「深夜便」のオープニング挨拶で私は、近所のスーパーの話をよくします。旬の野菜がそろった店は季節の宝石箱です。全国から運ばれてきたみずみずしい食材が輝いています。その中には、私がかつて勤務した土地の食材も並んでいたり。初夏は、初任地・鳥取の砂丘らっきょう。スーパーに行って食材を手に取ったりしていると、かつて勤務した土地や訪ねた生産者の様子も浮かんできます。
9月の果物売り場では、何といっても二十世紀梨。鳥取放送局に着任して3か月ほどたったころ、梨の収穫作業を取材しました。おいしく実った梨には1年を通して農作業があり、育てる苦労があることを知りました。冬の枝の剪定作業、4月の梨の開花時期は授粉作業などがあります。その後も枝の手入れをしながら、袋をかけて病害虫や鳥などから果実を守り、肌の美しさを保ちます。緑色が濃いものはシャリシャリとした食感が楽しめ、また黄色みがかったものは甘みが強いように感じました。残暑の時期に、たっぷりとした果汁が口いっぱいに広がるときのおいしさは格別のものですね。
私のふるさとの岐阜で梨というと、長十郎梨です。二十世紀梨が青梨と言われるのに対して赤梨と言われています。赤梨になじみがあったせいか、当初は二十世紀梨の味に物足りなさを感じていました。でも今ではシャリシャリの食感にサラッとした果汁の二十世紀梨が大好きになりました。
ところで、梨を食べるときの切り方はどのように切りますか。一般的には、くし形切りが多いですよね。私も、りんごと同じようにくし形に切っていました。それを輪切りで出してくれた人がいたんです。鳥取県在住で、日本の芸術写真の代表的な写真家の一人だった塩谷定好さん。お皿に輪切りの梨が重ねてあり、黒い種が小さく点々とアクセントに。何だかモダンで、新しい果物を食べているよう。既成概念から離れてみる。芸術ってこんなところから生まれるものなのだろうか。そんなことを思った新人時代でした。
(ごとう・しげよし 第1・3・5土曜担当)
※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年9月号に掲載されたものです。
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