近ごろ俳句と縁がある。お話を伺ったゲストから俳句集を贈られたり、友人が趣味で俳句を始めたり、と私の周りはにわかに五七五のリズムを刻み始めた。贈られた句集を開くと、不思議に五感を刺激される。文字の連なりから風景が鮮やかに浮かび、音も聞こえてくるのだ。世界でいちばん短い詩、とはこういうことなのだろうか? さらにエッセイストの岸本葉子さんに俳句をテーマに番組でお話を伺うことになり、俄かに俳句を学ぶ必要に迫られている。でも岸本さんは、俳句の面白おもしろさに夢中になったそうで実に楽しそうだ。

以前は番組でお会いしたゲストを通して、短歌のほうに親しみを持っていた。何十年も前だが、歌人の塚本邦雄さんは「短歌は叙情詩、俳句は短歌より文字数が少ないから、歯を食いしばって作らなくてはならない。また、時代を超えていつまでも残る歌を詠みたい」ともおっしゃっていた。背景など何も説明しなくても、三十みそひとだけで永遠に輝き続ける完璧な短歌こそ理想、ということだ。塚本さんがしたためる文字も流麗で、私はその美しさにも圧倒された。近年は、穂村弘さんにお話を伺い、口語を自在に使いこなす新しい短歌に三十一文字の幅広さを感じている。

今度は俳句と向き合うことになったが、どうも名句といわれる俳句のよさがよく分からない。例えば松尾芭蕉の「古池やかわず飛びこむ水の音」。正直この句のすばらしさがいまひとつピンとこない。わびさびの境地と縁がない暮らしをしているからかもしれない。でも岸本さんは、「俳句=わびさびと考えなくても大丈夫」と優しくおっしゃる。岸本さんはいつも『歳時記』、メモ帳、鉛筆を手にしていらっしゃるそうである。確かに友人も同じでどこに行ってもメモ帳を手にしている。周りの風景を見る目もより深く鋭くなったらしい。特別遠出はしなくても、毎日歩く道すがら季節の変化にも敏感になったとか。平安の女流歌人とつながれるみやびな夢の世界と毎日の暮らしで実践できそうな俳句との間で私の心は揺れている。

(むかい・やすこ 第5月・木・金曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年11月号に掲載されたものです。

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