初めてのミュージカル『怪傑アンパンマン』は大成功。試行錯誤、紆余うよきょくせつ……ありましたが、アンパンマンは子どもたちの心をとらえたようです。のぶ(今田美桜)も嵩(北村匠海)もほっとしたことでしょう。今週は中国で亡くなった岩男(濱尾ノリタカ)の息子・和明(濱尾・二役)が嵩を訪ねてきて、父の死の真相を聞きました。
戦争・命・正義……今週も嵩が少しずつ語っています。

もちろんネタバレですのでご承知おきください。


「知ってる人しか知らないアンパンマンですが……もっと遠くへ飛べるはずです」

絵本『あんぱんまん』は世に出たものの、編集者からは全く評価されなかった。
しかし八木(妻夫木聡)はあることに気づく。
「ここに来る子どもたちの中にはアンパンマンを一目見て気に入る子がいる。俺が見る限り、就学前の幼い子どもたちばかりだ」
まだ字が読めない子どもたちのために、のぶは絵を見せながらの読み聞かせを続けることにした。

『詩とメルヘン』は1年で多くの読者に愛されるようになり、嵩はさらに新しい雑誌『いちごえほん』の編集長も引き受けた。
(実際『いちごえほん』はやなせたかしさんの責任編集で“ジュニア詩とメルヘン”として1975年1月に創刊されました)
八木は『詩とメルヘン』でアンパンマンの連載を始めてみたら? と提案する。
「読者層をもっと広げておかないとキャラクターは生き残れない」
蘭子(河合優実)が「商業主義の経営者らしいご意見ですね」とチクリ。
八木「夢を育てるためには戦略も必要だ」

帰ってきた嵩からその話を聞いて、のぶは大喜び。
「たまるかぁ、ほんまに?」
ますます忙しくなる嵩を羽多子(江口のりこ)は心配するが……。
嵩「今度出す『いちごえほん』は子どもと子どもの心を持った大人のための絵本なんです。大人は昔、子どもだったし、子どもはすぐ大人になる。心の中はおんなじですから」
のぶ「『いちごえほん』も『アンパンマン』の連載も楽しみやなぁ」

嵩は徹夜で連載を描いている。
「ヤルセ・ナカス」という売れない漫画家が主人公。
全然売れない“あんぱんまん”を、たったひとり、女性編集記者が応援している。その記者、ミルカはお土産であんぱんを買ってきて、もっと描いてくれと励ます、というストーリーだ。

昭和50年正月、キューリオから『いちごえほん』 が創刊された。
相変わらずのぶは読み聞かせをしていて、嵩はひたすら『怪傑アンパンマン』の連載を描き続けた。
しかし……あまり話題にならないまま最終回となった。

ある日、たくや(大森元貴)が嵩の家を訪ねてきた。小劇場付きの自社ビルを建てたという。
たくや「実はお願いがあって来ました。『怪傑アンパンマン』ミュージカルにしてみませんか?」
のぶとメイコ(原菜乃華)は「たまるかぁ~」
こうして大人も子どもも楽しめるミュージカルを作ることになった。

しかし、嵩は雑誌の編集などで忙しくて打合せにも出られない。
代わりにのぶがコンセプトを説明する。
「アンパンマンは、おなかをすかせた人たちのところへ行って自分の顔を食べさせるんです。だから帰りは顔のない情けない姿でよろよろ飛びます……知ってる人しか知らないアンパンマンですが、皆さんのお力を貸してください。今はよろよろ飛んでいますが、アンパンマンはもっと遠くへ飛べるはずです。よろしくお願いします」
と、のぶは頭を下げた。


「なぜ父は殺されなければならなかったんですか」

「それが戦争なんだよ」

蘭子は戦争体験者の取材を続けていた。
粕谷(田中俊介)と八木にも話を聞きたい、と願い出るが……八木は「勘弁してくれ」と席を立ってしまう。

と、そこに一人の青年が、嵩を訪ねてくる。長髪の青年の顔は……あの岩男そっくりで……。

リハーサルしている嵩のもとに、来客を知らせる電話が来て、のぶとともに急いでキューリオの事務所に向かうと……青年は田川和明、と名乗った。死んだ岩男の息子だった。
父のことを聞きたい、と訪ねてきたのだ。

