定。ゲスト回答者として片桐仁さんを迎え、会場の皆さんと一緒に災害への備えを学びます。入場は無料です。ぜひ、お越しください。
※日本動物愛護協会「ずっといっしょ!スマイルフェスタ」(ステラnetを離れます)
取材・文/NHK財団(委託)プロデューサー 星野豊