嵩(北村匠海)にミュージカルの舞台美術を依頼しようと、いせたくや(大森元貴)とともに柳井家を訪ねてきた六原永輔ろくはらえいすけ。常にマイペースで、嵩やのぶ(今田美桜)を翻弄する六輔を、演じている藤堂日向はどのように捉えているのか。


“朝ドラ”出演依頼は、青天の霹靂でした

――藤堂さんにとって初めての連続テレビ小説ですが、出演依頼をどのように受け止めましたか?

本当に天の霹靂へきれき、びっくり仰天でした。「僕が“朝ドラ”に出られるの?」みたいな(笑)。小さいころから見てきた“朝ドラ”に出られるなんて、周りの人にすごく押し上げてもらって、ここまで来られたんだなと心の底から思いました。

連絡をいただいたときに、永六輔さんをモデルにした役ということも教えてもらったのですが、それも信じられなくて。というのも、僕は坂本九さんの楽曲を一時期聴いていたんです。だから「あの永六輔さんを? 僕が?」と驚きましたし、実感が湧いたのは衣装合わせをしてからですね。そこで、ようやく「あ、本当にやるんだ!」と……。

――「あんぱん」には途中からの参加になりましたが、放送はご覧になっていましたか?

もちろん! 僕は北村匠海さんと仲がいいので、それこそ初回から見せていただいていますが、「あんぱん」は本当に面白いですよね。あの河合優実ちゃんと細田佳央太さんのところ(豪が蘭子に告白するシーン)で、僕はマジで泣いてしまって……。最近のドラマでは、「あんぱん」がいちばん好きかもしれません。朝に見られなかったときは、帰ってきて夜録画を見ています。みんなお芝居が上手だし、本当に面白いです。

――そこまでハマっている「あんぱん」の魅力とは?

弱くてもいいから、とにかく生きることが大事、というところでしょうか。嵩って「たっすいが」じゃないですか。戦時中でも陸軍幹部候補生試験の前夜に厩舎で寝ちゃいましたよね? 嵩っぽいな、と思うけれど、そこで八木(妻夫木聡)さんや健ちゃん(辛島健太郎/高橋文哉)に救われたりして、少しずつ強さを身につけていく。そういう“弱さの中の強さ”が描かれているところにかれている気がします。


「弱きを助け、強きを挫く」という情報からの役作り

――「あんぱん」の撮影現場に入って、実際に演じてみての率直な感想は?

多くの人が知る人物をモデルにした役を演じるのは初めての経験なので、大きなプレッシャーを感じていました。でも、「あんぱん」チームの雰囲気がすごく良くて、温かく迎え入れてくださったので、いらない力がだんだん抜けていって、演技にちゃんと集中できていました。それがうれしかったですね。

――永六輔さんがモデルとなった六原永輔という役を演じるために、どんな準備をされましたか?

とにかくいただいた資料をもとに役への理解を深めていったのですが、永輔は27歳なんです。残っている永六輔さんの映像資料は50代、60代のものが多くて、20代の映像がほとんどなく、若いころは想像でやるしかない。だから映像資料をめちゃくちゃ見て、口の開け方はこう、こういう姿勢になる、こんな口調で話して誰にでも敬語を使う、というふうにり合わせていって、あとは現場でどのようにアレンジできるか考えました。

ただ、あまりにも準備しすぎたのか、最初のリハーサルのときに「ちょっと似すぎ。それは六原永輔じゃなくて、永六輔さんだから。もっと藤堂くんの色を出してほしい」と言われてしまって(笑)。ああ、自分で自分の首を絞めていたんだな、と思いました。なので、どうやって藤堂日向を出せるのか、ということを意識するようになりました。

――具体的には、どんなことに注意されたのですか?

リハーサルには「上・中・下」を用意していて、「上」は完全に永さんの物まねに近い感じで、「中」は少し寄せた感じというように。僕は「中」でいこうと思ったんです。その「中」でも、本人に似すぎてダメで。多分、永さんは、口の中で舌をクッと巻き切る癖があるんです。(永六輔そっくりの口調で)「そうなんですね」みたいな。

なので、それはそれで置いておいて、自分の中の六原永輔がしゃべっている舌巻きなしの喋り方を、台本を見ながら「ここでは、こう言うだろうな」と、肉付けしていくという感じにしました。
僕は、運がいいことに声がちょっと高めで、「声が似ている」といろんな人に言ってもらえたので、そこは自分の“素”に近い感じでお芝居ができています。

――そのほかに役作りの中で大切にしたことは?

資料を熟読して、僕の中で大事にしよう思ったのが、永さんが「弱きを助け、強きをくじく」という精神の持ち主だったという情報でした。それを念頭に置いて、いろんなセリフを解釈したところが何か所もあります。六原永輔ってエキセントリックで、かなり独特なキャラクターなんです。台本のセリフを文字で見たときに「この人は、どういう気持ちで、どういうトーンで、この言葉を言っているんだろう?」と、ちょっと想像しづらい部分もあって。

でも、その「弱きを助け、強きを挫く」ところから考えたら、自分の中でに落ちる、「あ、こう言っているのかも」と想像ができました。

――この物語の中の永輔を、どのような人物だと捉えましたか?