和明は“自分には息子がいるが、どう接していいかわからない、それは父の記憶がないからではないか”と。
「だから、少しでもいいから父親のことを知りたいんです」
母からは“父は交戦による名誉の戦死をした”と聞いているという。
聞いている嵩と八木の表情が次第にこわばってくる。
和明「父は、なぜ死んだんですか?」

ついに八木が話し出す。
「君のお父さんの命を奪ったのは小さな少年だ。その子は中国人のみなしごだった……」
そして当時のことを回想しながら話し出した。岩男が死んだ真実を……。
八木「少年は父親の形見の銃でかたきを討ち、その直後に泣いていた。“イワオさんはぼくのやさしい先生でした”と……(その少年は)私が逃がした」
嵩「それが岩男の望みだったんだ。最期まで岩男はその子のことをかばい続けて、息を引き取った。戦争さえなかったら、2人は誰よりも心を許しあえていたはずだ」
和明「なぜですか。なぜ父はその少年をかばい続けたんですか。なぜ父は殺されなければならなかったんですか」
嵩「それが戦争なんだよ」

一人肩を落として帰っていく長髪の青年をのぶは追いかける。
そして絵本『あんぱんまん』を手渡すのだった。
「よかったら、お子さんと読んでみてください」

夜、ベランダに出て外を見る嵩。のぶも出てきて……「眠れんが?」
のぶ「嵩さんはずっと心の奥に閉じ込めてきたがやね」
そして和明に絵本を渡したことを話すのだった。


「私はアンパンマンがもっと多くの人に愛されるって信じてます。本気です」

ミュージカルの制作が進んでいた。
NHKを定年退職していた健太郎(高橋文哉)も手伝うことになった。
衣装はのぶとメイコが担当だ。

アンパンマンを演じるのは浜辺ヒラメ(浜野謙太)。
演出はマノ・ゴロー(伊礼彼方)。
嵩は……というと、マノに演出の話をしたと思ったら、そのまま八木の事務所に駆け付け今度は編集の打ち合わせだ。

たくやは、のぶに「怪傑アンパンマンのテーマ」を聞かせてみせる。
♪しらないひとは しらないが ♪しってるひとなら しっている
当たり前ですね、と笑うたくや。好きな歌詞は「ぼくのいのちがおわるとき ちがういのちが また生きる」

のぶ「例えば、戦争で心に傷を負った人、戦争で大切な人を失った人たちが、それでも人生捨てたものじゃないって思えるような、少しだけでもいいので、心が軽くなるような、そんなミュージカルにしてほしいです」

練習の帰り、ミュージカルのチケットが売れていないことをのぶは聞いてしまった。
なんとかしたいのぶは、お茶の教室の生徒たちにミュージカルのチラシを配ってみるが……。

初日は迫っていた。
思い立ったのぶは蘭子と2人、屋村(阿部サダヲ)の働いているパン工場を訪ねた。
「力を貸してください!」と頭を下げる。
屋村「断る……どうせアレだろ?『嵩さんのためにあんぱん焼いてください』だろ?」
のぶ「どういていきなり正解ゆうがよ」
あしたのミュージカルのために、あんぱんを焼いてほしい、と頼むが……
屋村「俺は年寄りのバイトなんだからなっ」と断わられてしまった。

のぶ、メイコ、羽多子、蘭子……それぞれ必死でチラシを配った。
読み聞かせをしている子どもたち、行きつけの喫茶店、駅前でも。

さて、ミュージカル『怪傑アンパンマン』の初日。
客席には空席が目立つ。
たくやもマノも楽屋で頭を抱えていた。
そこでみんなを集めて嵩が言う。
「困っているとき、苦しい時こそ、人を喜ばせることをしよう、というのがぼくの座右の銘なんです。と言っても、今思いついたんですけど。10人のお客さんを精一杯せいいっぱい喜ばせましょう」

