野球少年にとって甲子園は憧れの地。しかし出場できるのはほんの一握りで、多くの選手が甲子園でプレーしたいという思いがかなわぬまま、卒業していきます。そんなかつての夢をかなえる大会が「マスターズ甲子園」。今年で22回目を迎える大会の運営を担ってきた彦次佳さん(46歳)が、これまでの歩みとその魅力を語ります。
聞き手 小野塚康之
この記事は月刊誌『ラジオ深夜便』2025年11月号(10/17発売)より抜粋して紹介しています。
千人が臨む「マスターズ甲子園」
──スポーツにおける「年齢別のカテゴリー名」である“マスターズ”。「マスターズ甲子園」のエントリーは、元高校硬式野球部関係者であることが条件ですが、何歳から何歳まで出られるのでしょう。
彦次 高校卒業したての18歳からで、上限はありません。全国高校野球OBクラブ連合に加盟した学校が各都道府県で予選をし、その優勝校または選抜チームが甲子園本大会に出場できるシステムですね。
多い地域だと40校以上のエントリーがあり、本大会出場まで4試合、5試合はしなければならず、しれつな争いが繰り広げられます。各地の球場は高校野球優先で埋まっていくので、マスターズ甲子園は空いている日で長い期間をかけて予選をしていますね。
──大会のルールはどんな感じですか。
彦次 甲子園と同じ硬式野球で、地方予選のルールは各地にお任せです。甲子園球場で行う本大会は、1試合限りの90分制。3回までを34歳以下、4回以降を35歳以上の選手でプレーすることとしています。試合時間が90分だと大体6回ぐらいまでいくんですけど、ピッチャーがよくて試合展開が早い場合は7回、きちんと9回の裏まで完結した試合も今まで3試合ほどありました。
──そうすると、すべての選手を出場させるのは、すごく難しそうですね。
彦次 そうなんですよ。ベンチ登録は50人までとしていますが、各学校の監督さんたちは、ものすごく上手に選手を使うんです。とにかくベンチ入りした50人全員を、最低でも1回守るか1打席入るかできるよう、心を砕く方がとても多い。本大会は1日5試合を2日間行います。
──10試合ということは20チームが出てベンチ登録が50人。つまり1000人が甲子園の土を踏める。皆さん、どんな様子ですか。
彦次 母校と同じユニフォームに身を包んで、誇らしげだったり懐かしそうにされていたりで。場内アナウンスやスコアボードの名前も喜んでくださいますね。そして毎年、感動して涙を流されるんですよ。僕も、高校時代の思い出話を聞いたり一生懸命プレーされている姿を見たりすると、ジーンときて。
──これまでいろいろな選手が、いろいろな思いで出場されているのでしょうね。
彦次 はい。例えば、強豪校にいたけれど自分の代だけ甲子園に出られなかったから、監督を連れていきたいと目標にされていた方、自分だけ甲子園に出ておらず人一倍強い思いを持っていた方など、背景はさまざまです。
マスターズ甲子園のいいところは、選手の年齢幅が広いので、親子や年の離れた兄弟などでも一緒に出られること。同じユニフォームを着た40代の息子さんと70代のお父さんが二遊間を守っている光景なんかは、見ていてうれしかったですね。

【プロフィール】
ひこじ・けい
マスターズ甲子園実行委員会副委員長・関西大学教授
※この記事は2024年3月2日放送「甲子園の夢よ、もう一度」を再構成したものです。
プロ野球OBも出場する「マスターズ甲子園」。彦次さん自身が「ワールドマスターズゲームズ」に出場したお話や、ラグビー、そしてサッカーへと広がる夢などお話の続きは、月刊誌『ラジオ深夜便』11月号をご覧ください。

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