今週は月曜日に「手のひらを太陽に」が生まれ、嵩(北村匠海)は一躍有名作詞家に。健太郎(高橋文哉)の依頼で始まったテレビの「まんが教室」出演で顔も知られるようになって、どんどん忙しくなります。一方のぶ(今田美桜)は仕事も辞めることになり、満たされない想いを抱えていきます。そして仕事の忙しさを口実に(?)漫画を描かなくなった嵩との間にとうとう亀裂が……「何ものにもなれんかった」というのぶの悲しみ、辛さは胸に迫りました。そんな一週間を振り返りましょう。

もちろんネタバレですのでご承知おきください。


「お前にしか描けないものを描くのは苦しいか? それでも逃げちゃだめだ」

「ミミズだって、オケラだって、アメンボだって
みんな、みんな生きているんだ トモダチなんだァ」
たくや(大森元貴)「なんか漫画みたいな歌詞ですね。ほめ言葉です……すばらしいです」
その場で作曲を始めた。
(大森さんの歌で「ぼくらはみんな生きている♪」を聞けました)
※大森元貴 振り返りインタビュー

昭和39年の春、のぶたちの暮らす長屋の部屋では、レコードから「手のひらを太陽に」が流れ、メイコ(原菜乃華)の子どもたちも一緒に歌っていた。「NHKみんなのうた」にもとりあげられ、広く知られるように。

そんな嵩には多くの仕事が舞い込んで大忙し。健太郎に向かって
「おれがさ、漫画家の仲間たちからなんて呼ばれているか知ってる? “ファイティングやない”。頼まれたら断れずになんでもやっつけちゃうから」
日曜日なのに嵩は仕事に出かけて行った。

次は「手のひらを太陽に」を歌った歌手、白鳥玉恵(久保史緒里)からリサイタルの構成を頼まれる。
「歌と踊りを入れて、簡単なストーリーでつなぐのよ」
無理だ、という嵩だが玉恵に見つめられて結局引き受けることになる。

嵩が売れっ子になっても、のぶは変わらず会社勤めを続けていた。
いつ辞めたっていいんだから、もう大丈夫だから、と嵩に言われ、少し寂しそうなのぶ。

一方、八木(妻夫木聡)は会社「九州コットンセンター」を設立した。
嵩とのぶがお祝いに行くと……ガード下にいた少年アキラ(木月アキラ/齊藤友暁)に再会。その会社で働いていた。さらに兵隊時代の粕谷(将暉)宣撫班長(田中俊介)まで!

そこへ訪ねてきたのは蘭子(河合優実)。
フリーランスのライターをしている蘭子は、八木の会社の商品、ビーチサンダルの宣伝文を引き受けているが、八木から、君にしか書けないものを、と言われて突き返される。これで3度目らしい。
八木「柳井、お前は漫画、描いてるのか?」
他の仕事で忙しくて、と言い訳する嵩に
「お前にしか描けないものを描くのは苦しいか? それでも逃げちゃだめだ。漫画は描き続けろ」


「だから、私、絶対っていう言葉、遣えないんです」

のぶは上司から肩たたきにあい、会社を辞めることになった。
女子社員は若くて素直で、結婚したら家庭に入る、ことを求められていた時代だった。
がっかりして家に帰ったのぶの目に入ったのは、玄関にある白いハイヒール。
玉恵が訪ねてきていた。
「ついでにね、衣装もデザインしてほしいの。……大丈夫よ、こんなに私のことわかってくれる嵩さんなら!」

それを聞いて、ちょっとムッとしてうちに入ってくるのぶ。
「今日、会社をクビになりました」
嵩は言葉がない。

意気消沈しているのぶは、父・結太郎(加瀬亮)の帽子に向かって
「お父ちゃん、うち、なんでこんながやろ」
嵩「今までは苦労を掛けたけど、もう大丈夫だから。今度はぼくが頑張るから」
その背中に向かってのぶは「うち、苦労らぁて一ぺんも思うたことない」とつぶやくのぶだった。