そこに訪ねてきたのはお茶の教室の生徒、中尾星子(古川琴音)。
席を埋めるために来てくれたのね、とねぎらおうとするのぶに
「私は……アンパンマンが大好きで……私はアンパンマンがもっと多くの人に愛されるって信じてます。本気です」
そこへ……読み聞かせをしている子どもたちが来てくれた。それも大勢!みんなで。
客席は子どもたちでいっぱいになり、大喜びののぶ、驚くたくや。
岩男の息子、和明も子どもを連れてやってきた。
そしてミュージカルが始まった。
※北村匠海 振り返りインタビュー


「ヤムさん、ありがとうございます。生きててくれて」

金曜日はアンパンマン登場のシーンから。
(すぐ顔を食べられて“かおなし”になっちゃいましたね)
そして戦争を思わせる爆音。
浜野(アンパンマン)「さあ、子どもたちよ、たべてくれ。おなかいっぱいたべなさい!」
そこでたくやが作曲した「怪傑アンパンマンのテーマ」が歌われる。
舞台の上にはなぜかメイコもいて、歌って踊っている。これには客席の羽多子もびっくり。
子どもたちも笑顔だ。
最後は大きな拍手に包まれた。

そこに、屋村が現れ、“アンパンマンの顔をしたあんぱん”をたくさん持ってやってきた。
子どもたちに一人一個、配っている。
大口注文してくれたのは八木だった。あきれる社員たちに
「やないたかしのアンパンマンが持つやさしさは、うちの会社理念とも合ってるだろう。化ける前の先行投資だよ」

屋村と嵩の再会。嵩が抱きつく。
「お前らしい作品だからいいんじゃねぇか?」と屋村が感想を言うと、
嵩「どのへんが?」
屋村「あれ読んでわかったよ。お前も戦争行ったんだな。戦争は腹が減るからな」
嵩「おなかをすかせた人に、あんぱんを届ける。敵も味方も関係ない。どっちが正義かも、どっちが悪かも関係なく、ただ、パンを届ける。これがぼくの思うヒーローなんです」
屋村「俺はな、倒れてる兵隊のポケットから乾パンを奪って、それを食いあさって生き延びたんだよ。俺は自分がずっと情けねぇやつだと思ってきた。あの時アンパンマンがいてくれりゃあなぁ」
嵩「ヤムさん、ありがとうございます。生きててくれて。そうやって生きててくれたおかげで、あなたは今、ぼくの隣にいます」

屋村「しかし、線路で寝てたお前が、立派になったもんだな。飢えた人を救うヒーローをつくり出すんだからな。な、絵本のアンパンマン、顔がまん丸い、あれ、誰かに似てねぇか」
嵩「あの丸い顔は、千尋を思い出して描きました……小さい頃の千尋(平山正剛)です」
屋村「あ~、そうか」
舞台に2人で腰かけて話すのだった。

和明とその子どもを追いかけるのぶ。
「観に来てくださったんですね」
息子がどうしても行くんだ、というので連れてきたという。

そこに嵩がやってくる。
和明「面白かったです。息子も大喜びで……私は、今日の舞台をみて、柳井さんがこの作品に込めたやさしさのようなものを受け取りました。そして、戦場で父が少年に抱いた感情も、少しだけわかっていけるような気がするんです。私が小さいころ、高知の父の墓に、よく花が供えてあったんです、あれは柳井さんでしょうか?」
やっぱりそうだった、と礼を言う和明。
またね、と手を振って息子と一緒に帰っていった。


アンパンマンが次第に幼い子どもたちの人気を集め始め……最終週のタイトルは「愛と勇気だけが友達さ」。『アンパンマンのマーチ』ですね。
そして、予告にはアニメのアフレコのような映像もちらっと見えましたね。いよいよアニメシリーズもスタートしそうです。病床にいるのぶの姿も。
「あんぱん」も残すところあと1週間。どんなエンディングを迎えるのでしょうか?
ほいたらね。