3回目となるこのつどい、今年は6月20日(土)に行われました。「新・介護百人一首2025」に選ばれた100首、100人の皆さんの中から、この日、東京・世田谷にあるNHK財団のオフィスまでお越しいただける方(※自費でお越しいただくんです。すいません)、またはオンラインでつながっていただける方、24組が集まってくださいました。入選者のおよそ4人に1人にあたります。

会場には、最年少の入賞者となった13歳(当時)の少年から、美しい白髪の93歳の女性まで、幅広い年代の方がお越しになりました。今年も予定時間を30分以上オーバーしてしまうという、運営側としては申し訳ない事態となりましたが、皆さんの想いを受け止めて共有する、豊かなときを過ごせました。その様子を、司会を担当したNHK財団の阿部陽子がご紹介します。

新・介護百人一首は現在2026の募集を行っています。募集ページからどうぞ(※ステラnetを離れます)


ひとつひとつの歌に込められた“手触り”を共有する

「新・介護百人一首」となって5年目になりました。今回は5,840人の方から1万2,943首が寄せられ、昨年11月、100首を決定して発表しました。(入選作品は、「新・介護百人一首」のホームページ上で紹介しています)
入選作品はこちら(※ステラnetを離れます)

今回のつどいも、選者の歌人の先生方5人全員が集まり、皆さんの歌一つ一つに丁寧にコメントしてくださいました。そのあと作者本人が、歌ができたときの情景を語りました。

声に出して詠み、先生方が読み解き、作者がそのシーンを語ると、歌に閉じ込められていたさまざまな感情が会場にあふれ出すのがわかりました。介護にまつわるエピソードの中にある、驚きや笑い、不思議、悲しみをみんなで深く共有したのでした。

「今ちょっと笑ったよな?」と父だけが発見できる母の微笑ほほえ

静岡県 ペンネーム 野月麦 (52歳)

講評した花山周子先生は「表情が乏しくなったお母さんのわずかな変化をお父さんが見逃さない、いつも見守っているからこそお父さんだけが発見できる、そのお父さんが娘の作者に『よな?』って呼びかけてその発見を共有したい……お互いに家族を見つめあっている姿がこまやかに出ていて、いい歌だなって思いました」と話しました。

野月さん「本当に父が言った言葉をそのまま歌に入れました。『いまちょっと笑ったよな? お前もそう思うだろう?』という感じで振り向いて。私には(笑ったかどうか)わからないんですけど、でも、その父の言葉や表情がはしゃいでいて、かわいらしいな、って感じたんです」

家族のあたたかな視線の交錯に、私たちもほっこりさせていただきました。

口癖の「できるできる」が出来なくて出来ない事の言い訳を聞く

千葉県 大野康子 (65歳)

講評は桑原正紀先生です。「お母様は認知症で、でもできることは全部自分でやりたいんだけれどなかなかうまくいかない。その出来なかった言い訳を一生懸命なさっているお母様を表現してらっしゃいますね。それに対して作者がどうこう思ったというそういう感想は一切述べないでその事実だけを提示している。そこがこの歌の強さになっていますね。そして「できる」という動詞が4回出てくる。人間にとっても何かができるということの重さとか、生きていることの証のようなもの、それが出来なくなったお母様の悔しさのようなものが伝わってきます」

作者の大野さん「母は本当にすごい器用な人で何でも自分でやってきたので、大丈夫大丈夫、できるできるって。でもやっぱり出来ない事が出てきて“じゃあ代わってあげるよ”と私に言われるのがすごく嫌だったらしくて……今、母に起きていることをそのまま31文字にした、という感じです」

そう、いつまでっても親は親、子どもに対して“できない”って絶対認めたくない……そのプライドとかなしさ、見つめる娘の気持ちを思うと、鼻の奥がツンとしたのでした。

手を引けばまるで子供のような顔けれどその手は銃を握った

神奈川県 片岡洵 (13歳)

入賞者の中で最年少の片岡洵さんは、お母さんと出席してくれました。13歳、は応募当時の年齢で、今は中学3年生です。

春日いづみ先生が「この作品を読んで、本当に13歳かしら、と思いました。とてもよくできている歌だと思います。ひいおじいさんの手をとるとね、もう弱られて、心もとない手だったと思うんです。しかしね、それを下の句で「銃を握った」と鮮やかに対比をさせている。歌の作り方としても素晴すばらしいなと思って。これは世界の今の状況も影響しているんでしょうね。ひいおじいさんの人生に関心を持てない、という若い人たちも多い中で、その世代間の交流、家族のもたらしている雰囲気というものを感じました。作者にお目にかかるのを楽しみにしていたのよ」とおっしゃると、片岡さんは

「昔大変な中を戦い抜いてくれたひいおじいちゃんに感謝しています。まだ元気に生きてますので」とはにかむように話しました。

小学校1年生から、おじいさまの影響で短歌を作り始めたんだそうで、話を聞いていた会場一同もびっくりです。末頼もしい少年に出会いました。


誰もが直面するこの場面に、会場が泣いた

このつどいでは毎回、会場全体で涙腺崩壊する場面があるのですが、今回はそれが意外と早い時間にやってきました。

施設行く朝父が言う微笑ほほえんでおまえの介護嫌じゃなかった

大阪府 高橋直子 (61歳)

