夏前に漬けた梅酒の蓋を開けようとしたら、あら? 動かない。びくともしない。誰だ? こんなに強く締めたのは、それ、自分じゃんと思いながら力むこと4回でやっと開きました。梅酒の香りと味に癒やされながらも、最近、こんなふうに筋力の衰えを感じることが多くなったなあと苦笑いしてしまいます。

立ったままパンツを穿こうとしたら酔っ払いのフラミンゴみたいにグラッ。なんでもない道なのに突然つま先が突っかかってグラッ。電車で空いてる席に座ろうとしてグラッ。さらに、靴ひもを結ぶときには玄関先でヨッコラショ! 立つときに私を支えてくれた脇の白い壁の同じ場所にはいつのまにか手あかが付いてしまっています。

試しに平らな床の上で片足立ちをやってみると、イチ、ニイ、サン、シー……あれ、あれれ、フラフラし始めて、20秒で、見ていた妻が思わず「危ない!」……やっぱり、筋力低下は疑いようがありません。

そんなある日に街で見つけたのがハンズフリーの靴。これがひもなしで、手も使わずに立ったままスッと足を入れると、ピタッと収まるというスグレモノ。筋力なんてほとんど使いません。履き心地も安定感があって歩きやすい。デザインも色も豊富でお洒落しゃれなタイプがあるじゃありませんか。鏡に映すと、お気に入りのジーンズにもピッタリ。

としを重ねることは、何かを諦めることではなく新しい選択肢を見つけることなのかも。底の硬い革靴を履いたり、窮屈なジャケットを着たり、ウエストサイズに合わせてダイエットしたり、そんな我慢はもう必要ないんだよ、そろそろ、ゆるーくふわっと、もっと力を抜いて生きてもいいよと、そんな合図を体が送ってくれているようです。

しかし、やっぱりここは筋トレだと、むかーし買った、握力を強化する器具がどこかにあったはずだなあ、と思って立ち上がろうとしたらグラッ! おっとこれは、梅酒の酔いのせいか? はたまた歳のせいか? いずれにしてもさいな動きにもご用心、ご用心!

(くどう・さぶろう 第1・3火曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年11月号に掲載されたものです。

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