1970年の万博でタイムカプセルが埋められたというニュースを見て、私にも大切なタイムカプセルがあることを思い出しました。亡くなった祖母の部屋の整理をしているときに押し入れの奥の奥から見つかった小さな紙箱がそうです。ふたを開けて絶句しました。私が小学生だったころに祖母が買ってくれた鉄道模型だったのです。

商店街の一角にあった鉄道模型のお店。精巧に作られた蒸気機関車や電気機関車が並んでいました。当時の値段で1両1万円ほど。その横に自分で組み立てる電気機関車の模型がありました。少し安いのですが小学生の小遣いで手が出せる代物ではありませんでした。

ショーウインドーを食い入るように見つめる姿を祖母は見ていたのでしょう。その年の誕生日、祖母から手渡された紙箱の中に電気機関車のキットが入っていたのです。歓喜の声を上げた私。ところが母が「こんな贅沢ぜいたくなものを子供に与えてはいけない。返してきてください」と言いだし、紙箱は取り上げられてしまったのです。涙を流せば前言を撤回してもらえるのではとも思いました。それもかなわず、祖母は、その模型を販売店に返品しに行くことになったのです。

それから30年。亡くなった祖母の押し入れの中から、その箱が、当時の包みのまま現れたのです。ほとぼりが冷めたころに私に渡すつもりだったのかもしれません。しかし、中学、高校と進むにつれて趣味も変わり、鉄道模型の話をすることもなくなっていました。そうした姿を見て、押し入れの奥からプレゼントを再び持ち出すチャンスを失ったのかもしれません。そして他界……。

長年、押し入れにしまわれていた孫へのプレゼント。祖母の思いがありがたすぎて、いまだに手を付けることができません。箱のまま手元に置いてあります。私にも孫ができました。鉄道模型に興味を示し始めたとき、私はその箱をプレゼントしようと思っています。小さな紙箱のタイムカプセルに、祖母と私の思いを詰め込んで。

(はたけやま・さとし 第1・3木曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年7月号に掲載されたものです。

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