NHK財団では、情報空間の課題の解決方法や、一人ひとりが望む「情報的健康(インフォメーション・ヘルス)」を実現するためのアイデアを募集し、社会実装に向けての取り組みを進めています。
詳しくは財団の公式サイト「インフォメーション・ヘルスアワード」をご覧ください)※ステラnetを離れます

LINEヤフー株式会社 Yahoo!ニュース部門 シニア トラスト&セーフティーマネージャーのいまさゆりさんは、第1回の「インフォメーション・ヘルスアワード」から応募作品の選考に参加しています。

今回、松尾剛アナウンサーが、Yahoo!ニュースの“情報的健康”を目指す取り組みについて伺いました。


ヤフーで歩んだ25年~情報空間の変化とサービスの責任

今子さゆりさんは2000年にヤフー株式会社へ入社。知的財産や法務を担当し、インターネット時代に即した著作権制度の必要性を訴えてきました。

2017年からはYahoo!ニュース部門で活動し、「健全な情報空間の構築」に注力。官公庁や有識者と連携し、社会課題に向き合いながら、より良い情報環境づくりに尽力されています。

 

松尾剛アナウンサー

四半世紀にわたるキャリアの中で、情報空間の環境はどのように変化したと感じていますか?

今子 インターネットの25年は長く、その間にサービスの「インタラクティブ(双方向)性」が大きく進化しました。

Yahoo!ニュースでは2007年からコメント機能を導入し、ユーザーの力によって多様な情報が流通するようになったと実感しています。最近では、現場の体験談や専門家の知見がコメントされることもあり、社会課題に対する意見交換の場としても発展しています。

情報空間の健全性について、あるセミナーで京都大学の曽我部真裕先生が、表現の自由との関係において、「池の濁り具合は(事業者が)自分で決める」と話されていたのが印象的でした。これは(ひどいコメントでも違法でさえなければ削除できない、ということではなく)どの程度の健全性を目指すかはサービス事業者が自らの方針で決め、責任を持って取り組むべきだ、という考え方です。

違法コンテンツは論外ですが、健全性の“濃淡”も含めて、その空間の質を形づくる要素だと捉えています。
今では「健全な空間を維持するために必要な対応をする」という考え方が浸透してきました。

この数年で、ユーザーの意識もサービスの姿勢も大きく変化し、より良い情報環境が築かれてきたと感じています。

「メディア透明性レポート」(ステラnetを離れます)で、2024年度の「Yahoo! JAPAN」の投稿型プラットフォームサービスにおける投稿削除件数は、2021年度と比べて、4分の1以下まで減少しました。これは投稿数が減ったわけではなく、ユーザーの行動や意識が変化し、より健全な空間が形成されてきた結果だと考えています。
「Yahoo!ニュースコメント欄」「Yahoo!知恵袋」「Yahoo!ファイナンス掲示板」の3つ


ヤフコメの健全化と“情報的健康”を目指す自主的な取り組み

2025年4月施行の「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」により、ヤフコメでは自主対応を進めているとのことですが、その背景と今後の展望を教えてください。

今子 私たちは「情報空間の健全性を高める」という観点から、Yahoo!ニュースのコメント欄、いわゆる「ヤフコメ」を含む各投稿型サービスに対して、法改正を待たずに自主的な取り組みを続けてきました。

ヤフコメは多くのユーザーが意見を共有する場ですが、ぼう中傷なども発生しています。そのため、専門チームによる24時間パトロールやAIによる問題コメントの削除、「ヤフコメポリシー」に基づく注意喚起などを行っています。

また、同じような意見ばかりが並ぶ「エコーチェンバー」状態を防ぐため、コメントの並び順の工夫や、専門家の意見を目立つ位置に掲載するなど、多様な視点を届ける取り組みも進めています。

年間で約1.1億件ものコメントが投稿される場なので、多くの方に見られるという意味でも、プラットフォーマーとしての社会的責任は強く意識しています。投稿型サービスには誹謗中傷や個人情報の漏洩など、さまざまなリスクがあるので、それを未然に防ぎ、改善していくことがとても重要だと考えています。

インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)(ステラnetを離れます)

――「情報的健康」との親和性についてはどのようにお考えですか?

