大河ドラマ「豊臣兄弟!」の主人公は豊臣秀長。戦国の世を駆け抜けて天下人となる豊臣秀吉(池松壮亮)を、補佐役として支え続けた弟だ。その秀長を、青年期・小一郎の時代から演じる仲野太賀は、大河ドラマ6作目にして初主演となる。どのように向き合いながら撮影に臨んでいるのか。そして、彼が考える秀長の人物像とは? 放送に向けて収録が進むスタジオを訪ね、率直な心境を聞いた。


「誰かのために動く」小一郎が、兄とともに戦国の世を駆け上がっていく物語です

――今回の「豊臣兄弟!」で演じられる小一郎(豊臣秀長)を、どのような人物と捉えていますか?

小一郎の隣には、常に兄の藤吉郎(後の秀吉/池松壮亮)がいるのですが、藤吉郎はカリスマ性があって、野心家で、大きな夢を抱いていることを堂々と口にする人物。そういう“熱源”のような存在が近くにいて、その兄の背中を追いながらも、小一郎は自分の役割をしっかりと見極め、自分のやれることを粛々と全うしていく人だと思います。

――物語は、小一郎が農民の時代から始まりましたね。

小一郎は、侍の世界に対して、いろいろ複雑な感情を持っていたと思います。第1回でも描かれていましたが、初恋の相手である直(白石聖)との間に身分の違いがありますし、自分たちの故郷が野盗に襲われても何もできずに悔しい思いをしました。どうしても自分の力では越えられない壁、階級差というものにぶち当たって、すごく葛藤を抱えていたと思うんです。その中で、藤吉郎が手を差し伸べてくれて、侍の世界に足を踏み入れることになる。それまで何者でもなかった人が、戦国時代の激流の中に入る。あらゆることが新しい世界で、新しい経験で、新しい景色をめいっぱい感じながら、兄とともに駆け上がっていくんだと思います。

――秀長が主人公の物語で、秀吉のようにいろんな作品で取り上げられてきた人物ではないことで、演じる上での自由度も感じていますか?

おっしゃるとおりで、織田信長(小栗旬)や秀吉と違って、ご覧になる方の先入観もそれほどないでしょう。演じる上でも自由ですし、おそらく脚本家の八津弘幸さんが台本をお書きになる上でも、すごく自由度の高いキャラクターになっていると思います。

――自由度の高いキャラクターを演じるために、どんなことを意識していますか?

演じる上での柱を、どこに持っておけばいいんだろうか? ということは、僕自身も悩んだりもするんです。小一郎らしさ、秀長らしさみたいなものを、どう抱きしめながら演じていくのか、と。

ひとつは横に藤吉郎がいることがすごく大きいですね。ドラマの見え方として藤吉郎に振り回されているようでも、小一郎は常に「この人のためにどう動けばいいんだろうか」と考えている。例えば、争っているふたりの人間がいたら、双方にとっていちばん良い解決策は何か? を模索するのが小一郎という人なので、この「誰かのために動く人」というのは演じる上での指針になっています。

そういう意味では、自分の中から出てくるエモーションよりも、他の登場人物から感じるものに対するリアクションや反応を大切にしたほうが、小一郎らしさが出るのかなと思っています。
もうひとつは、「豊臣兄弟!」は秀長の物語だということ。いわゆる戦国武将を描くときに信長の物語だったら信長の目線で描くし、秀吉だったら秀吉の目線になると思うのですが、これが秀長の物語、というところが大事だと思うんです。

――秀長の物語、ということで考えたことは?

信長や秀吉のような天下人にしか見えない景色はありますが、天下人には見えなかった景色も絶対にあるはずだと僕は思っています。秀長が「秀吉の最高の補佐官だった」という視点でいうと、もしかしたら、そちらの方がドラマを見る人にとっては共感性が高いのかもしれない。誰もが100人に1人の天才やカリスマになれるわけではないですから。

その「天下人には見えなかった景色が見えていた人」というのが、秀長を描くうえでとても大事なのではないかなと思っています。秀吉は上を目指そうと、どんどん目線が上に向くけれど、横にいる秀長は目線を下げて、今、農民はどんなことを考えているんだろうか、家臣はどういうふうに感じているんだろうか、ということを考えられる。

史実では、秀長は秀吉よりも先に死んでしまいます。秀長には特別な個性はなかったかもしれないけれど、民のことを日ごろから考えていた相棒がいなくなったときに、秀吉の中に何が残ったのか……。秀長のような人物が天下人となる秀吉をどれだけ支えていたのか、というところまで話が進んだら、この物語が描かれることに大きな意味があるんじゃないかなと思いました。


「これは本当なのか」と思いつつ、部屋をぐるぐる歩き回りました

――改めての質問になりますが、大河ドラマの主演オファーが届いたときの気持ちを聞かせていただけますか?

本当にもう、信じられないというか……。オファーを聞いたシチュエーションをお話しすると、出演していた映画の撮影が終わって車で帰るとき、助手席に乗っていたマネージャーさんが視線も合わせずに「太賀くん、これ」と1枚の紙を渡してくれたんです。受け取ったら、そこに「NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』主演のお願い」と書いてあって。それを見た瞬間に「えええええ!!!」と、崩れ落ちそうになりました。漫画の表現でよくあるじゃないですか、衝撃的な展開になったときに口から「○×□△」と出てくるような(笑)。まさに、あの状態でした。

頭の片隅には「いつか大河ドラマの主役を張れるような俳優になりたい」という思いはあったんですけど、そういう大きな夢や目標って、現実の自分からは、どうしても遠かったんですよね。それが急に目の前に現れたことで、その日は体温が2度くらい上がったような感覚でした。家に帰って、いただいた企画書を持ちながら「これは本当なのだろうか?」と、部屋の中をぐるぐる歩き回った記憶があります。