もやもやを抱えたのぶは義母、登美子(松嶋菜々子)のところでお茶を一服。
「少しは心が落ち着いたかしら」
そこへ客が入ってくる。登美子のお茶の教室の弟子たちだった。
のぶが嵩の妻と知ると「作詞家のやないたかしさんのお嫁さんですか!」
登美子は日ごろから嵩の自慢をしているようだ。

一方、蘭子が書いていたビーチサンダルのキャッチコピー。八木に突き返され続けていたが、ようやくOKが出た。
そこに粕谷が「絶対」という言葉を入れたら? と提案するが……
蘭子「私、絶対って言葉、遣いたくないです。その言葉、ダメなんです」
蘭子の顔をじっと見た八木は「このままで行こう」

キャッチコピーはOKした八木だったが、今度は蘭子が書く映画評に意見を言い始める。
「初めの頃は良かったが、近ごろは……最近の記事は、けなしてばかりいるね」
蘭子「賞賛しても読者の目をきませんから」
八木は重ねて、注目されれば、それでいいのか?監督や俳優をこき下ろして楽しいか? と問う。
蘭子「世間はそういうの喜ぶんです」
八木「試写室でもあら探しばかりしているんじゃないか? そんな見方をして一番不幸になるのは映画を愛しているキミなのに」
八木をキッとにらむ蘭子。
蘭子「八木さんはどうなんですか? いつもニヒルなことをおっしゃって、誰にも心を開かない、家族も持たない、そんな方に愛とか言われたくありません。失礼します」
八木が……固まった。

その夜、のぶと嵩の部屋で夕ご飯を食べながら蘭子が言う。
「八木さんってなんでああなんですか? 人が気にしていることをグサッとえぐるように言いますよね」
嵩「ああ、確かに昔からそういうとこあるね」
のぶ「八木さんは思いやりのある情の深い人やき」
家族については大変な思いをしたらしい、と嵩が話す。
蘭子「うち、どうしよう……」

蘭子は八木に謝りに行く。
「この間は、すみませんでした」
「ん?」
蘭子「私、かっとなってしまって……八木さんのこと、何も知らないのにわかったようなこと言ってすみませんでした。ご家族は、戦争で?」
八木「出征するとき、妻と子には、絶対に生きて帰ると約束した。やっとの思いで復員してきたら、ふたりは福岡の空襲で死んでいた。何のために戦地で生き延びたのか、わからなかったよ。だが、東京へ来て、アキラのような孤児たちに出会って、こんな俺でも、もう一度彼らのために生きてみようと思えたんだ」
蘭子「私にも……私にも絶対に生きて帰ると言ってくれた人が、いました」
八木「そう、その人は?」
蘭子は小さく首を振り「だから、私、絶対っていう言葉、遣えないんです」


「天才に化けるか、凡人で終わるかは、苦しくても続ける努力ができるかどうかだ」

鉛筆を削りながらため息をつくのぶ。
「こんなに家におるの初めてやき、何したらええかわからん」
嵩「ずっと働き詰めだったんだから、のんびりしなよ」
嵩が描いていたのは会社を設立した八木に渡す、お祝いの絵だった。八木は絵の中で子どもたちに囲まれてにこにこしている。

のぶ「蘭子、恋をしちゅうがやないろうか?」
嵩「え? 八木さん?」
ガラリと戸が開いて蘭子が現れる。
「ご心配なく。私は一生恋愛らぁはせんので」
と、後ろから登場してきたのは健太郎。
「今日はNHKのディレクターとして柳井先生にお仕事のお願いに参りました!」

健太郎が持ってきたのは「まんが教室」というテレビの企画。
のぶ「おもしろそう」
いつものように最初は断ろうとしていた嵩だったが、結局引き受けることになる。

いよいよ出演の日。もちろん当時は生放送だ。
白黒の画面に嵩が映った! のぶ・蘭子・メイコと子どもたちがそろって見守る。

番組では嵩が絵描き歌でカバを描くが……あんまり上手うまくいかず、司会の落語家(立川談楽/立川談慶)にいじられて終わった。
(当時の実際の番組「まんが学校」では立川談志さんが司会でした)