永輔はインパクトが強いです。普通なら完全に“浮く”存在ですよね。でも、永輔のキャラだから、みんなの視線をグッと集められる。魅力はそこにあると思いました。一緒にいるたくちゃん(いせたくや/大森元貴)は、どちらかと言うと調整役の“バランサー”。僕とたくちゃんがセットになって、いい感じに嵩を翻弄しなくちゃいけませんし、その個性を、のぶに対しても炸裂さくれつさせなくちゃいけない。そういう意味で言うと、物語の起爆剤みたいな役ではあるのかな、と思いました。

と同時に、「あんぱん」という作品の中で“違和感”を求められているかもしれないとも思い、自分が物語の中の、いいアクセントになればいいなと考えました。


北村匠海は相談に乗ってはくれない(笑)

――藤堂さんは、北村匠海さんが企画・脚本・監督された映画『世界征服やめた』にも出演されていて、かなりご縁があると思いますが、「あんぱん」で共演してみて、いかがでしたか?

北村匠海さんとは、映画『東京リベンジャーズ』で出会って、彼の監督作品にも出演したのですが、一緒に芝居をするのは『リベンジャーズ』以来です。なんだか、お芝居が変わっていましたね。より柔らかくなったというか、すごく楽しんでいる印象を受けました。でも、楽しむだけじゃなくて、すごく深いことを考えているんですよね。

現場で、僕がどうしようもなく悩んでいるときは「そこは、そういうことで合っているんじゃないかな」と、さりげなく声をかけてくれます。「一体どこに目がついているんだろう?」と思うくらい周りを見ていますし、考えも巡らせていて、すごいなと感じました。僕の初めての映画も、初めての“朝ドラ”も、北村匠海さんとの共演で、運がいいですね、僕は。

――柳井嵩として「あんぱん」を引っ張ってきたからこそアドバイスをしてくれた、という感じだったのでしょうか?

アドバイスというものはなく、何か相談しても、匠海さんは乗ってくれません。「それは日向が考えることだから、日向の領分だから」と、試練を与えてくるタイプなんです(笑)。ただ、突き放すような感じではなく、限界になったらアドバイスをくれるような距離感でいてくれて、僕が「まだ自分で考えられるな」というときは黙って見守ってくれています。

――嵩を演じている北村さんの姿は、どう見えていますか?

匠海さんは、どんな役でも似合うじゃないですか(笑)。背中で語れるというか、そういうことがうまいなと思います。嵩に関しても“受け”が上手だなと。「あんぱん」って、強い“ピッチャー”がたくさんいらっしゃるから、その投げる球を全て受け取って、うまく返しているなと思いますね。すごく素敵すてきな俳優だと思います。

――嵩と永輔として、お芝居してみての印象は?

不思議な感覚でした。嵩が、結構ポップだったんですよ。僕が撮影に入ったのが、嵩の軍隊生活が放送されていたころで、それを見ていましたから。もちろん、セリフは嵩っぽいんだけど、撮影でカットがかからないときにアドリブでお芝居をする嵩、たくちゃんと永輔に翻弄されている嵩が、ちょっとポップで明るいなと思いました。今までの嵩っぽさが、いい意味で薄れているというか、すごく乗り越えてきている感があるというか、そういうものを感じましたね。


大森元貴さんは核心をつかんで離さない人だと思います

――永輔はいつもたくやと一緒にいますが、たくやを演じている大森元貴さんとの共演はいかがでしたか?

大森さんは、何て言うんだろう……。軽いように見えて軽くないというか、とても不思議な雰囲気を持った方だと思いました。喋っていても、すごく核心をつかんでいて、ずっと離さない、みたいな。普段自分が生活していても、ああいう人には会わないだろうな、という感じの人でした。スケジュール的に、常に短時間の睡眠のはずなのに、とても元気ですし。

――大森さんと、どんな話をされたんですか?

「あんぱん」のスタジオセットに照明機器があって、それに番号が振られているんですけど、照明のセッティングで93番と96番のライトが降りてきたんですよ。そのときに「どっちが好きかな?」と聞かれて。

――え?

「93と96、どっちが好きかな?」と。それに対して「僕は断然、偶数ですね」と返したのですが(笑)。デカめの数字が好きだし、やっぱり偶数だから落ち着きますね、と説明したら、「面白いねぇ」みたいな。この人、何を考えているんだろうと思って、その会話がすごく印象深く、楽しかったですね。

――役どころでは永輔のほうが変わり者に見えましたが、大森さんも負けてないですね(笑)。

面白いなと思ったのが、大森さんが「お芝居をするときは別人だと割り切っている」とおっしゃっていたことです。「ミュージシャンとしては100%自分を出さなくちゃいけないけれど、お芝居のときは100%別人と割り切ってできるから、それがとても自由なんだ」と。

肩に力が入ってないし、面白い間をとってお芝居する方なんですよ、大森さんって。それが独特に感じて「すごく素敵なお芝居だと思います」とお伝えしたら、「もっと褒めてください」って(笑)。「僕、褒められるとやる気が出るので」と話されたので、その後、褒めまくりました(笑)。

――永輔とたくやのシーンで、印象的に残っているところはありますか?

最初に柳井家に入っていくところですね。永輔が初めて登場するシーンなのですが、あそこで永輔の立ち位置がわかる。そこにバランサーとしてのたくちゃんがいて、ちゃんとカバーしてくれるから、僕が奇人、変わり者としていられる安心感がありました。

あの「お美しい、お美しい、お美しい。お美しいの三拍子」「ちょっと、永ちゃん!」という会話だけで、永輔とたくちゃんとの関係性がわかりますよね。仲が良くて、気持ちよく止めてくれる感じ。大森さんとお芝居をしていて、この人は安心できるなって思いました。