2024年の北海道日本ハムファイターズの躍進は野球界を大いに盛り上げました。3年目の新庄剛志監督の推進力によるものです。でも新庄監督といえば焼き付いているシーンは交流戦の阪神戦での“あの事件”です。

5月29日の甲子園球場、試合前のメンバーの確認で阪神・岡田彰布監督の目の前に立ったのは、同じたてじまで新人時代の背番号63と「新庄監督」の文字が入ったユニホーム姿の新庄監督でした。何事にも動じない岡田監督すらビックリの表情、スタンドは笑いと大歓声。このパフォーマンスが物議を醸しました。新庄といえば野球界のエンターテイナーです。並外れた運動能力と発想、サービス精神で数々の名場面を作り出してきました。

阪神時代は巨人戦で槙原寛己の敬遠球をサヨナラヒットにしたり、オールスターではホームスチールを決めたり、大リーグから北海道日本ハムに戻って日本一を達成する頃には、ピンチに外野陣の稲葉篤、森本稀哲と共にセンターに集まってグラブを頭の上に乗せて思案するさまを演じたり、野球を楽しませることにかけては枚挙にいとまがありません。

そして甲子園の“タテジマ事件”でした。野球協約では「試合に着用するユニホームには、統制された背番号を用い、胸章及び腕章は、コミッショナーにより承認されたもの以外の文字又は標識を用いてはならない。」とあり、日本野球機構側からは警告を受けるというアウトの行為でした。甲子園で元在籍して愛してもらったファンへの恩返しの気持ちはよく分かりますが、ルールが重要なスポーツの世界のこと、私には違和感がありました。

そして思い出すのはソフトバンクの監督を務めていた頃の王貞治さんが、ファンサービスのレジェンドユニホーム企画で前身の南海ホークスバージョンを着用して試合をする日、かつて巨人と日本シリーズを戦った相手の象徴に袖を通すのに納得するまでしばらく時間がかかったというエピソードです。“タテジマ事件”はユニホームの重さを改めて考えさせられた出来事でした。

(おのづか・やすゆき 第1金曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年1月号に掲載されたものです。

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