一緒に「まんが教室」の放送を見ていたメイコたち親子がうちへ帰ろうと表へ出たところに、嵩が戻ってくる。
失敗してちょっとしょんぼりしている嵩に向かって、子ども2人が
「テレビ見たよ」
「おじちゃん、元気出して」
嵩「2人に言われたら元気100倍だな」

御免与町から羽多子(江口のりこ)が上京してきた。
「のぶ、来たで」
連れてきたのはなんとコンタ(今野康太/櫻井健人)くん!
パンい競争で千尋(中沢元紀)が譲ってくれたラジオを、のぶと嵩の家に、と担いで持ってきた。

コンタは朝田家の場所で食堂をやりたい、と言う。
店の名前は「たまご食堂」。
戦地で殻ごとバリバリ食べた、あのゆで卵の味が忘れられない、と。そして卵を分けてくれたあの、老婦人のことも。
「わしは、食堂を開いたら、腹をすかして困っちゅう人には金がのうても食わしちゃろうと思うちょります。どういても、あの時の恩返しを誰かにしたいがです。平和な世の中になったけんど、日に日にそんな思いが強うなりました」
羽多子「しょうがないねぇ。よっしゃ。及ばずながら、あても、たまご食堂手伝うわ」

羽多子に会いに姉妹と孫たちが集まってくる。羽多子は幸せそうだ。
東京で暮らすように勧める姉妹に、まだみんなに頼りにされているから御免与町でがんばる、という。
見ていたのぶは、お母ちゃんも、蘭子もメイコも、みんな、お父ちゃんに言われたとおり、自分の夢を追いかけてちゃんと掴んだ、と言ったあと「うちは何しよったがやろう」。

そこで嵩の番組が始まった。
少し寂しそうに画面を見つめるのぶだった。

木曜日、長屋にたくやが訪ねてきて、新しい仕事の話を持ってきた。
「ぼくが音楽を担当しているテレビドラマの脚本を書いてみませんか?」
今度はドラマの脚本だ。アマチュア無線を題材にしたホームドラマ、という。(実際、やなせたかしさんは当時「ハローCQ」というテレビドラマ[1964年・東京12チャンネル(現テレビ東京)]の脚本に携わっています)

たくや「ちなみに今どんな漫画を?」
実は、嵩はしばらく漫画を描けていない。
「自分の本業が何かわからなくなっちゃって。断るのも苦手だしね」
たくやは、帰りがけ、のぶにそっと「申し訳ない」と頭を下げるのだった。

のぶ「嵩さん、漫画、だいぶ描いてないでね」
嵩「目の前の締め切りで手いっぱいだよ」

八木のところに宣伝用のイラストを届けたのぶは、嵩のことを言ってみた。
「八木さん、うちの人はこのまま漫画を描くのを辞めてしまうんでしょうか」
八木「天才は、スランプの波も大きいからな……天才に化けるか、凡人で終わるかは、苦しくても続ける努力ができるかどうかだ」


「精一杯がんばったつもりやったけど、何者にもなれんかった」「のぶちゃんはそのままで、最高だよ」

嵩はとうとうドラマの脚本も書くことになった。
喫茶店で担当者との打ち合わせを終えたところで、女性たちに囲まれる。
「まんが教室の先生!」「やないたかし先生、です、よね?」
出勤前のホステスさんたちらしい。サイン攻めにあっている。

それを近くの席で見ていたのぶは「たっすいがぁのくせに、生意気や」。
“プチお怒り”で、先に席を立ってしまう。

嵩がうちに帰ると、勢いよく包丁で大根を切るのぶがいた。
「怒っちゃあせん」
嵩「でもちょっとうれしいよ。のぶちゃんでもやきもち焼くんだなって」

のぶ「最近の嵩さんは、おかしい。無理やり仕事を詰め込んで忙しゅうしてない?」
嵩「それは、のぶちゃんに苦労をさせないために」
のぶ「私のため。ありがとうございます(トゲだらけの言いぶり)」
このままでは目の前の仕事に流されて描きたい漫画も描けなくなってしまう、というのぶ。
嵩「漫画は……もういいんだ。どうせ売れないし。どうせぼくは代表作のない漫画家だよ」
おもしろいものを描きたいが、描けない、何もアイデアが浮かばない、という。