今子 「情報的健康」という考え方には、私たちも強く共感しています。情報社会においては、食事のバランスのように、偏りなく多様な情報に触れることが重要です。偽情報や特定の思想に偏ることを防ぎ、フィルターバブルやエコーチェンバーの影響を受けずに、健全な情報交換ができる“情報への免疫”がある状態が理想です。

これは情報の種類や視点に偏らず、バランスよく情報に触れるという考え方です。

特に「Yahoo!ニュース トピックス」では、公共性や信頼性の高い情報を編集部が選定。一方で、タイムラインではユーザーの関心に応じた情報も表示し、硬軟のバランスを取る工夫をしています。見た目には地味でも「知っておいた方がいい情報」を含めて届けることが、「情報的健康」にもつながると感じています。

情報の質を保つための基準と工夫は?

Yahoo!ニュースでは現在、約470社と契約し、1日約8,500本の記事を配信しています。契約時には編集方針や記事内容を審査し、入稿ガイドラインの遵守をお願いすることで、健全な情報空間の維持に努めています。また、信頼性の高い記事を優先的に掲載し、「ここに来れば確かなニュースが読める」と感じてもらえるブランドづくりを意識しています。

医療・健康情報や自殺に関する表現には特に注意を払い、WHOや専門家の助言をもとにガイドラインを整備。こうした取り組みにより、ユーザーが安心して情報に触れられる環境づくりを目指しています。


投稿者の“立ち止まり”を促す仕組み~表現の自由と健全なコミュニケーションの両立へ

AIと人の連携による対策はどのように行っているのですか?

今子 「AIと人の連携」には2つの側面があります。ひとつは、ヤフコメにおける誹謗中傷や問題投稿への対応。人が24時間体制でパトロールし、AIも問題のあるコメントを検知・削除しています。

もうひとつは“コメント添削モデル”の導入で、AIが不適切な表現を検知し、投稿者に「この表現、見直してみませんか?」と促す仕組みです。

現代は“1億総メディア時代”とも言われ、誰もが発信力を持つ一方で、自分の言葉を見返す習慣が薄れています。AIが立ち止まるきっかけを与えることで、約半数の投稿者が表現を見直す結果につながっています。誹謗中傷とまでは言えない微妙なコメントも多く、削除だけではなく、ユーザーの“気づき”を促す設計が重要です。表現の自由を守りながら、健全な対話の場をつくることが求められています。


今子さゆりさん 第2回インフォメーション・ヘルスアワード 表彰式のシンポジウムで(2024.12.13) 

インフォメーション・ヘルスアワードを 自分たちの情報空間を見つめ直すきっかけに

アワードを通じてどのような気づきがありましたか?

今子 昨年の受賞者・木田さんのインタビューで、「本当に大事なニュースに触れる機会が少なく、結果として『知る・考える』という選択肢自体が最初から与えられていないのかもしれない」という言葉がありました。とても印象的で、強く心に残っています。

また、受賞に至るまでのプロセスの中で、学生の皆さんが「今の情報環境はどうあるべきか」「どう改善できるか」といった議論を重ねていたことも非常に意義深いと感じました。アワードそのものの価値ももちろんありますが、それ以上に、こうした議論や気づきの機会が生まれることこそが、この取り組みの本質的な意義だと思っています。

今後のアワードの応募者へのメッセージは?

今子 ぜひ一度「自分たちはどんな情報空間にいるのか?」ということを、少し距離を置いて考えてみていただきたいと思っています。

私たちは今、ソーシャルメディア時代の中で暮らしていますが、情報はただフラットに流れてくるわけではなく、エコーチェンバーやフィルターバブル、アテンションエコノミーといった構造の中で、偏った情報に触れている可能性もあります。そうした環境を意識したうえで、「自分はどんな情報を、どのように受け取りたいのか?」を考えるきっかけにしていただけるとうれしいです。

――ありがとうございました。


「第3回インフォメーション・ヘルスアワード」の募集は終了しました。アワードの詳しい内容はNHK財団の公式サイトをご覧ください。(※ステラnetを離れます)
ステラnetでは、選考委員や受賞者の方々のインタビューなどをこれからも掲載する予定です。ご期待ください。

(インタビュー:NHK財団 アナウンサー 松尾 剛)
(文・撮影:インフォメーション・ヘルスアワード事務局 木村与志子)

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