松野トキ(髙石あかり)の生みの親である雨清水タエ(北川景子)。松江随一の名家の生まれだが、明治維新の荒波によって家は没落し、夫・雨清水傳(堤真一)にも先立たれ、生きるために物乞いになった。その姿を目の当たりにしたトキは、レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の女中になることで、陰ながら雨清水家を経済的に支えることを決意。昨年末の放送では、タエから武家の娘のたしなみとして生け花などを学び、心を通わせあう様子が描かれた。そんなタエを演じている北川景子に、どのような気持ちでタエを演じてきたか、そして、14週の最後にトキとヘブン、松野家、雨清水家が隠し事のない家族になった名場面について話を聞いた。
内心、かなり複雑な心境ではあった
──タエは、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の結婚をどう思っていると思いますか? フミ(池脇千鶴)と司之介(岡部たかし)から報告を受けた時の心情から、お聞かせください。
にわかには信じられなかったでしょうね。この町に“異人”が来ていることは、噂などで耳に入ってはいたでしょうが、物騒な世の中になったなと思ったくらいで、自分とは関わりがないと思っていたと思います。それなのに、まさか自分が産んだ娘の結婚相手になるだなんて、まさに青天の霹靂です。
しかし、松野家に出したトキの育て方や将来に関わる大事な決定は、基本的にフミさんや司之介さんに任せると決めています。そこでごちゃごちゃ口を出すのはタエらしくありません。言いたいことがあっても、割り切って受け入れた、と思っています。
──本音ではトキが外国人と結婚することは心配だったのでしょうか?
それはそうでしょう。トキは、タエにとって唯一の“娘”。大切な存在です。当時の価値観や世間の目を考えると、苦労することは目に見えているわけですから……。
今こんなことを言ったら非常に差別的ですけど、長い間鎖国をしていて外国の人を見たことも接したこともなかった当時の日本人に、彼らに対するアレルギーや恐怖心があったことは間違いありません。それに、タエは没落したとはいえ上級士族。その感覚でいえば、異人との結婚は「家の格を下げる」という考えも強かったでしょう。そもそも、トキを松野家に養女に出したのは、武家の存続のためであり、前の縁談の時も苦労して相手を探したわけですから。
「どういう経緯でそうなったの?」「本当にその選択しかなかったの?」と、内心、かなり複雑な心境ではあったと思います。

──そんなタエですが、わざわざ松野家に赴いてトキにお祝いの髪飾り(櫛)を贈りに行きました。これには、どんな意味があったと思いますか?
あの髪飾りは、亡き夫・傳さんからもらったものなのか、もしくは代々、雨清水家に伝わってきたものなのか……。とにかく、どんなに生活が苦しくなっても手放さなかった、大切なもの。でも、息子たちには不要な品なので、「もし自分がこの髪飾りを譲るならトキだ」と、ずっと思っていたのではないでしょうか。そして、今の自分ができるささやかな結婚のお祝いとしては、これしかないと思ったのではないかと思います。
ただ、タエの思いとしては、これを機に、三之丞(板垣李光人)のことをお願いしにいったという意味合いのほうが、大きかったのだろうと思っています。
彼が成長する時間と猶予を与えたい
──トキに向かってお願いした「 (三之丞の)嘘を、貫かせてあげたい」というセリフには驚きました。
三之丞が実は社長ではないことは、タエも初めから気づいていただろうと、私は思っています。彼をああいう人間に育てたのは、親であるタエと傳さんの責任。今、時代の変化に適応できずに路頭に迷っていることも含めて、です。それを踏まえると、三之丞に早く時代に順応しろとは言えません。むしろ、十分な時間をとらせてあげたい──。
三之丞がついた嘘は、自分を守るため、そしてタエを傷つけないためのもの。今、それをあばいたら彼のプライドはズタズタになって、もう立ち上がることもできなくなってしまうかもしれない……。タエは、そんな息子の繊細な心を承知のうえで、彼が成長する時間と猶予を与えたい、という思いでのお願いだったのだろうと受け止めています。
今、トキには、松野家の両親とおじい様がいて、ヘブン先生もいる。でも、三之丞には母である自分しか残っていない。本当にすがるような思いで、「彼を奈落に突き落とさないでやってほしい」と、伝えたかったのではないでしょうか。

