2026年1月4日(日)にスタートする大河ドラマ「豊臣兄弟!」。主人公の豊臣秀長(仲野太賀)は、天下人・豊臣秀吉(池松壮亮)の弟で、「もし秀長が長生きしていれば、豊臣家の天下は安泰だった」とまで言われた天下一の補佐役。天下統一という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡を描く下剋上サクセスストーリーだ。放送スタートを前に、制作統括の松川博敬チーフ・プロデューサーに今、豊臣兄弟の物語を描こうと決めた理由を聞いた。
やるなら戦国時代のど真ん中! 秀吉のサクセスストーリーを描きたい
――まず、これまで何度も大河ドラマで描かれてきた戦国時代を、いま描こうと思った理由を教えてください。
大河ドラマの制作統括をできるのはたぶん一生に一回のことだと思うので、やるなら自分が一番好きな戦国時代で勝負したいとずっと思っていたんです。その中でも三英傑をはじめとした戦国時代のど真ん中をストレートにやりたいという思いがありました。2023年の4月ごろに26年大河の制作統括に指名され、八津弘幸さんに脚本をオファーしたのが6月くらいのことでした。
――八津弘幸さんとはこれまで一緒に作品を作ったことはなかったそうですが、脚本をお願いしようと思ったのはなぜですか?
今まで八津さんが脚本を手がけたドラマを拝見してきて、とても大きなスケールの物語を描ける方だなと思っていました。だから、戦国時代のど真ん中をダイナミックに描くなら、八津さんが適任なんじゃないかと閃いたんです。
――そこから、主人公が秀長に決まるまではどのような流れだったのですか?
戦国時代をテーマに八津さんとネタ出しを始めたんですが、もともと僕は三英傑の中でも豊臣秀吉が大好きで。そんな話をしていく中で、秀吉を描く上での新しい切り口は何かと考えました。その議論のなかで、弟の秀長の目線で戦国を描くというアイデアが浮上しました。
――そもそも松川さんが秀吉に惹かれた理由はなんだったのですか?
農民の立場から天下人にまで上り詰めた秀吉の物語は、世界でも類を見ないような、日本が世界に誇るサクセスストーリーだと思います。僕は小学生の頃に秀吉の伝記や漫画を読んで、やはりその出世物語にとてもワクワクしたし、これは僕の持論なんですけど、『太閤記』って少年漫画の原点だと思うんですよね。腕力ではなく知恵と勇気だけでのし上がっていく秀吉の姿に、子供の頃は本当に勇気をもらいました。
ただ、大河ドラマでは、竹中直人さん主演の「秀吉」(1996年放送)以降、他の戦国武将を主人公として描く際に、秀吉が悪役やラスボスになるじゃないですか。元々の痛快なサクセスストーリーを知った上で、晩年の秀吉のダークな一面が描かれるなら面白いんですけど、最近の若い世代はひょっとしたらラスボスとしての秀吉しか知らないんじゃないか? と不安になって。これはちょっと原点に戻ったものを見てもらいたいなという思いがありました。

秀吉の人生を一番近くで見ていた秀長の目線で戦国を描く
――秀吉の描き方を模索する中で、主人公を秀長にした決め手はなんだったのでしょうか。
秀長はあまり知られていない人なので、ある意味ほぼ真っ白いキャンバスであるところが魅力ですし、秀長は秀吉のサクセスストーリーを一番近くで見ていたはずの人。そのほかにも戦国のど真ん中で活躍した有名武将たちを目の当たりにしていたでしょうし、比較的自由に描ける主人公という点で、秀長はかなり盲点だったと思うんですよ。
――では企画が決まってから、秀長のキャラクターを決めていったのですか?
時代考証の先生方が一生懸命調べてくださって、だいぶ秀長の実像が見えてきているのですが、八津さんが作り上げた秀長はほぼオリジナルキャラクターです。破天荒でエネルギッシュな秀吉に対して、秀長は誠実で、堅実で、兄思いの補佐役みたいなイメージが一般的だと思うんです。でも、今作の秀長はかなり秀吉と似た遺伝子を持っているキャラクター。まったく違う特性を持っているわけではなく、似ている面もたくさんあるふたりがお互いを支え合っている感じです。

――その秀長は秀吉を支えながら、何を目指した人物として描かれるのでしょうか?
それは僕らの中でもよく議論になるんですが、難しい話ですね。逆の話をすると、ふたりにはがむしゃらに生きてほしいので、「将来、天下人になってこんな世を作りたい」とは言わせたくないんです。明日死ぬかもしれないと必死で戦った結果、頂点に上り詰めた人たちだと思うので。
第1回の秀吉(藤吉郎)のセリフで「偉くなって家族にも村の連中にも飯を食わしてやりたい、みんなを喜ばせたい、わしはみんなに好かれたいんだ」と言うシーンがあるんですけど、これは豊臣秀吉という人物のエッセンスが詰まった素晴らしいセリフで、個人的にすごく気に入っています。たぶん彼には、隣にいる人を喜ばせたいという思いが原点としてある。秀長の方はなにかと「双方円満」と言いますが、彼はたぶん喧嘩している両者を納得させることに生きがいとやりがいを感じている人なんですよね。だから、人を喜ばせたい秀吉と、諍いを収めたい秀長は似ているんだけど、似て非なるもので、そこが物語の後半でちょっとずつ乖離してくるところまで描ければいいなと思っています。
――最初の脚本が出来上がった時はどんな心境でしたか?
八津さん自身はそんなに歴史に詳しいわけではないので、1年以上かけて資料本を読んでもらったり、ゆかりの地に一緒に取材に行ったりする中で、こういう作品にしたいという議論を重ねてきました。そこでチームで話し合ってきたすべての意図を汲んで書いていただいた第1話だったので、出来上がりを読んですごくうれしかったですね。八津さんはまさに「一話入魂」といった感じです。一話ごと本当に身を削って書いておられるので、各話みどころがありますし、それぞれ違う魅力があるストーリーになっているので、ぜひ全話見逃さないでいただきたいです。
――最後に改めて、松川さんが思う「豊臣兄弟!」の魅力を教えてください。
秀吉が成し遂げたことは偉大なんですけど、調べていくと、一人でやった事業ではないことがわかるんです。同じぐらい優秀で、しっかりした絆で結ばれた分身みたいな弟がいたからこそ、短期間で天下統一を成し遂げられたんですよね。賤ヶ岳の合戦でも、要衝に秀長を置いておいて、秀吉は動き回ったりしています。その戦法って、秀長は絶対に裏切らないという自信と、重責を任せられる力量があるという信頼がないとできなかったと思うんです。
信頼できる人と連携するから、大きなことを成し遂げられる。少年漫画的な展開でいうと、敵が味方になってどんどんチームが強くなっていくというパターンがありますが、秀長と秀吉だから、蜂須賀正勝(高橋努)や竹中半兵衛などの敵が、どんどん味方になっていくんです。そこがこの物語の魅力で、人と人とが繋がって大きなパワーになって、とんでもないことを成し遂げるさまをワクワクしながら見守ってほしいです。
後編では、豊臣秀長役に仲野太賀さんを起用した理由や、秀吉役の池松壮亮さん、信長役の小栗旬さんなど、今作のキャスティングに込めた思いをご紹介します。公開は、1月4日(日)の第1回放送後を予定しています。