高橋さんは大阪からリモートでの参加です。

講評した春日いづみ先生には100歳になるお母様がいらっしゃるそうです。「この歌を、私、とてもね、身につまされて……」と話し始めました。

「私の母も1年半くらい前から施設にお願いしているんです。母が転んだら私一人の時は起こせないし、共倒れにならないようにと自分にも言い聞かせて。施設で暮らしてもらう、ということは家族にとって大変な決断なんです。この歌を見ると、やっぱり親の方が上だなって思いますね。最後にこんな『お前の介護嫌じゃなかったよ』って言ってくれるなんて。それも微笑んで。

対等じゃないなって。こちらがお世話しているつもりでも、やっぱり親の方が上手うわてだなということを思います。私の胸に本当に刺さる歌でした」

作者の高橋さんは

「この場面、思い出すたびにすごい後悔があります。自分は介護士をしていたので、家での介護にも自信があったんです。でも自分の家族では上手うまくいかなかった……ものすごいけんが絶えなくて。これはお互いにとって良くないだろうと、施設に行ってもらうことにしたんです。あの時の父のやさしい顔とか、こうやって思い出して……(父は)あれから1年で亡くなったんですけど、私がていたらもっと長生きしてもらえたんじゃないかとか、いろいろ悔いばっかり……」

この歌は2月に放送した「ラジオ深夜便」のなかでも取り上げられました。
ラジオ深夜便で「新・介護百人一首2025」の入選作品が紹介されます~2月22日の朝4時台の予定 | ステラnet
ゲストで出演した花山周子先生からは「そのとき、桜井洋子アンカーも泣いていらっしゃって……」と、ご本人も泣きながら、その時のエピソードを話してくださいました。


その一言がうれしくて、おかしくて

たくましい腕にすがりて浴室へ髪とかしくれて「きれいな白髪」と

東京都 岡本類子 (93歳)

この日来場した方で最年長の岡本類子さんは鮮やかな黄色のスーツに真っ白な髪が輝くようです。歌は小島なお先生が詠み上げて、そのままコメントしてくださいました。

「私、この歌で1番好きなのは“とかしくれて”という言い方なんですよね。当然、介護をする人にとってはお仕事の一環なのでしょうけれど、とかしてもらった側として『私の髪をとかしてくれたんだ』と。ここに心が留まっているところに、介護される側の喜びや相手への優しさを感じます。そして歳を重ねた白い髪を『こんなにきれいなのね』って言ってくれたこともすごくうれしかったんじゃないかと、心に残りました」

その岡本さんは

「いま、老人ホームに住んでいるんですけど、初めて入浴させてもらったときに腕を差し出されて、それにすがって浴室に行って……これから私は介護士さんにお世話になるんだって思ったら、もうどうしよう、と思って緊張しました。その時にね『きれいな髪ね』って言って和ませてくださった。ここなら安心して居られるかな、とうれしく思いました」とおっしゃいました。

ショートステイ九十二のつま第一声「老人ばかり」と電話をよこす

福島県 福地恭子 (84歳)

笹公人先生はいつも“楽しさ”を探してくださいます。

「認知症の方なので、おそらくもう脳内では若いころに戻っている、と思うんですよね。うちのおやじも認知症で20代の頃に戻ってて。80代のおやじに僕、『兄貴』って呼ばれてましたから。鏡とか見せても脳内で変換されるんで、若いまま。だからこのご主人も、突然老人ホームに投げ込まれた青年みたいな感じなんでしょうね。これが初日ってところがドラマチック。是非、続編を!」

福地さんは福島からお越しくださいました。

「私が手術することになったので、認知症が始まった夫を一人では置いておけなくて、ショートステイに行ってもらったんですが、その第一声が『老人ばかり!』って電話をよこしましてね。自分が老人のくせにって私も笑ってしまって。そのまま歌にしました」

認知症あるあるのエピソードでした。

AIの登場でさまざまな文芸コンテスト(短歌や俳句や小説の)が存続の危機に見舞われる中、このつどいは手触りのある“リアル”が「どっくんどっくん」と脈打っていました。そして終わった後、なんだか心が浄化されたような穏やかな気持ちになれました。


第2部の茶話会で

そもそも第1部が40分押しで終了し、第2部の茶話会が始まったのは“茶話会終了の予定時間”でした(皆様申し訳ありません)。

恒例となったノンアルのお茶会ですが、みなさん、とても楽しそう。

あっという間にサイン会や撮影会になりました。
中には5人の先生方全員のサインを集めている(?)方も。

みなさんの交流の場となり、明日の介護の活力の1つになったらうれしいです。


ご参加された皆様、長い時間ありがとうございました。来てよかった、明日もがんばろう、と思ってお帰りいただけていたら、うれしく思います。また、当日ぎりぎりになってご参加できなかった方もいらっしゃいました。介護にはいろいろなことが起こります。予定を立てられないことだってあります。だって命を支えているのですから。

是非、その命を支える日々を三十みそひと文字もじに込めてみてください。来年はどんな皆さんとお目にかかれるでしょうか。楽しみにしています。

新・介護百人一首は現在、2026の募集を行っています。是非、あなたの一首をお寄せください。応募はこちらから(※ステラnetを離れます)

(NHK財団 ことばコミュニケーションセンター 阿部陽子)