
「奥様になる」と決意した一ノ瀬りん(見上愛)が嫁いだのは、運送業を営む中年男・奥田亀吉だった。酒に溺れ、りんに辛く当たる亀吉を演じているのは、三浦貴大。彼は、亀吉の人物像をどのように捉え、どんな気持ちで撮影に臨んでいるのか?
亀吉は劣等感を持つがゆえ、被害妄想に陥っている

――亀吉役の出演依頼を受けて、彼の人物像についてどんなことを考えましたか?
亀吉は男尊女卑の塊みたいな人間で、この時代は彼のような人物がたくさんいたのではないかと思います。もともと飛脚だったのが、会社を興して財を成しているので、ビジネスの面では有能だったのではないでしょうか。かなりの苦労もしてきたはずですし、身分が低かったことで陰口も叩かれていたと思うんです。ある種の劣等感がいつもあって、いろんな悩みも抱えていたことが、被害妄想に近いものに繋がってしまっている、と考えました。
僕個人は、それを役として演じるのは面白そうだなと思ったのですが、それでも人間性については……、あんまり好きになれないですね(笑)。悩みがあるからといって、人にそんなことを言っていいのか? というようなセリフがたくさんありますので。
――そのような人物を演じるときは、どうされるのですか? それでも理解しようと努める……?
こういう話だから時代背景とともに理解しなきゃいけない部分がありますので、当時のことを調べながら自分の中に落とし込んでいくという作業をしていきます。嫌いな人間性を演じるというのは、なかなか難しいところではありますが、りんにとっての亀吉は1つの転機というか、ターニングポイントになる人物ですので、そのままの嫌なやつに徹して演じていければいいのかな、と思いました。
――あの時代の価値観を、連続テレビ小説というドラマの中で、これだけ強烈に表に出している人物も珍しいと思うのですが。
僕は撮影に入る前から、見ている人に「うわ、こんなやつ嫌だ!」と感じてほしい、という強い思いがありました。亀吉の古い考え方も価値観も、彼女が新しいものに向かっていくための前提。「この時代、男と女はこういうものだったんだよ」という象徴としての役割を演じ切りたい、と思いました。だから、ご覧になった方には亀吉をぜひ嫌いになってほしいな、という気持ちで演じています(笑)。
口にはしなくても、りんや環への愛情はあると信じています

――先ほど亀吉の劣等感について話されていましたが、りんが元家老の娘だったことで、より劣等感を刺激されて、冷たくしているのかなとも思えるのですが。
それはあると思います。いざ身分が高かった人が近くにいるとなると、改めてコンプレックスを感じてしまう。加えて、結婚したりんがとてもいい人だったので、逆に葛藤が生まれてしまったところもあるのではないでしょうか。それが、りんを一層遠ざけることに繋がってしまったんだと思います。
でも、監督とよく話していることなのですが、亀吉はりんや子どもの環に対して、愛情がどこかにあってもいいんじゃないか、と。
――どういうことでしょうか?
りんに「この子の名前はどうしましょう?」と聞かれて、「おめぇの好きにすればいいべ」と言いながら部屋を出て行くのですが、ほんの一瞬、考える間があるんですよね。
世継ぎのために結婚したわけですから女の子だったことに失望したけれど、親としての責務もあるし、愛情がないわけではない。「はぁ、女け……」と言いながらも、名前をどうしよう? と考える間があることで、亀吉の気持ちの揺れが見えるのかな、と思いました。
だから愛情は、ある。けれども劣等感が刺激されたり、ちょっと女性が苦手な部分もあるんじゃないか、と。常に複雑な思いを抱えながら、りんに対して向き合っていたのかなと思います。

ただ……りんが女の子を出産した直後、つまらなそうに口にする「はぁ、女け……」というのが、本当に、いっちばん嫌いなセリフなんですよ(笑)。台本を読んだときの衝撃はすごかった。「これを言うんだ!?」みたいな。亀吉に対して「何なんだ、こいつは!」と怒りが湧き上がりました(笑)。でも、当時の社会の雰囲気を考えると、その考え方は当たり前と受け取られていたんですよね。だから心底嫌そうな感じの言い方にはせず、さらっと言った方が「あ、こういう人がいたんだ」と理解していただけると思いました。セリフの言い方については、かなり気をつけました。
あえて言葉に感情をのせない芝居をするように

――亀吉を演じるために、お芝居の中で気をつけていることを教えてください。
表現するのが難しいですが、亀吉のセリフは、字面だけを読むと最低な言葉がたくさんあるので、あまり言葉で傷つけすぎないように、と思っています。それを動きだったり、しゃべり方だったりで、少し和らげないと、ちょっと……。これは珍しいパターンなんですよ。普段は言葉に対して気持ちを乗せていくという作業をするのですが、この字面に感情を乗せてしまうときつくなるので、あえて柔らかくしています。りんの亀吉に対する気持ちが「恨み」までいかないようにお芝居をしないといけないなと。
――りん役の見上愛さんの印象は? 共演は初めてですか?
初めてになります。同じ作品に出演したことがありますが、現場ではお会いしなかったので。見上さんは、現場でいつも明るいですし、「本当に、いい子だなぁ」と思います。朝ドラの主人公は、スケジュール的にも過密ですし、セリフもたくさん覚えなくてはなりません。「ちょっとぐらい疲れた顔を見せてもいいんじゃないかな?」と思うんですけど、そういう姿を一切見せないんですよ。常に明るく現場にいてくれて、共演者としてはそういう座長がいてくれるチームというのはとてもありがたいことなので、すごくいいなと思います。
それに彼女は、現場で台本を全く見ないんです。よくあんな量のセリフを覚えられるな、と驚くばかりです。年齢は亀吉とりんみたいにだいぶ違いますけど(笑)、とても尊敬できる人だと感じています。
――撮影の合間、気さくに話されている姿を拝見しますが、夫婦が対峙するシーンや役作りについて、お2人で話されたりしますか?
役作りの面では、特にこれといってありませんが、普段しゃべっているときに「次に、ちょっとひどいことを言うけど、許してね」って(笑)。