きょくてい(滝沢)きん山東さんとう京伝きょうでんつたじゅうにその才能を見いだされ、「耕書堂」で手代(番頭とでっの間の役割を担うもの)として雇われ、後に戯作者として数々のヒット作を世に送り出します。特に知られるのは『南総里見八犬伝』。江戸の大ベストセラーです。今回の「『べらぼう』の地を歩く」は馬琴の足跡を訪ねます。

※この記事はNHK財団が制作した冊子「べらぼう+千代田区観光協会」の取材などをもとに構成しています。


滝沢きち、幼名は倉蔵、のちの曲亭馬琴は明和4年(1767)、下級武士の子として、深川浄心寺門前(現在の江東区平野1付近)、松平信成のぶしげの屋敷内にある居宅で生まれました。蔦重の17歳下ですね。「深川ふれあいセンター」の敷地内に馬琴がここで生まれたことを記す案内板がたっています。

「深川ふれあいセンター」敷地内にたつ案内板など

倉蔵は早熟でした。「5、6歳の頃から母の読む『絵冊子』(浮世ぞうの類)をむさぼり読んだ」(※1)といわれています。17歳のころには馬琴という俳号を用います。一度は医学の道を志すも挫折し、俳諧師として活動していた馬琴は、戯作で身をたてるべく、江戸を代表する売れっ子戯作者で、同じ深川出身の北尾政演まさのぶ(山東京伝)に弟子入りを志願するも断られています。それでも、ふたりは交流を深め、政演は洪水に見舞われた馬琴を家に居候させていた時期もありました。さらには、寛政4年(1792)、26歳のときに、政演に紹介される形で、日本橋で繁盛していた蔦屋重三郎の「耕書堂」で働くことになります。

日本橋通油町(当時)耕書堂跡(現・中央区日本橋大伝馬町)

11月16日に放送された「べらぼう~つたじゅうえい華乃がのゆめばなし〜」では、政演が「縁談の話があったんですよ、瑣吉にどうかって」と蔦重に話すシーンがありましたね。馬琴は下駄げた屋さんに婿養子になります。

※マンションの敷地内にある案内板、石碑。許可をいただいて撮影しました。

馬琴は寛政5年(1793)、飯田町中坂(現在の千代田区九段北1丁目 日本武道館がある北の丸公園から徒歩数分の距離です)の履物商、伊勢屋の婿養子となります。妻のお百は3歳年上で、再婚でした。蔦重が仲介したとする説もあるようです。
住居跡とされる場所は、馬琴がすずりに水を注いで、筆を洗っていたとされる井戸跡として整備されています。(残念ながら、実際の井戸は関東大震災の際に失われたそうです)

馬琴は、子宝に恵まれ、耕書堂や鶴屋(仙鶴堂せんかくどう)などから次々から次へと戯作本を発刊し、次第に人気作者となってゆきます。
この場所に住んでいたのは文政7年(1824)まで。27歳から58歳の間です。大作シリーズ『南総里見八犬伝』が書かれたのは文化11年(1814)から天保13年(1842)とされていますから、この場所で書き始めたことになりますね。


次に訪れたのは当時の神田明神下。現在の千代田区外神田です。JR秋葉原駅からだと徒歩10分弱、外神田3丁目にある「芳林ほうりん公園」。馬琴は文政7年(1824)、飯田町から距離にして2.5キロほど離れたこの付近に居を移しています。

写真左が「芳林公園」

案内板には、馬琴はここで戦国の世を舞台にした『近世説美少年録』などを書き、「12年間、ここで暮らしました」と記されています。


失明しながら完成させた『南総里見八犬伝』

最後に訪れたのは新宿区信濃町、当時の四谷信濃坂です。

JR信濃町駅を出てすぐ、「明治神宮外苑信濃町休憩所」の敷地内に案内板があります。

天保7年(1836)に四谷信濃坂に移った馬琴は、を患い失明するも、息子の嫁、おみちに口述筆記させ、ライフワークともいえる、98巻、106冊にもおよぶ大作『南総里見八犬伝』を完成させました。

ここが馬琴、しゅうえんの地。英語の案内板には「Death Place of Takizawa Bakin」と生々しく書かれています。馬琴は嘉永元年(1848)にこの世を去ります。享年82歳。生涯を通じて、およそ270もの作を著したとされます。著作にすべてをささげたような人生でした。

絵の右に描かれたのが馬琴。
歌川国貞による“馬琴肖像” 滝沢馬琴 『南総里見八犬伝』第9輯より 国立国会図書館デジタルコレクション

千代田区観光協会 ※ステラnetを離れます
「深川ふれあいセンター」は都営大江戸線、東京メトロ半蔵門線「清澄白河駅」から徒歩5分
「芳林公園」は東京メトロ銀座線「末広町駅」から徒歩3分。JR「秋葉原駅」から徒歩10分程度

(取材・文:平岡大典[NHK財団])
(取材協力:千代田区観光協会)

引用、主要参考文献:
高田衛『滝沢馬琴 百年以後の知音をつ』ミネルヴァ書房 引用(※1
増田晶文『蔦屋重三郎 江戸の反骨メディア王』新潮選書


この記事は、NHK財団が制作するPR冊子「『べらぼう』+千代田区観光協会」のために取材した際の情報などをもとに構成しました。
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