9月29日(月)から放送が始まった連続テレビ小説「ばけばけ」。その初回放送に合わせ、ドラマの主な舞台となる島根県松江市ではパブリックビューイングが開催されました。この日集まったのは440人。主人公・松野トキ(髙石あかり)の父、松野司之介を演じる岡部たかしさんが登壇とするとあって、会場はスタート前から静かな熱気に包まれていました。

大きな拍手と共に岡部たかしさんが登場すると、小泉八雲記念館館長の小泉凡さんが続きます。凡さんの曾祖父母、小泉セツ・八雲夫妻が、「ばけばけ」の主人公・松野トキとレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)のモデルになっています。
放送直前にはおふたりと観客の様子が中国地方で放映されている「NHKニュースおはよう中国」の画面に映し出され、会場は一層盛り上がりました。
ドラマが始まって怪談を語るトキと聴き入るヘブンが大画面に映し出された途端、客席はしんと鎮まり、物語の世界に引き込まれていきました。司之介が蝋燭を刺した金輪を被り藁人形に釘を打ち込む姿や、「しじみ汁は松江人の血液だけん」のセリフにクスクスと笑い声が響く場面も。橋に立ち尽くしお城を仰ぎ見る姿を切なく感じたり、陽の射す縁側で笑い合う一家を微笑ましく見守ったりするうちに初回放送は終了。あっという間の15分間でした。

パブリックビューイングの後は、岡部たかしさんと小泉凡さんによるトークショーが始まりましたが、おふたりの手にはなんと藁人形が! 丑の刻参りの場面で実際に使ったものをお持ちになったのだそうです。
司会の大村広奈アナウンサーから松江の印象を聞かれた岡部さんは自然の織りなす風景に、懐かしさを感じたと答えます。
岡部「田園や川のある景色に故郷の和歌山を思い出しました。田舎に帰ってきたような気持ち。昨日は松江大橋を渡ったり、八雲が最初に滞在した宿のあたりを歩いたり。夜道を歩きながら、“ばけばけ”の世界に入ったようで感動しました。夜にいただいた地元の魚もおいしかった。あ、もちろんしじみ汁もいただきました」
連続テレビ小説に6回の出演歴があり、2024年の「虎に翼」に続いて主人公の父を演じることについては「父親役、俺しかおらんのかいな!」と会場を沸かせた上で「作品も違えば、時代も違う。新鮮な気持ちで挑んでいます」と引き締まった表情に。
冒頭の丑の刻まいりの場面で会場から笑いが起きたことには「シンプルに嬉しかったですね」とひと言。
岡部「司之介はいつも真剣に生きている。ピュアなところがある。丑の刻参りだって真剣。笑わそうと思ってるわけじゃなくて、真面目に藁人形に釘を打っているわけです。でも、ちょっと抜けている部分もあったりして。かわいらしい人だなあと思います。僕もかわいらしいので(笑)、そこが重なるんじゃないでしょうか」
実は岡部さん、今回の脚本を手がけるふじきみつ彦さんとは15年来の付き合いで一緒に舞台を作る仲間。「おもしろくなるまで書き直す、ホンの力を信じている脚本家」だといいます。
岡部「今日はいろいろな場面で笑いも起きて僕自身とても嬉しかったし、お客さんの様子をふじきくんにも見せたかった。笑いにもこだわりがあるので、きっと喜んだと思います」
また「難しかった出雲弁は?」という質問には、“だけん”に手こずったとの答え。
岡部「ついトーンを上げたくなるんですが、出雲弁だとそうじゃない。平坦なんですよね」
方言指導の先生にもイントネーションは標準語に近いと教わり、感情が入る場面でも抑えめ抑えめを意識して練習に励んでいるといいます。
しかし一緒に視聴した小泉凡さんからは「すごく自然な出雲弁でした」との感想。凡さんの祖父の時代まで、小泉家の共通語は出雲弁だったのだとか。
小泉「曽祖母のセツはもちろん、5〜6人いたお手伝いさんも、松江をはじめ出雲地方の出身。東京に住んでいるのに、うちだけ限定で出雲弁が保存されていたといいます」

会場のエントランスホールには、小泉セツ・八雲夫妻を演じる髙石あかりさんとトミー・バストウさんからのメッセージボードも飾られ、来場者の注目を集めていました。また自作の応援ウチワや横断幕を持参した岡部さんファンの姿も。

物語の展開とともに、不器用ながら愛する家族のために奮闘する明治時代の松江人・司之介の活躍に注目しながら、朝のひと時を楽しみましょう。
ライター・エディター。島根県松江市生まれ。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が「神々の国の首都」と呼んで愛した街で、出雲神話と怪談に親しんで育つ。長じてライターとなってからも、取材先で神社仏閣や遺跡を見つけては立ち寄って土地の歴史や文化に親しむ。食と旅、地域をテーマに『BRUTUS』『Casa BRUTUS』『Hanako』などの雑誌やWEB媒体で執筆。