──しかし、結局、ヘブンによって、その嘘はあばかれてしまいました。あのシーンはどのように感じましたか?
あのシーンは……、あの日は、さまざまな想いが去来した日でした。非常につらい立場でもあったし、いろいろなことが一変に起きて目まぐるしかったです。
まず、「なぜ突然やってきた異人から、そんなことを言われなくてはいけないのか」という気持ち。しかも、三之丞はそれを受けて、「 (自分は)嘘つきの、恥さらしの、ひどい息子です」と言うんです。「大切な息子に、こんなことを言わせてしまった」と、親としての責任を強く感じました。
タエはタエなりに、三之丞のことをずっと大切にしてきたんです。長男は雨清水家の後継として厳しく育てた。次男も同様です。でも、三男である彼だけは、そのしがらみやプレッシャーからは解放されたところで生きてほしいと自由にさせていた。そこに誤解が生まれてしまっていたことは、傳さんが亡くなる直前にわかったわけですが……。
現に、没落後は物乞いになってまで、ひとり残った三之丞を生かそうとしているわけです。それなのに、自分がかつて言った「人を使う人間になれ」という言葉が三之丞をこんなにも縛り付け、追い詰めていたことが明らかになって……。非常に胸が締め付けられる思いでした。
──トキがついていた嘘も明らかになりますね。
トキの嘘も、私や三之丞、フミさんなど、家族を守るためのものでしたよね。それなのに、ヘブンは家族みんなが揃っている前で彼女を嘘つき呼ばわりして、しかも泣かせて……。「こんな男性に、本当にトキを幸せにすることができるの?」と、最初は思いました。
ただ、それぞれが正直に話し合うことで、お互いの溝が埋まった。だから、あくまでも結果的にですけど……、一度大きく爆発させることによって、みんなが一つになれるきっかけを作ってくれたわけですよね。それで最後には、「このヘブンという男は、面白い男なのかな」と思えましたね。「もう、この2人の結婚は応援するしかない」と、納得もさせられました。
「ママさん」というのは横文字ですからね、そこはまた非常に複雑
──その流れの中で、タエはトキに「ママさん」と呼ばれることになったわけですが、その時はどんな思いがしましたか?
フミさんが、「 (タエも自分も)どちらもトキの母親だ」と言ってくれたことが、タエにとっては大きな解放だったと思っています。
タエはずっと、「トキの前でやたらと母親面をしてはいけない」と自分を律し続けてきました。一緒に料理をしている時など、どんなに娘を愛しく思っても、言葉はおろか笑みがこぼれてもいけないと気を張っていた。でも、そういう素直な感情を押し込める必要はないのだ、と。
フミさんとの微妙なわだかまりに雪解けが見られたことも、うれしかったです。非常に感謝していること、「ありがとう」という言葉を言えたことも。
一方で、「ママさん」というのは横文字ですからね、そこはまた非常に複雑でした(笑)。本当に、娘が外国の人間と結婚するのだという事実を突きつけられることにもなったわけですから。

まだどんな人間かわからないけれども、このヘブンという男は、トキが家族のことを抱え込みすぎて、実はもう崩壊寸前だということに気づいてくれた唯一の存在でもある。トキのことを真っ向から受け止めてくれていることは、認めざるを得ない。だから、「ママさん」と呼ばれるのも、まあ悪くはないかもな、と思いました。
タエは武家の人間ですが、そこまで凝り固まったところばかりではないんですね。意外と人間的というか、「まあ、こういう家族があってもいいのかな」と折り合いをつける柔軟さもある人なんだと思いました。
それに、「母上」だと、これまでトキを育ててきたフミさんにちょっと申し訳ないから、「ママさん」くらいがちょうど良いのかもしれません。でも親としては、長年のしこりがなくなってスッキリした娘の顔を見たら、もうそれだけで十分ですよね。
あと思ったのは、ここに傳さんがいたらどんなに良かったか、ということ。傳さんが生きていたら、実の父親として「パパさん」と呼ばれていたのだろうなと思ったら、少し切ない気もしました。