中村アンカーのこの秋のイチオシは、京都・東山の奥座敷、てらと呼ばれるせんにゅう
紅葉狩りの様子をつづったエッセーをご紹介します。


有名な寺院なのに紅葉の名所としては知られていないのか。天皇の陵墓や位はいがあり、御寺と呼ばれる東山の泉涌寺は思ったよりもすいていました。

JR奈良線と京阪電車の東福とうふく駅から紅葉で有名な東福寺に向かう人波と別れ、上りの道を約25分。大門を入って右に進むと別院・うんりゅういんがあります。期待を胸に庭園の見える「れんの間」に入ると「え?」、参拝者は数人で、すぐに独り占め状態。1枚だけ座布団が敷かれている特等席に座ると4枚の障子窓からそれぞれ違った景色が見えます。左から椿つばき灯篭とうろうかえで・松。楓の紅葉はちょうど見頃。なんと贅沢ぜいたくな眺め。入ってこられた方に特等席の私を写していただきました。

「悟りの間」には四角い「迷いの窓」と丸い「悟りの窓」があります。迷想(?)する私の姿を撮りたかったのですが、誰も来なかったので断念(自撮りは苦手!)。ご本尊の薬師如来三尊像などを拝見して大門に戻ると、反対側にあるのがよう貴妃きひ観音。彩色が残る美しい姿で、美人祈願のお守りも人気とか。

泉涌寺は、大門かららんに向かって下っていく珍しい造りです。坂の突き当たりに見える仏殿は、4代将軍徳川家綱によって再建された本堂で重要文化財。運慶作と伝わる阿弥陀あみだしゃろくの三尊仏は「現在・過去・未来」を表しています。しばし鑑賞&合掌。

隣のしゃ殿でんは非公開ですが、ぜひ仏殿と並ぶ姿をカメラに収めてください。大屋根の反りや木組みの美しさに感動するでしょう。

いちばん奥が本坊。皇族の参拝の際に休憩所となる御座ござしょには「皇族の間」や「玉座」があり、今も使われているそうです。

そして、本日のハイライト御座所庭園が見える部屋に入ると「わ~キレイ!」という声が聞こえます。太陽に映えるもみじの庭。薄暗い部屋からわざと屋根のひさしや縁側を入れてパチリ! シャッターを押したり押してもらったりと、一期一会のコミュニケーションが始まりました。カメラに、そして目の奥に、鮮やかな紅葉が焼き付きました。

※JR京都駅烏丸からすま口から市バス(208号系統)で「泉涌寺道」下車、徒歩15分。または京都駅八条口からタクシーで約10分(上り坂なので高齢者にはタクシーがおすすめ)。雲龍院ホームページ ※ステラnetを離れます
※見頃の時期など調べてお出かけください。

(なかむら・ひろし 第2金曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年10月号に掲載されたものです。

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