――大河出演は6作目で、その経験があるからこそ「主演」という重みを感じられたのでしょうか。

そうですね。何度か大河ドラマに出演させていただいているので、その大きな作品の真ん中にいらっしゃった先輩方の姿が、すぐに思い浮かびました。その当時、いや今でもそうですけれど、皆さんがとても頼もしくて、かっこよくて。大河に出演したことのある役者だったら「主演を務める人は、どんな景色を見ているんだろうか」「どんなふうに役を全うしていくのだろうか」という想像が、絶対に膨らむと思うんですよね。(オファーを受けて)そのころの自分の気持ちを思い出しつつも、なかなか実感が湧かなかったですね。

――身近なところでいうと、織田信長役の小栗旬さんが「鎌倉殿の13人」で主演されていますが、声をかけてもらったことなどはありますか?

小栗さんとご一緒することが決まってから、ふたりで食事に行かせていただいて、当然のごとく「僕、どうしたらいいですかね?」と相談しました。こちらが聞いたことには全て答えていただいたのですが、その中でも印象的だったのは「大変なこともあると思うけれど、甘えるという意味ではなく、スタッフみんながあなたを支えようとしてくれるから、それを信じて、太賀自身は楽しく、堂々と演じ切ればいいと思うよ」と言ってくださったことです。それがすごく心の支えになっています。


池松さんとは、考えていることがお互いに手に取るようにわかる

――公私ともに親しくされている池松壮亮さんが兄の藤吉郎を演じるということで、心強い部分もあったのでは?

池松さんとは、出会ってから過ごしてきた時間がすごく長くて、非常に仲良くさせてもらっています。何を考えているか手に取るようにわかるし、兄弟を演じる上で何も役作りはいらないです。台本や1つのシーンの解釈で立ち止まることがあっても、お互いにわざわざ相談することも必要ないくらいです。

大河ドラマ「豊臣兄弟!」で兄弟を演じるという、この巡り合わせは、僕らが出会った10代のころに、そんな未来は全く想像していませんでした。でも、強烈な縁があることはお互いにわかっていて、一時期は、むしろあらがいたかったくらい(笑)一緒に過ごす時間が続いたんです。でも、ここまで来たら「もう、そういうことなんだな」って、多分、お互いに運命を受け入れた気がします。

――プライベートでもお芝居の話をされるのですか?

芝居の話というより、自分たちが見た作品の話を出発点にして、いろんな話をしています。お互いの意見があるから、それを出し合って認め合い、ときに「それは違うんじゃないか」と反発し合い、常に意見交換をしてきたので、お互いのことをとてもよくわかっているふたりだと思いますね。多分、今回の大河ドラマのスタッフが、いちばん我々の関係性にびっくりしているんじゃないかな。


青春活劇として、いろんな世代に楽しんでほしい

――八津さんの脚本を読まれて、どんな印象を持っていますか?

読んでいてすごく痛快です。制作統括の松川(博敬)プロデューサーが最初からおっしゃっていましたが、ある種の青春活劇で、小一郎・藤吉郎が戦国時代を駆け上がっていく様を見て、ワクワクドキドキできるような物語になっていると思います。戦国時代の物語って、どうしてもナーバスになりがちですけれど、小一郎の目線で話を追うと、もうちょっと身近で、ご覧になっている現代の人たちにとっても感情移入しやすい作りになっているんじゃないでしょうか。

――家族の場面はホームドラマのような楽しいやり取りもあったのですが、そういったシーンはどんな雰囲気で撮影されていますか?

すごく和気わき藹々あいあいとやっています。家族を演じている皆さんも、とても素敵すてきな俳優さんばかりなので、撮影が進むにつれて家族のグルーヴというか、空気がどんどん積み上がっていって。うんの呼吸のようにものが生まれている気がします。
「豊臣兄弟!」は非常に親しみやすい始まりになっていると思うので、「どんな年代の方でも楽しめる大河ドラマ」をみんなで目指していきたいなと思っています。

――お母さんの、なか(坂井真紀)がすごく大らかに家族を見守っていて、その優しさがあったから小一郎もあんな性格になったのかなと思いました。

藤吉郎が久しぶりに家に帰ってきたときも、あれだけ家族に迷惑をかけてきた息子なのに、帰ってきたことへの母親としての本能的な喜びを見せていました。母親にしてみればやっぱり息子は息子なんですよね。何よりも、これから兄弟が大志を抱いて侍として生きていこうとするときに、どこまでも背中を押してくれるような存在だし、兄弟ふたりにとってすごく精神的な支えになっていくんじゃないかなと思いますね。

――これからも撮影が続いていきますが、俳優としてどんな思いで過ごしたいのか、最後はどんな思いになれていたらいいなと思っているのか、教えてください。

これまで積んできたキャリアの集大成じゃないですけど、自分がこれまでいろんな人から学んだこと、もらったもの、それらを惜しみなくこの「豊臣兄弟!」に注いで、やれる限りのことをやり尽くしたいな、と思っています。

僕にとっては当然“人生の1本”になると思うんです。でも、個人的な目標としては、参加しているスタッフやキャストの方々にとっても大切な作品、やってよかったとみんなが思える作品になれたら最高だなと思っています。もちろん、視聴者の皆さんにとっても。

豊臣秀吉の話はたくさんありますが、秀長の目線で戦国時代を描いていく話はなかなかないので、これまで皆さんが知っているような豊臣の歴史も、新しい角度で楽しめると思います。そういう意味でも、新鮮な戦国時代劇になるんじゃないかと思いますので、ぜひ楽しんでいただきたいです。