のぶは、まるで息子を叱る母親のよう。
「嵩さんが本当に描きたいもんはなに?」
嵩「もともと才能ないんだよ」
のぶ「なに言うが?……うちのせい? うちが嵩さんを追いつめゆうがやろうか」
嵩「これはおれの問題なんだよほっといてくれ!」
明日締め切りの原稿に向かう嵩だった。
のぶ「うちがおると仕事に集中できんでね」

のぶは長屋の向かいの蘭子の部屋に枕を抱えて家出する。
「えらい近距離の家出やね」
一枚の布団に蘭子と枕を並べて夜を迎えるのぶだった。

金曜日。冷戦状態ののぶと嵩。
近距離別居生活は継続中だ。

喫茶店で登美子と羽多子、のぶで話をしている。“家出”したことを話すと、
登美子「嵩はああ見えて、頑固なところがあるから」
嵩の名前は中国の嵩山スウザンからつけたものだという。
のぶ「私は仕事を辞めて何もしていないのに……」
登美子「そんなこと負い目に感じずに、嵩と本音でガンガンやりあいなさい。それは立派な妻の仕事。のぶさんにしかできないことよ」
羽多子「それはちっくと嵩さんが気の毒ですき。うちの娘はハチキンですき」
目を真ん丸にした登美子が「そうでしたねえ」と笑う。

のぶは“山登りに”出て行った。
仲直りしたかった嵩だったが……ひとり、困っている。
漫画を描こうと紙を取り出してみたりして……。

一方、山頂で「やっほー」と叫び「手のひらを太陽に」を歌うのぶ。
「たかし~!ぼけ~!」

嵩は屋村(阿部サダヲ)のあんぱんを食べた幼い日を思い出していた。
描きたいものは……

夜、そぉっと帰ってきたのぶが見たのは、時間も忘れて漫画を描いていた嵩だった。
のぶ「ごめんなさい」
嵩「ほんとに山に登ったの? どうして?」
のぶ「嵩さんの名前、中国の嵩山からつけたってお義母かあさんから聞いて。山の空気吸うて久しぶりに自分の身体が風になるがを感じた。それで、やっと素直に自分と向き合えた。
昔、おとうちゃんに言われたが。夢はおおきいば、えい。おなごも遠慮せんと大志を抱きやって。その言葉を胸に無我夢中で走ってきたつもりやった。でも、うちは何者にもなれんかった。教師も代議士の秘書も会社勤めも、何一つやりとげれんかった。嵩さんの赤ちゃんを産むこともできんかった。嵩さんは子どもが欲しかったやろうに、うちは……」

嵩「そんなこと、誰のせいでもないよ。僕たち夫婦はこれでいいんだよ」
涙があふれるのぶ。
「けんど、けんど時々思うがよ。うちは何のために生まれてきたがやろって。精一杯せいいっぱいがんばったつもりやったけど、何者にもなれんかった。そんな自分が情けなくて。世の中に忘れられたような、置き去りにされたような気持になるがよ」

嵩「のぶちゃんはずっと誰かのために走ってた。いつもいつも全速力で。のぶちゃんがいなかったら今のぼくはいないよ。のぶちゃんはそのままで、最高だよ」

嵩が描いた絵をみるのぶ。
「たまるか~。この太ったおんちゃん、最高やね。あんぱん配りゆう」
そこに描かれていたのはあの、初代のアンパンマン!
※中園ミホ 振り返りインタビュー


金曜日、1つ危機を乗り越えたのぶと嵩でした。この日、あの戦争の時(6月19日放送の59回)以来、テーマ音楽はなく、最後にテロップが流れました。
来週は「愛するカタチ」。
「ボクは愛する、あなたを、キミを、トンカツを、愛することがうれしいんだもん」
やなせたかしさんの詩集『愛する歌』の中の「愛する歌」ですね。それにしてもこの詩、「あなた」「キミ」(「土」「水」と続いて)「トンカツ」(!)ですよ。破壊力ハンパないです。ほいたらね。